4:狂花、狂い咲き
…花の匂い……唯…か…?
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渚の視界に映った唯の周りには、黄色い花弁が舞っていた。
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「唯…それは……」
「渚ちゃん、下がってて。」
「でも……」
「――「風詠」」
――――
唯の装束が展開された。
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…草原を吹き抜ける風の様な……でも、唯は装束を使えなかったはず……
――――
風が吹き始める。大量の石や土を巻き込んでいるが、渚の周りにはそういった物は飛んで来ていない。
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……第六感…じゃない、魔術のそれだろ、これは。
「【消え往く風】」
パキン
…私じゃない、唯に集中してるのか?
………唯が行ってるんだ、私が動かなくて…どうする……
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渚は、地面にへたり込んだ動けない。
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駄目か……
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身体の破損、そして純粋な疲労。この二つによって渚は体を動かせずにいた。
――――
◇
渚ちゃんはもう動けない。私が何とかしないと。
パキン
…目視が条件かな。私ならすり抜けられる。
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風に混じって飛んでくる石や土、大天使の意識はそれに割かれている。
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……この距離なら!
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勿論、大天使が唯に気づいていない訳ではない。
――――
!
――――
唯が魔術を解くと同時に大天使は唯の方へ体を向け、残る右手での直接攻撃を仕掛けた。
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…危ない、気づかれてたか。位置がバレてる?…でも、私が解くまでは向いて来なかった。
ならもっと近くで……
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大天使は再び、発動可能な一瞬を見送った。
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……私が、何とかしないと、
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渚の時とは違い、致命的な唯一点のみを狙った
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逃げた私が、進まないと、
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「破損」
――――
パキン
――――
その音は、唯の能力解除と同時に鳴り響いた。
――――
◆
「唯…」
――――
唯が纏っていた装束が消えていく。
唯の胸に、黒いモザイクが掛かっている。
「…ごめんね」
唯の体から力が抜け、花弁になって消えてしまった。
――……
「……………ははっ。――「星灯」」
――――
魔力が足りない為発動できない筈の装束を、諸々を踏み倒しつつ、煤の力を巻き込む事で強引に発動。
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……謝るのは私の方だ。涙すら出せない、私の方だ。
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渚の頭上に、再び三重の環が現れる。
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……何だ、笑えるのか。
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大天使の口角が上がる。それに釣られて、渚の口角も上がる。
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……心臓が鳴る。
同じ轍は踏みたくないが…多分踏むんだろうな。
…心臓が鳴る。
能力を発動してない、となるとまた狙っているんだろう。
心臓が鳴る。
……相打ち上等、絶対に殺す。
「夜」
――――
黒い斬撃が、大天使へ飛んでいく。大天使はそれを避けたが、渚が眼前に迫る。
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…右腕が残ってたか。
「【五つの星】」
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飛ばした剣は大天使の右腕と渚の左腕に突き刺さった。
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動かないなら要らん。
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大天使は狙いを定めた。
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させるか。
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大天使の能力発動前に、渚は大天使の脇腹から煤を突き刺した。
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「夜!」
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大天使の体内で、魔力が発射されずに燃えている。
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我慢比べとっ!行こうか!
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渚が大天使の頭に二度、頭突きをする。
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…こんだけ動けるなら、さっさと動いてくれよ。唯が……死ぬ…前に……
「…夜!」
――――
再びの発動、大天使の体のあちこちから黒い炎が噴き出る。だが、装束は髪を残すのみとなった。
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…装束が切れるまで後何秒だ?もうこれ以上は動けない、後は……
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唐突に、渚の視界が暗くなる。
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右目も潰れたか。…いや、なんで音がしてない?
…あー、そうか。……ここまでか。
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僅かに残っていた装束が消え始める。
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……心臓の音がしない。それでも耐えた方か……
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既に顔の半分近くが崩れた大天使の、口元が吊り上がる。
――――
…あーそうか。煽るか、私を?
「【星座に手を伸ばす】」
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渚が宝石を咥えた。その宝石から、徐々に色が抜けていく。風前の灯火に、僅かだが燃料が加えられた。
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「【五つの星】」
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五本の剣が、大天使の頭に突き刺さる。その内幾つかは身体を貫通し、渚に刺さった。
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……ここまでか。
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剣が刺さったまま、渚の体が落下を始める。
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…いい気味だ。相打ちで良かったよ、本当。




