第六感の云々
……?
「天使か?」
「だな。ちょうどいい、第六感と【セトラ】の使い方を教える。とりあえず見てろ。」
「馬車止めるよー」
馬車が止まり、ウァサゴが外へ出た。
空を見ると予想通り、三体の天使が此方を向いている。
「武器は持たなくていいのか?」
「生憎今は手持ちがない。」
「私の使うか?」
「要らん。刀なんぞ重くて使いづらい。」
そこまで重いか?まあ個人の好みか。
「まず、第六感ってのは既存のモノを増幅させる技術だ。魔術と違って、無からは何もできん。」
ウァサゴがその場で跳ねる。
「…だが、基本的に"何もない"なんて状況になる事なんざ早々ない。」
「その場合、魔術より燃費が低くも出力も高「んん゛っ」…高い場合がある第六感のほうが、使い勝手がいい。」
言い方変えたな?魔術師のプライド的な物なんだろうか。
「例えば…【拡大】」
そう唱えた次の瞬間、ウァサゴは空へ跳んでいた。これは、私がやった奴か。
「【巻雲】」
跳躍が終わった…が、落ちてこない。浮遊か?そんな事を考えていたらウァサゴに向かって天使が光を放ってきた。
「よく観とけ……【夢遊】」
私は、ウァサゴを視界から外さなかった…はず。だが、ウァサゴが文言を唱えるやいなや、三体居た天使は胸に開いた穴から金色の血を流し、地に落ちた。
「これが【セトラ】だ。"俺の"、ではあるが。」
「…何を、したんだ?」
「ちゃんと観てたか?」
「多分…」
「…まあいい、じきに日暮れだ。飯でも食ったら少し手合わせでもしてみるか。」
「それまでに、さっきの俺の動きを反芻しとけ。」
…了解。
…私だけで考えてもしょうがない。ブエルはあまり詳しくないらしいし…バルバトスに聞いてみるか。
「で、俺のとこに来た、と。…だが、俺に聞いても無駄だぞ?」
「何故だ?」
「俺はインナーだ。魔力が使えるわけじゃない。」
「そうなのか?」
「他の二人や嬢ちゃんみたいに能力は無いが、今の嬢ちゃんにゃ負けんよ。」
…今度、手合わせでも頼んでみるか。
「との事だったので」
「だからって、今から戦おうって相手に聞きに来るか?」
「いいだろ?」
「はぁ…いいだろう。どのみち教えることに変わりはない。」
「前にも言ったが、第六感は既存のモノを増幅させる事が主だ。だが、根底には魔術がある。だから魔術の才があるやつは第六感も使えるはずだが…魔術のほうが便利とか言うやつが多くてな。第六感も使える魔術師は多分いない。逆も然りだ。」
「発動方法は…感覚だな。」
「随分と曖昧な…」
「本当だぞ?というかアウターなら感覚で使える。お前もやってただろ?」
まあ確かに、あれはやってみたらできた、という感じだが……やってみるか。…前の私がやれた事だ。記憶に無くとも、体は覚えているはず。
体に巡る魔力を感じる、それを集めて、集めて…どうするんだ?
「そうじゃない。もっと散漫でいい。」
…集めた魔力を、また巡らせる。…あの時はどうやった?最初の跳躍は、空を跳ねたのは…無我夢中で覚えていない……無我夢中…か?
試しに、跳ねる。跳ねる。跳ねる。跳ねる。
「……そう、それでいい。」
跳ねる。跳ねる…
「【拡大】!」
跳ねる!
風を切って、私はまた空へと身を投げた。
「えっと…【巻雲】!」
唱えるやいなや、身体が空で止まった。便利だな。
「できてたか?」
「上出来だ!その感覚忘れないうちに殴るぞ!精々抗ってみろ!」
「は?」
下にいたはずのウァサゴが目の前に現れた。空を蹴って離れ…
「【飛風】」
見えない何かに殴られた。いや、風圧か?そこそこ痛いな…多分手加減してくれてるんだろう。
「一応言っとくが、【セトラ】は使うなよ!何が起きるかわからん!」
「了解!…さて、抗ってみるか。」
【星海を越えて】で背後に飛んで…
「遅い」
なんで跳んだ直後に後ろに…
「っ…」
突き出された拳を身を捻って避ける。
「遅いと言っただろ?」
―――思いっきり蹴飛ばされた。だがこれで多少距離を置けr「そろそろ慣れたか?」また背後か!
「残念だがっ!」
背後を殴る。避けられた。
「まだ!」
足で蹴る。軽くいなされた。
「慣れてないっ!」
膝で蹴る、手で受けられた。
「な!」
頭突きしてみた。…もうそこには居なかった。
「刀は使わんのか?」
後ろから声が聞こえてくる。
「抜く暇が無い!」
回し蹴り…少し跳んで避けられた。
刀を収納から取り出すには最低でも三秒欲しい…が、その三秒で叩き落されるのが関の山か?
…思い付いた事はある。できるかどうかは分からないが…そもそもこの思考も読まれてるだろうが…やってみる価値はある…と思う。
刀を抜く姿勢に入ったか。抜き切るのに何秒かかる?その間の俺への対処はどうするつもりだ?
…少なくとも、刀を抜くつもりなのは間違いない。
「――【直感】」
さあ、何をする?何だろうと受けて立ってやる。
「【星座に手を伸ばす】、【拡大】!」
その体勢のまま突っ込んでくるか!居合切りの真似事でもする気か?面白い!
刀を収納から取り出す。少なくともウァサゴにはそう見えているだろうし、実際それができるようにした。狙いが違うだけだ。
刀を抜い…いや、手に何も持ってな「【灯光】!」
――夕暮れの空に閃光が光る。
…刀を抜くふりをして、【灯光】を撃った。かなり出力を上げたから、一瞬視界を奪う程度には…
「いい作戦だが、発動までがちと遅いな。」
「……避けられてたか。」
「警戒してたからな。それに、あのままお前が刀を抜いても、奪えるぐらいには集中していた。」
「――これ以上策は無い。」
「…そうか。」
「というわけで普通に斬る!」
普通に刀を取られた。
「言ったろ?刀抜いても奪えるって。」
「…降参だ。」
今の私じゃ勝つ手は無さそうだ。