燃え殻:III
痛い。…流石に無茶をし過ぎた。身体の状態は……概ね問題無しだが、闇の影響で少し鈍い上動けない。おまけに魔力回路は闇の侵食で使い物にならない。大天使は……
「…ちっ」
切り落とした筈の手足が戻っている。…闇で体の一部を再構成したのか?動きも特に鈍った様子は無い……
――これ以上私はどうしようもない。出来る事と言えば、早い所凜か怜が助けに来てくれるのを待つだけ……か。
『――無――?』
通信?…上手く聞こえない、侵食の所為だな。聞こえない以上、聞かせる事も出来ないだろうし……
大天使が腕を振り上げた。…直に止めを刺す気だろうか。
「――【飛風】!」
見えない何かが大天使の腕を刎ねた。あれは、前にウァサゴが使った……
そんな事を思っていたら、突然目の前に人が現れた。転移…か?
「聞こえる?私と君、さっき会ったんだけど覚えてる?」
「……聞こえてるし、覚えてる。」
…ここに転移して来た時、状況を教えてくれたアウトサイダー……確か、大隊長…のはず。
「…見た目の割に元気そうだね。大天使片付けるから、ちょっとだけ待ってて。」
彼女…名前知らないな…が、大天使の前に立つ。
「【拍車】」
そう唱えるや否や、大天使の頭は体から離れていった。…彼女の構えが変わっている。持っている剣で首を撥ねた…にしては早い。…そういう技か?
「死んだ…かな?」
大天使の体が、徐々に崩壊していく。…まあ、大半は闇で覆われていたから、天使のように血が流れるわけじゃないが。
「死んだと思うぞ。」
「で、君、動ける?」
「…四肢の感覚が鈍い、魔力回路使用不可、聴覚が鈍い、視界が暗い。まあ、動けないと言う事だ。」
「OK。」
「…ああそうだ、あまり私に触れないほうがいいぞ。侵食が貴女にまで行きかねない。」
「じゃあどうやって運ばれるつもり?」
「凜に、【星は先へ】とかで…」
「…面倒だし、担ぐ。君、侵食何とか出来るんでしょ?知ってるわよ。」
…担がれた。
「大丈夫か?体の感覚が鈍くなってたりしないか?」
「……今の所問題なし。杞憂じゃない?」
そうなら、いいんだが。
…結局そのまま担がれて、セントラルの病院に運ばれた。…未だ魔術は使えない。闇の侵食をどうにかしたくても、煤を放り投げてしまったせいで、どこに行ったのかさっぱりわからない。
「…もう少し、後先考えたらどうですか?」
「今度からはそうするよ…」
そのせいで、私がある程度動けるようになる…のかどうかも不明だが…とにかく、それまではここに留まる事になるだろう。
「あなた、熱源に突っ込んだのよね?」
「まあ。」
「…の割に、随分と軽傷なのよね……案外出力が弱かったのかしら。」
まあまあ熱かったが……そんな物なんだろう。たぶん。
「とはいえ、怪我はしてるし…【回復の祈祷】!」
………ふむ、かなりマシになった。疲労が取れた…?様な感じがする。
「大分良くなった。…私も使えたらいいのに。」
「適正外の魔術を使うのは危険ですので、できる人に任せるのが一番かと。」
「…それはそうなんだがな。」
さて、体の状況は……まあ、動くようにはなったか。だが、依然として魔術は使えないし、視界は暗いままだ。
「…動けるようになった事だし、煤探してくる。」
「場所の目星は付いていますか?」
「いやまったく。…まあ、投げた方向は覚えてるから、その辺りを探してくる。」
…結局、セントラルの端の端まで行って、やっと外壁に突き刺さっている煤を見つけた。刺さっていた煤を一度抜き、地上の侵食箇所に刺し、
「…すまない。こんな事まで手伝ってもらって。」
「いやいや、感謝したいのはこっちの方だからさ。少しは手伝うよ。」
大隊長…名前を、杉原 雪と言うそうだ…に手伝ってもらいながら、
「…結構重いねこれ。」
「闇に刺してる時だけだ、普段はここまでじゃない。」
「ふーん……【拡大】!」
…何とか抜いた。
「どう?魔術、また使えるようになってる?」
「……ああ。他の箇所の侵食も引いた。」
幸い地上の侵食も、全て煤が取り込んだ?ようだ。…幾つか黒ずんでいる箇所はあるが、大天使の熱で焼け焦げただけらしい。
「それじゃ、私は今回の件の諸々の処理と調査に戻るから。またね~」
振られた手を振り返す。…どうやら今回、都市への被害こそ凄まじかった物の、人的被害はそこまでだったらしい。実際、病院にそこまで人がいなかった。まあ、凜が即座に対処できる程度だっただけで、被害自体はそこそこあるのかもしれないが…そこまで疲弊していなかったのを見るに、精々数十人程度だろう。
…にしても疲れた。気付けば、差し込める光は陽光から月光に変わっているし…というか、この大穴…どう塞ぐんだ?他の都市みたいに、結界でも張るんだろうか。
そもそも、結界をどうやって維持してるんだ?ファディカの外円部にあった機械?を使うのか?…例の術式回路という奴だろうか。
『渚、聞こえる?』
「聞こえるぞ。」
『良かった、魔力回路も戻ったみたいね。』
「何か用か?」
『これから数日、私達ここに泊まり込みね。』
「何か要件でもあるのか?」
『上の大穴、術式回路で結界張るにしても準備までに時間がかかるから、それまで私達で仮の結界張るの。』
「わかった。術式回路の準備が終わるまで、天使をここに寄せ付けない様にする、という事だな?」
『そういうこと。…まあ、精々一週間ぐらいだから。』




