IX:金と環
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大振りの隙を刈られ、弾かれた煤が宙を舞う。
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…最悪だ、
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空いた手で刀を握る。
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どうやっても押し負ける、それに装束はもう消える。……やらかした。最初から煤を抜いていれば夜で何とか出来たのに…
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大天使が渚に突っ込む。同時に、渚の装束が消えた。
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「はあっ……」
眩暈がする…力が抜ける……最悪だ、本当に最悪だ。時間を稼がれた、装束が切れた。
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渚の体から力が抜け、大天使に抵抗できずに上空へと押し込まれていく。
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…地面が遠いな。宝石…を取り出す魔力も無いか……
そういえば前線は……別の大天使と戦ってるのか。なら援護も期待出来ないな。
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大天使と渚の位置が反転しようとしている。
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…そういえば、天使はどうやって飛んでいるんだろう。魔術的な物なんだろうか。
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大天使の金色の瞳は、何も見ていない。
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僅かだが魔力は使ってるか。…この輪自体が魔力回路…いや術式回路なんだろう。
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渚の黒い瞳は、大天使のそれらを見ている。
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……翼は関係あるのか?いや無さそうだな。あくまでもシンボルとしてあるだけなんだろう。攻撃に転用してくる奴は居たが。
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大天使と渚の位置が入れ替わり、渚の背が地を向いた。
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…ただでやられてたまるか。
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渚は大天使の顔に手を伸ばし、大天使の顔に僅かな傷を付けた。同時に、渚は落下を開始する。
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金色の血……魔力…
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渚は、手に付着した金色の血を舐め取った。
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無味か…だが魔力は取り込んだ。これを呼び水にして、最低限動けるだけの魔力を戻す。
髪が靡く感覚、腕が風を切る音、眩暈が収まる、思考が戻る。
滞空は出来ない、そもそも魔力も碌に無い。…なら神に縋ってみようか。
これから神を倒そうというのに神に縋るのもまた可笑しな話だが……
光、浮遊、天使。
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瞼を閉じる。
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物は同じだ、天使の光も、私の魔術も。
……魔力が戻ってきた。この魔力は大天使のそれが触媒なんだ、同じ様な事ぐらいできるだろ。
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地上が近づく。
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………来た!
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渚の髪が下を向く。渚が瞼を開き、金色の瞳で空を見据えた。
頭上には、微かに光る環が一つ浮かんでいる。
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…魔力は出涸らし、煤はどっか行った、武器は……避けられて落ちてた剣一本。
――上々。
さて、空でどれくらい動けるのか……
上昇、下降、錐揉みにバク宙…ブレーキが利き辛いが、これぐらいなら【巻雲】で制御出来るかな。今は無理だが…
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大天使が地に足を付けた。同時に、渚も降りた。
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…煤は見当たらない、少なくとも今探し回って見つかる様な場所には無いか。
……大天使が闇を吐く前に仕留める。
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地を蹴り、同時に空へと飛び出す。
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機動力は張り合えてる、消耗度合いは私が上だが損傷度合いは向こうが上。…頭を潰せば勝機はある。
この剣がなまくらじゃ無かったら、もう少し択もあったんだが……自業自得か。
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互いに武器を構え、競り合う。
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…よし、張り合えてる。でも膂力差はまだしんどいな……
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渚が大天使の腹に蹴りを入れる。
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傷に追撃しても怯まないか。私でもちょっと怯むのに。
…真似でもしてみるか。
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渚の剣が二つに分かれ、それぞれが不揃いのダガーに変化した。
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一本で駄目なら二本で押す。大天使の刀は割と長いから、懐に入れれば…
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幅広の左手のダガーで刀を防ぎ、細長い右手のダガーで大天使の頭を狙う。が、避けられた。
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…流石に避けられたか。なら手を落とす。
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渚は刀を握っている右手に左手のダガーを振りかざし、手首を断ち切った。
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刀は落とした。私のと同じだとしても、また出すには時少し時間掛かるんじゃないか?
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大天使が左手で渚を殴ろうとした。が、渚は大天使の頭上へ飛び、それを避けた。
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…互いの環に実体が無くて良かったよ。今みたいな時に凄く邪魔だっただろうから。
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頭上から右手のダガーを突き刺し、続けざまに左手のダガーで首を落とす。
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――塵に変わり始めたか………
「はぁー……」
疲れた。もう少しの間は動けない…か。…回復したら、さっさと前線に戻ろう。




