夜明け前
「へくちっ」
「…少し肌寒くなってきたな。」
「ね~」
ソーゲムを出て、二か月程が経った。気づけば、辺りは赤や黄色に彩られていた。
「…まあでもさ、そろそろだろうし。ね?」
「……分かった。もう少し付き合おうか。」
「やったー!」
最近は、よく唯に遊びに誘われる。…ファディカは比較的暇だが、他の都市の人達はかなり忙しそうだ。
「…でも、川は止めないか?今体調を崩すと後に響くぞ。」
「でも亮さんいるし。」
「……それでもだ。水場以外なら、どこでも付き合うから。」
「むー……分かった。それじゃ、ついて来て!」
唯に手を取られて、走り出す。
…もう少し、こうしていられたら良いな。まあ、こう言う事を言ったらその通りにならない物だが。図書館の本も、大体そういう感じだったし。
事が起きたのは次の週だった。アウトサイダー、魔術局、その他幾つか…それら全てが、フロントへ招集を掛けられた。
…地下の大広場?の様な所に、百数人程度が集まっているが、意外と空間には余裕がある。…もっと大人数を想定していたんだろうか。
勢力毎に分けられる様で、私は凜と怜と同じ場所に居る。亮さんは遅れてくるらしい。
『やあ諸君!総隊長の天道だ。今日…及び、これからの数日間、宜しく頼む。』
壇上から、声が響いた。
「…天道?」
「あ、そういえば言ってなかったっけ。亮さんと隊長は兄弟よ。」
…確かに、顔立ちは似てる…か?
「…魔術師では無いのか。」
「それでも十分すぎるぐらい強いけどね。何なら装束も使えるし。」
『諸君の中には、どうして今この時期に天使を、神を打倒せんとするのか、疑問に思っている人が居るかもしれない。』
『理由はマイナス寄りの物と、プラス寄りの物の二つだ。まず一つ。これ以上、俺達の戦力は増えない。』
『ソーゲムに居た魔術局総勢42名、その回収に成功したはいいが、その内戦える者が誰一人として居なかった。これが、一つ目の理由だ。』
「…貴女の落ち度じゃないわ。あの日止められなかった私達の責任よ。」
「君の責任でもないよ。十年前、誰一人として止められなかった、僕達大人の責任さ。」
亮がやって来た。
『二つ目だ。喜べよ~プラスの話だ。ここフロントより西に、俺達の敵はもう居ない。』
『ヴィグラントを味方に付けた。ディストレストとは和解した。神仰宗はぶっ潰した。』
『ちょうど、ここにも来てくれているしな。』
俄かに、広場が沸いた。アウトサイダーの喜びの声と、ディストレストの雄叫びの様な声が混ざったんだろう。…秘匿されていたとはいえ、互いに敵だったのは事実だ。
『…これ以上言う事はない。決行は明日、朝焼けと共に出る。解散!』
「…初めまして。だよな?」
「そうだな。…改めて名乗らせてもらう。アウトサイダー総隊長の、天道義一だ。以後よろしく。」
「……で、私に何か用か?」
…演説の後、私の元に彼がやってきた。
「なに、ただの雑談だ。さて……お前の記憶は、いつからある?…俺は、大体7歳までは覚えてるな。大分朧気だが。」
「…最初に起きた時。それより前は覚えていない。…これが異常な事は分かってる。」
…ここまで見逃されてたし、まあ聞いてくるか。
「……どういう訳か、こんな狭い世界なのにお前の出自は詳細不明だ。それでも、ここまで追求しなかった。どういう事か分かるな?」
「―――友達もいる、仲間もいる。私が手を切る理由はない。」
「なら、こっちも手を切る事は無い。明日はよろしくな。良い夢見ろよ~」




