陽炎:III
天使の数が、凡そ半分を切った。それと同時に、大天使が自分で出した炎を纏い始めた。…おまけに、炎の出力も上がっているようだ。
「…怜、そっちの状況は?」
『此方の天使は半数程落としました。』
となると、それがきっかけか。
「大天使の形態が変わった。早めに来てくれると助かる。」
『…急ぎます。』
大天使が纏った炎が、長い上着?の様な形に定まった。……!
大天使の剣に一瞬で周囲を囲まれた。転移して回避。
転移した先に剣を置かれた。空中を蹴って回避。
その先……下から、無数の剣。
回避のしようがない。転移して避…ああ逡巡してる暇もない!
「凜!何とかして援護できないか?!」
『…そこ射程外!』
「了解!……何とかする!」
剣が飛んでくる。
……叩き落しても次から次に飛んでくるのを単独で捌き切るのは、流石にいくら何でも無理がある。
「怜まだか?!」
『……少しだけそちらに向かいます。その際に隙を作るので、何とかしてください。』
また無茶を。
『それと、幾つか足場を。僕は貴女の様に滞空できませんので。』
こっちの防御も手一杯なんだがな。
「…了解。」
やるしかないか。展開している盾五枚のうち、一枚を下の怜に回す。
『…暫しお待ちを。』
暫しも―――『【忙しなく】』
…まずは、渚さんの援護を。
「【祝い言】、【鎌風】……ふんっ」
―――この程度でいいか。……どのみちそろそろ限界ですね。
―――待っ「後は頑張ってください。』…?
状況は……大天使が仰け反り、飛ばしていた剣全てが折れ……今叩くしかない!煤を抜いて大天使の眼前へ転移。そのまま両断――
――し損ねた。だが、左の羽は切り落とせた。…飛行能力が落ちた様には見えないな。羽は飾りか?だが、他の大天使は羽が能力の起点になる事もあったし……とにかく、このまま詰め……!
「怜、何かしたか?」
『天使の殲滅は終わりましたが……』
「じゃあそれだな。…多分だが、大天使が第三形態になった。」
『…再度援護しましょうか?』
「いやいい。何なら離れてくれ。」
大量にあった剣や、纏っていた炎全てが消えた。だが、未だ熱い。しかも、徐々に温度が増している?……いや、大天使の周りの空間が揺らいでいる。陽炎……大天使そのものが熱源か?
「凜、そこから見て、大天使はどう映る?」
『…歪んで見える。陽炎かしら。』
「私は?」
『……大天使ほどじゃないわね。』
……そこまで大天使に近くない筈なんだが。
「どの角度から観測してる?」
『あなたの右後ろ』
大天使は正面だ。つまり、凜と私の間に熱源が………試しに、少し先へ手を伸ばす。
「……っ!」
手を引っ込める。
…ある場所を境にそこから先へ手を伸ばすと、手先が焼けるように熱くなった。……まずいなこれ。
「怜、結界の外に出てくれ。」
『…渚さん一人でやるつもりで?』
「……そうせざるを得ない状況だ。」
…恐らくだが、見えないだけで既に大天使は私に攻撃をしている。剣は知らないが、纏っていた炎は恐らく、見えないだけで存在はしていそうだ。
「………」
なぜこれ以上熱を近づけないのか。私に触れれない訳では無い……まあ確かに暑いが、直に熱に触れなければ耐えられる程度の暑さだ。……我慢比べをするような質でもないだろ。
「【七つの星】!」
剣を飛ば……消えた?溶けるような物でも……いや違う。耐えきれない程のダメージを負ったんだ。多分。となると…少なくとも大天使の周りは、それ程の熱を持っている、という事になる。おまけに、恐らく私はそれに取り囲まれている。…私はどこまで耐えられる?転移で逃げたとして、そこは安全圏か?………どうしようか。
…煤なら行けるか?霧を切れるなら熱ぐらい切れてもいい…はず。だが、私は熱を目視で探知できる訳じゃない。そもそも相手は熱を操作してるんだ、煤を振り回すだけで一切熱を通さない空間を作れるならともかく、私にそんな技量はない。
私が熱をある程度耐えられるなら、転移でもして切り込めるんだが…数秒なら持つか?だが、仮に切り伏せたとして、次の問題はあの闇だ。
もしも闇に切り替わった時、熱が残っていなければいいが…まあ、そこは賭けか。最悪、結界の外へ転移すれば逃げれるだろ。
煤を構え、
『何やって…』
大天使の目の前へ転移する。
「っ!!」
体中が焼ける。怯むな、それこそ――
――振りかざした煤を、大天使に向けて振り抜く。
!
『Inversion complete: 【Light】 into 【Dark】』
体を焼いていた熱が、闇へと変わっていく。
…怯んだ所為だ。僅かに振るのが遅れ、大天使に回避を許した。結果として、大天使の右腕を切り落とすのみに留まる事になったし、加えて直に闇を食らった。…まだ侵食が僅かな今しかない。
力を込めて無理矢理、振り下ろした煤を横方向へ再度振り抜きつつ手を放す。
飛んで行った煤は、大天使の足を両断して、どこかへ飛んで行った。即座に刀を取り出し転移、大天使の胸に突き刺…さらない!頭にすれば良かった。
「【七つの星】!」
剣を残る左腕と頭に突き刺す。刺さらなかったのは速度の違いか?刺さった剣をそのまま動かして、地上へ急降下する。私の膂力は噴き出た闇を食らった所為で鈍っている。流石にこの高度から地面に叩きつければ、最悪撃破できなくても当分は動けなくなる…はず!
…?周囲の闇が集まって……動けない。道連れにでもする気か?…落下速度は変わってないが、腕が動かせない…転移もできなくなったか。…覚悟を決めるか。
大天使の周りに、翼の様な形になった闇が集まりだした。対抗する気か?ならばこちらも推力を上げるまで。刺した剣に加えて、盾で私の背中を押す。
大天使本来の浮遊に加えて、翼の推力……これ以上の加速は見込めないか。
「【星は先へ】」




