第一段階:VIII
―で囲まれてるのは地の分です。
夜明けまで、後20分。
「いい?フロントより先では転移は使えないの。だから無暗に突っ走って、離れた所でバテても助けに行けないから。覚えた?」
「覚えた。」
この話は二度目だ。
「無茶はしない事、一人で突っ走らない事、装束は…誰かが補助出来る所に居ないなら控えて。分かった?」
「分かった。」
四度目。
「宝石の使い方は?」
「覚えた。…この問答は後何回やればいいんだ?」
「…最後に一つ、私と怜は後衛だから、前衛の貴女にまで気を回せない。クラインの人達も同じだから。」
「ブエル達と顔見知りだったのか。」
「まあね。……一度繋がった縁は切れない物よ。」
…あまり仲がいい訳でも無いんだろうか。
「ほら、さっさと行きなさい。貴女、前出るんでしょ?」
「…一応、凜も気を付けて。」
「貴女も気を付けて。それじゃ。」
夜明けまで、後10分。
「おはよー」
「おはよう。調子はどうだ?」
「ばっちり!渚ちゃんの方は?」
「普段通りだ、問題無い。」
無理をしている感じはしないな。…前にウァサゴが言っていた事が本当なら、唯は一度フロントから退いた。…その原因が「大丈夫だよ。」
「………」
「…大丈夫。進むって決めたから。」
「……なあ、折角だし私と一緒に行かないか?」
「いいね!それじゃ、今日はよろしく!」
そう言った唯からは、微かに花の香りがした。
夜明けまで、後……
「開けろ!」
隊長がそう言うと同時に、黒い草原側のシャッターが開き始め…
「…総員、駆け足!」
号令と共に、地鳴りの様な音を立てながら草原へと駆け出した。
…前にフロントに来たときは見えなかったが、今なら見える。逆光の中で聳え立つ建物が、そこから飛び立つ天使が、こちらに飛んできている大天使が。
話には聞いていたが、東の果てにある廃都市が神の根城になっている、というのは本当らしい。
「片方は人型、もう片方は異形型…しかも大きいな。取り合えず様子見を…!」
左右から同時に飛んできた光を盾で弾く。…妙だな、
「左の大きいのはともかく、右の人型は結構距離離れてないか?」
「たしかに~。渚ちゃんどっち行く?」
「隊長は…大きい方に行くみたいだな。殆どの人は左に逸れたようだし、残りで右のを相手取るべきだろう。」
そうして、残った人達と共に右の人型へと駆け出した。
…おかしい。流石におかしい。
「だいぶ走ってるよな。」
「向こうの攻撃はっ!ちょいちょい飛んできてるんだけど、ね!」
大天使が時折飛ばす光を弾きつつ、大天使の元へ走っている…が、一向に距離が縮まない。そういう能力か?確かに進んではいる筈……
「渚ちゃんの盾いいな~」
「使うか?唯に回すぐらいの余裕はあるぞ。」
私は盾を浮かせて光を受けているが、唯はダガー1本だけで光を弾いている。意外と器用だ。
「うーん、大丈夫!今の内に肩慣らしでもしとくよ。」
これで鈍っているのか。…流石大隊長、肩書は伊達じゃないか。
…徐々に攻撃の密度が上がり始めている。この調子だと捌き切れなくなるな。
「盾回す。」
「…ありがと。ちなみに渚ちゃん、何か考えあったりする?」
「……空間に作用しているなら、煤で無効化できる…と思う。試してみるか。」
煤を鞘から抜き、私の前方に構える。
「どうだ?」
少し離れた唯に聞く。
「近づいて……無いんじゃない?」
前に同じ様な事をやった時は、前面から放射されていたから対策になった。だが今回は効果がない…となると、ここら一帯に作用しているのか?
「唯から見て私はどうだ?」
「あんまり離れて…いや離れ始めた。」
――――
急いで駆け寄る。
――――
「…一定以上の距離を取ると駄目なのか?」
試しに取り出した剣を少し前に投げてみる。…私から離れていくにつれ、大天使と同じぐらいの大きさになってしまった。
「渚ちゃん、何とかできそう?」
「…多分、私が装束を使えば。」
「まだ渚ちゃんを消耗させたくない、って凜ちゃんとか隊長さんなら言うかな。」
「……でも、このまま足止めされるのも良くないだろ?」
「まだ試せてない事あるし、それだけやってみていい?」
「それでも駄目そうなら使うぞ。」
「渚ちゃん、目閉じて。」
目を閉じる。同時に、唯に手を掴まれた。
「――【消え往く風】」
…攻撃が止んだ。確か透明化だったか……それで搔い潜れている、という事は目視が条件か?
――――
手を引かれながら、二人は大天使の足元付近にたどり着いた。
――――
…かなり近づいたな。そろそろか?
(まだだよ。もうちょっと。)
……こういう時は便利だな。大天使にばれないのか?
(大丈夫みたい。……解除まで、3、2、1)
「【二十一つの星】!」
――――
大天使が二人の姿を認識すると同時に、その周囲を21の剣が囲んだ。
――――
全面を閉じた。攻撃はさせない。
――――
全ての剣を大天使へ向けて飛ばし、大天使の動きを止めた。
――――
これなら煤も当たるだろ。地面を蹴って、
「巻雲」
更に空へもう一歩踏み込んで、
「拡大」
大天使の右半身を切り裂き、返す刀で頭を横に断ち切る。
さて次は第二形態……あれ、変化しない?
――――
大天使の体が、塵の様になって消え始めた。
――――
倒した……?うん、倒したな。ならさっさと凜達の方に向かうとしよう。




