この世界の在り方について:はぐれ者達
馬車の中に座ったら、彼の方から質問が来た。
「…何から知りたい?」
「…2998年以降、何が起こったのか。」
ウァサゴは何かを思い出すような素振りをして、おもむろに傍らの本を差し出した。
「ここ何百年かの年表だ。読めばお前の疑問は大体解決する…だろう。」
「ありがとう」
受け取った本を膝に乗せ、表紙を開く。
…さて、一体何があった?
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西暦2916年
第七次世界大戦終戦。「Void」の使用により都市二つが消え、ProjectMMも頓挫した
西暦2978年
崩落現象が観測された
西暦2998年
崩落が停止
「神」を名乗る正体不明の存在が"天使"を使い人類に戦争を仕掛けた
西暦2999年
巡天隊が結成。天使への反撃を開始
西暦3001年
当時最大の都市、シタデルが大天使■体の襲撃を受け、壊滅
以降、この■■■■■■■■■■■■
西暦3003年
五年間に渡る戦争の末、当時の天使83万0431体全てを討伐。これにより「神」が撤退
13柱の大天使のみ未討伐
西暦3059年
インナーとアウターの軋轢により内外戦争勃発
西暦3064年
内外戦争終戦。内外戦争中にインデンスが独立
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「……?」
「まあ、そういう顔になるのも仕方ないな。」
ウァサゴは混乱する私を見て、笑いを堪えるように口元を押さえた。
「…つまり?「神」とやらがその"天使"とやらを使って人類を滅ぼしたと?」
「厳密に言えば滅んじゃいないがな。東の果てが取られた程度だ。」
内外戦争…か
「…こんな世界でも、人は人と戦うんだな。」
「人間ってのはそういう生き物だ。」
「そういえば、【アウター】と【インナー】というのはどういう意味だ?【アウター】は先程聞いたが…」
「そりゃブエルに聞け。じきにあいつの準備も終わるだろ。」
「呼んだ?」
噂をすれば。
「じゃ、後は頼んだ。」
「へいへい」
「…幾つか聞きたいことがある。先に質問してもいいか?」
「いいわよ。私の用事は結構すぐ終わるし。」
「だったら、貴女の用事を先に終わらせてくれても…」
「んー、実はさっきの話聞いてて、その感じだと説明しといたほうがスムーズに事が進むのよ。」
「…なら聞く、【アウター】と【インナー】とは何だ?」
ブエルは少し考え、口を開いた。
「アウターとインナーってのは魔力が使えるか、使えないかの区別ね。使えるのが【アウター】で使えないのが【インナー】」
「…魔力?」
「あーそっからか……魔力の説明もいる?」
「……後で聞く。」
「おっけー。…んじゃとりあえずこれ開いて。」
彼女は本…辞典か?を差し出した。やけに薄い。
「その事典開いてみて。」
言われるがまま開いてみる。
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…視界が変わった?馬車の中にいた筈だが…気づいたら、満点の星空を眺めていた。
足元には…魔法陣?が静かに光っている。どうしてこんな場所にいるんだ?
本を開いたのが原因か?
「【■■】よ…」
誰だ?……声が出ない。
「適正は……【星】に【光】……■■を考えれば妥当か…」
よく聞き取れない…【星】?【光】??この声は何を言っているんだ?
気配もしないし姿も見えない…そもそもこの声はどこから聞こえてくる?
「心象は…悪くない。【名も無き彗星】を渡そう…」
【セトラ】?この声は本当に何を言っているんだ?
「…今は……理解しなくてよい……」
おや?私の声が聞こえているのか?
「質問には……答えられぬが……な」
なら一つ問おう。お前は誰だ?
「私は……君が開いた本の作者……【■■】を冠する者だ」
…肝心な所が聞き取れない。
「…きっと、彼が妨害しているのだろう……なに、君も何れ会うだろう。」
彼?いずれ会う?
「……時間だ。二度と会うことはないだろうが……」
待て、まだ聞きたい事が…
「君の旅路に【祝福】を。そして願わくば…」
「【彼女】に自由を」
その先は聞こえなかった。
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目が覚めた。ブエルに話を聞いたところ、私が本を開いてから10秒も経っていないらしい。
……さっきのは何だったんだ?
「…ブエル、貴女が初めてこの本を開いた時、何か妙なことが起きなかったか?」
「特に何も?少なくとも渚ちゃんみたいにフリーズはしなかったけど。」
「………」
「…疑問が片付いたら、もっかい事典開いてみて。それ次第でちょっと今後の方針決めるから。」
「…了解……だが、少しだけ待っていてくれると助かる。」
まだ情報を整理しきれていない。所々絶妙に聞こえなかったが…彼、とやらの妨害だろうか。
あの妙な空間に干渉できる…となると、あの声と同格かそれ以上か……
「――飯できたぞ!」
「今行く!…渚ちゃんも早めにね。」
「了解……」
「…渚ちゃん、明らかに様子が変よ。」
「変なもんでも見せたんじゃないのか?」
「そんなことしないわよ。仮にも魔術師の卵なんだから。…変なものは見たかもしれないけど…」
「魔術師ってのもまだ仮だがな。」
「……少なくとも第六感は持ってるだろ、しかもかなり鋭い奴を。」
「んーでも、魔術の素質もありそうなのよね…」
「だったら、後輩の嬢ちゃんのとこに連れてきゃいいんじゃねえのか?」
「そうもいかないのよ…今魔術局結構大変なことになってるし、あの子達だけで頑張ってるところに渚ちゃん連れて行ってみなさいよ、てんやわんやの大騒ぎになるわよ。」
「俺も同意見だ。下手すりゃ魔術局じゃなくてアウトサイダーに連れていかれるぞ。」
「…どっちにも手は回せるが…俺たちの立場的に手出しができないのがな…」
「……少なくとも当分は、私達で面倒見るべきよ。少なくとも自分で何ができるのかあの子が自分で理解するまでは。」
「…ブエル、お前たまーに面倒見いいよな。たまーに」
「母性的なあれだろ」
「そーいうウァサゴも随分と肩入れしてるじゃない。あんま人と関わらないあんたがあそこまで肩入れするの初めて見たわよ。」
「…まあ、ここに連れてきたのは俺だからな。面倒は見るさ。」
「そういうとこ、妙に律儀だよなお前さんは」
「……とりあえず飯寄越せ、割合は8:2にしてくれ。」
「おいおい、王道は6:4だろ?」
「3:7派」
「「論外」」
「好み合わないくせにこーいう時だけ息ぴったりなんだからもー!」
……考えていても仕方ないな、一先ず放置だ。
「すまない、遅れた。」
「お!やっと来たか嬢ちゃん!とりあえずそこ座れ!」
「…ちなみに、カレーの米とルーの割合は何派だ?」
バルバトスが小声で聞いてきた。
「……食べた事がない。」
「じゃあ食べてからもう一回答えてくれ、返事を楽しみにしてるぞ。」
「ん?食べた事が無い?」
「…そもそも物を食べた経験が特に無いんだが……」
…空気が凍った。
「…とりあえず食べろ、…次目指すところは決まったな。ブエル」
「後で亮君に連絡しとく。…手が空いてるといいんだけど。」
…突然、ウァサゴとブエルが忙しなく動き出した。
「…私、何か変な事を言っただろうか」
「……気にするな嬢ちゃん。とりあえず食べな。」
いい匂いがした。何かを食べるのは初めてだ。
読んでくれてありがとうございます
今んとこどうですか?読みやすいですか?面白いですか?