裏世界での不思議な冒険:息を止めて空を見て
「それでは、裏世界への潜航を開始します。」
「操縦は頼んだ。」
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渚が乗り込んだSCが、結界を超えて反対側へと落ち始める。
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「…10秒後、裏世界の領域へと侵入します。」
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葉月の告知通り10秒後、表より遥かに濃い魔力へと渚達は浸った。
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水に潜った…いや、水よりなんかねっとり?して抵抗がある。心なしか息苦しいし…
「機体損傷…無し、高濃度魔力による障害…無し。引き続き潜航可能です。」
さて、外の様子は…
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SCの狭いコックピットに備え付けられているモニターから、渚が外の様子を見る。
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…結構暗いな。単純に夜だからなのか、それともそういう物なのか?
お、魚だ。…水が無いのに泳いでる……あ、鳥に食われた。
「予想通り、魔力で変質してるみたいだな。」
「…そのようですね。目測ですが、体を構築している一部の細胞が、恐らく魔力に由来する物になっているようです。」
「私…は例外だが、魔力回路とかもそうじゃないのか?」
「はい、表の生命も魔力によって大なり小なり変質しています。ですので、裏の生命は表より更に変質している可能性が高いですね。」
「…恙なく話が進むと良いんだが…!」
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渚が何かの気配を察知すると同時に、SCが消える。
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壊れたら困るから仕舞ったが……
「【天の川】!」
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渚が飛ばした剣の中を、細長い何かがすり抜けていく。
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なんっか狙いが定まらない!…魔力が濃すぎて魔術の精度が落ちたか?
「ちっ!」
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渚が何かに食らいつかれる。
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「【灯光】!」
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渚の指先に、微かな明かりが灯る。
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明るくならん!…というかこいつ、蛇か?蛇にしては、随分と愉快な見た目をしてるもんだ、な!
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渚が蛇を蹴った事で、蛇が渚を口から離す。同時に、渚の体を奇妙な感覚が襲う。
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…重力が表から裏に切り替わったか。……というか本当に暗い。
来るか。…転移で逃げるか?いやでも、魔術が大分弱まってる以上転移がそもそも成功するかどうか…
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再び突っ込んできた蛇を、体表に触れて受け流す。
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…うわ、なんかヌルヌルしてる。…装束で出力上げるか。
「――「星灯」!」
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白い装束が展開される。
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「――【天の川】!」
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一つだけ、剣が飛びでた。
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寧ろ出力が下がってる!?……装束解除、【天の川】。
…狙いこそ定まらないが、剣の数は元に戻ったな。となると……
「すぅっ――――」
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息を吸う。
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…やっぱり、私の魔力とここの魔力は、微妙に違う。
純粋な濃度もあるが、それ以前に質が違う気がする。
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再び蛇が渚へと向かう。
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…私の魔力と、この場所の魔力を反発させずに混ぜ合わせる。
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渚の頭上に三重の環が浮かぶ。そして、渚の瞳が金色に染まる。
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……本来は世代交代を経て変質していくのであろう進化の過程を、私なら数秒ですっ飛ばせる。
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環はより白に、瞳の色はより深く明るい金色へと変化していく。
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…息苦しさと抵抗が消えた、行ける。
「【天の川】!」
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無数の剣が蛇を襲う。
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想定通り…いや、ちょっと出力上がったか?
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剣が突き刺さった蛇が、渚へ噛みつこうと口を開く。
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「…残念。素手だと思うか?」
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渚の手には、格納庫から取り出した抜き身の煤が握られている。
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「――「星灯」、夜!」
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装束の展開と同時に夜を放ち、それを正面から食らった蛇は二つに裂けた。
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…葉月の予測だと、裏世界では魔力を介する物に制限がかかると言っていたが…この感じなら大丈夫そうだな。




