終:後を引く闇、刺す光
――眩しい…どこだここ……病院?…寝てたのか?…確か、大天使に止めを刺して…そしたら……そうだ、私は闇に呑まれて…というか、どれぐらい寝ていた?…周りには誰もいないか、仕方ない。
体を起こして、周りを見渡す。…日付がわかるような物はないな。体は……右腕に力が入らない?それに、少し視界が暗いような……闇に侵食された影響か?…右手が使えないのは困るが、足は問題なさそうだ。
左腕に何かが…管がついている。…点滴の類か。動きづらいだけだし…抜いてしまうか。さて、体の状態は……うん、あまり鈍っていないな。そう長い間寝ていた訳でも無さそうだ。目の前にあった服…元々着ていたのに似ているな…に着替える。動きやすくて助かる。
病室の外に出る。…人がいないな、というか静かだ。病院だから当たり前か?とりあえず、外に出ようか。
「【星海を越えて】」
魔術も問題なし。
とりあえず、大天使を倒した…はず、の場所に跳んだ。…ブエルの魔術の所為なのか、辺り一帯がまだ熱を帯びている。…これ、焦げてるんじゃなくて侵食か?…いつになったら消えるんだろうか。
そういえば、私の刀…どこ行った?寝ている間に失くしたか?案外、ここらに落ちてたりしないだろうか。
…あれか?恐らく止めを刺した…であろう場所に、黒い棒?のような物が刺さっている。近づいてよく見てみると……見事に黒い。まあ、私と同じように吞まれたんだ。そりゃあ、ここまで黒く……なんで私より侵食されてるんだ?案外、無機物の方が侵食に弱いのかもな。
まあ、刀として振れるなら問題はない。一度引き抜……けない。そこまで深く刺さっているわけでもないのに、引き抜けない。というかとんでもなく重い。…片手だけじゃ無理か?なら…
「【星座に手を伸ばす】」
これで一度格納して……あれ、入らない。無機物なら入るんじゃなかったのか?…まだ手立てはある。
「【拡大】」
これで抜けないなら、私一人じゃ無理だ。…左手に力を込める。……少し、動いた。しかも、少し軽くなった?この調子なら……
少しずつ、少しずつだが、黒く染まった刀身の先端が姿を見せ始めた。そろそろ、完全に、抜けそうだ。
抜けた!――と同時に、天地がひっくり返った。どうやら、抜き切った拍子に足元を滑らせたらしい。…あれ、辺りに広がっていた侵食が…消えてる?…しかも、右腕の感覚が、戻った。見てみると、侵食されていた…と思わしき痕こそあるものの、侵食自体は消え去っている。
視界の方も…戻っているな。理由は……刀を抜いたから?…なんで?――考えても仕方ない事か?そうだな。そう思おう。そう思うことにする。兎にも角にも、元の状態に戻ったのは幸いな事だ。
だが…抜いた後も、格納はできない。仕方ないので鞘を取り出して、腰に差す。別に、刀を持ち歩いても大丈夫…だよな?大丈夫じゃないなら…まあ、その時考えるか。
病院に戻ったら、ブエル達が居た。…随分と焦っているようだが、何かあったんだろうか。
「どこ行ってたの渚ちゃん!」
…まあ、よく考えればそうだ。勝手に病室を抜け出したんだから。
「心配してくれてるのはありがたいが、だからといって椅子に縛り付けるのはどうかと思うぞ」
ウァサゴとバルバトスに速攻で捕縛された。…ご丁寧に手が動かない。
「お前逃げるだろ」
「…否定はしない」
余裕があるなら逃げるだろうな。
「ところで…嬢ちゃんの闇の侵食が引いてないかい?」
「…ほんとだ、寝てた時より薄くなってる」
「何かあったのか?」
「……まあ。」
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「…大体状況はわかった。あのな嬢ちゃん……仮にも病人なんだ、一言相談してくれ。」
「すまない。」
話も終わったので、ウァサゴがナイフで縄を切った。どこから出したんだ?
「そういえばなんだが、ウァサゴって武器とか使えたんだな。」
「あるなら使うぞ。大体投げて放置するから手持ちが無いだけだ。」
「…私が作ってやろうか?切れはしないが、切れもしないぞ。」
「じゃあ、今度籠手でも作ってくれ。素手よりかはマシになる。」
…なるほど、打撃系の武器か…私も試してみようか。思いつくのは…棒とかか?
次の日は、次の日は、次の日は……と、忙しなくしていたら…
……気づけば、五日が過ぎていた。私も起きたので、もうここに留まる理由も無い…との事で、もう次の場所へ向かう事にした。
「いつも、この程度で立ち去るのか?」
「ああ。大体一、二週間程度が目安だな。場合によっちゃあ、それ以上居る事もある。」
「…俺があまり此処を好かんからな、少し早めに出てもらった」
「ま、気持ちはわかるわよ。…嫌な思い出があるのは同じだし」
「…嬢ちゃん、別れの挨拶とかしなくていいのか?」
「別に、する相手もいない。」
「……そうか」
「それで、次はどこに行くんだ?」
「セントラルを経由して、ヘイヴンに行ったら…ノリスへ向かうつもりだ。…お前も病み上がりだ、ヘイヴンまでは鉄道で行く。」
鉄道か…景色は……期待しないでおこう。地下を走るらしいし。
「それがな、セントラル付近の峡谷で外は見れるぞ。」
「本当か!」
今から楽しみだ。
多分、新しい事を知るのは好き でもなんかあった時に抵抗できないような事は多分苦手