V:黒
黒い、黒い草原が広がっている。度々聞く、東の領域とやらだろうか。この黒い草原と、緑の草原の境界線上に…随分と機械的な壁がせり立っている。
「渚さん、」
「――悪い。急ぐ。」
…こうしている場合じゃなかった。今は大天使の相手だ。
大天使は私達と同じく、壁の上で…止まっている。その代わり、周囲に光の結界…いや、粒子か?を展開している。動かない理由は分からないが、好機…という訳でもないらしい。
「遅れました、魔術局です。」
「お、やっと来たか……って、局長さんは?」
「魔力切れで寝てます。」
「そういや、さっきの稲妻局長のか。」
怜が大隊長らしき人と話している。…なんとなくだが、柄が悪そうな感じがする。嫌悪感は無いが。
「そこのは…新入りか?」
「渚だ、よろしく。」
「坐摩だ、よろしくな。で、連れてきたって事は戦力にはなるんだろ?」
「…まあ、足手纏いにならない自信はある。」
「現状は見たまんまだ。あの領域を形成している粒あるだろ?あれが天使の光と同じっぽくてな。まー近づいたらいい感じに日焼けできるって感じだ。」
「突破方法は?」
「前回は局長さんに頼って、粒貫通できる魔術撃ってもらった。んだが…」
ふむ……
「【七つの星】」
「お」
剣を飛ばす。……案の定、突入した瞬間に消えた。
「あちゃー」
「…見た所粒子の数にも限りがありそうだし、物量で潰せないか?」
「そりゃ無理だと思うぞ。生成し続けてるから。」
む……
「…お前、接近戦行けるか?」
「そっちの方が得意だ。」
「ならいい。俺と隊長で切り開くから、その後は頼む。」
「…その隊長は?」
「………あ、」
周りを見ても、そのような感じの人がどこにもいない。
「あの野郎帰りやがった!?」
「……は?」
「……またですか。」
怜がすごいげんなりしてる。坐摩さんもげんなりしてる。もしかして、普段からこんな感じなのか……
「…しょうがない。怜、お前も付き合え。」
「初撃はお願いしますよ。」
「あいよ。」
彼が、剣を構えた。
「――炭火」
そう言うと、黒い衣?を羽織って、いや、色が変わって……燃え切った炭の様な色になった。
「【祝い言】、【恨み言】」
「【拡大】、【拍車】」
そういって飛び出していった。随分と速……まさか突っ込むのか?
「あれ大丈夫なのか?」
「問題無いですよ。大丈夫だから突撃したので。」
「ならいいんだが…」
粒子の範囲に突入して……接触した粒子が消えていく?そのまま突撃して、大天使に一撃を当てた。大天使の体に、亀裂が………
……おえっ
「…気持ち悪い……」
「貴女もですか………離れましょう。渚さんは坐摩と一緒にファディカへ……」
「お前は……」
「…僕はやれるだけやってから逃げます。」
…そこまで青白い顔してるのに、置いていけるか。
「…急いでください。」
「……【星は先へ】」
坐摩さんと…
「なっ――」
「…どうやら私のほうが軽傷だからな、先に行ってろ。」
怜をファディカへ送った。明らかに顔色が悪い奴と、大天使に最も近い人が優先だ。
…さて。
「何をしたのかは知らないが、どうせ碌な事じゃないだろ?」
……返答はない。相変わらずだな。対して動かないのが幸いか?…煤を構え、転移で距離を詰める。さして動かないお陰で、攻撃が容易なのが…どことなく不安ではある。
1、2、3、4、5…五体全てを切り落とした。…本当に抵抗がない。どうなって……
「…!」
周囲を舞っていた粒子が黒く変色し始めた。そして、大天使の体も……闇か。だが、もう達磨にしたぞ?
――そうか、そういう事か。どうやらこれは虚像で、本体じゃなかったらしい。……ちょうど真上か?その辺りに、多分、いる。嫌悪感、というか何と言うか、そんな物を感じる。……向き合いたくない感じだ。
…目を閉じて、上へ飛ぶ。……まあ斬るなら、流石に目視はしたい。目を開け――
「――ひゅっ」
……嫌だ、嫌だ、嫌だ、いやだ、いやだいやだいやだ。心臓が跳ねる。吐き気がする。嫌悪がある。気持ち悪い。…見たくない。
何かの力、違う?違くない、そうじゃない、斬る、もう
「………ん」
白い天井……室内?ファディカの病院か?横に誰か居る……
「…唯か。久しぶり。」
「久しぶり~。調子どう?」
「……まあ、概ね問題ない。」
「良かった。なんかね、亮さんが凄い焦ってたんだよ。なんとか障害?だとかなんとかで。」
「…怜と坐摩さんは?」
「どっちも元気だよ。も少し様子は見ないとらしいけど。」
「そうか。…無事で良かった。」




