急:鏡面に星 瞳には光
……?誰か居る…のか?
「…目、瞑ってて。」
聞き覚えのある声だ。
「【消え往く風】」
……熱が消えた?今の今まで、目と鼻の先に熱源があったはず…
「久しぶりだね、渚ちゃん。」
「…唯…さん?」
「唯でいいよ。大天使見つけて駆けつけたら、渚ちゃんが大ピンチだったから大慌てで来たんだよ~、あー焦った。」
「…助かった、ありがとう。ところで、もう目を開けても構わないか?」
「もう少しだけ待って……いいよ。」
目を開けた。……本当に唯か?数日前に出会った、あの明るい少女とはだいぶ雰囲気が……
「その顔、雰囲気違うなーって思ってるでしょ!?私だって真面目な時は真面目な顔するよ!」
「…そうか、兎に角助けてくれてありがとう。」
「どういたしまして。」
…そういえば、唯が着ているこの羽織…アウトサイダーの?しかもこの模様、さっき見た……
「そういえば、さっきも会ったよな?」
「あー、ごめんね。見慣れない武器持ってたから、渚ちゃんの事敵か何かだと思って警戒しちゃってて!意思疎通が取れる大天使もいるからさ。」
「…そんなのもいるのか。」
まあ、今戦っている奴は意思疎通が取れなさそうだし、気にする事でも無いな。
「……大隊長サマ、うちのを助けてくれた事、感謝する。」
「…クレインの人ね。私も協力するから、あいつの能力教えて。」
………二人とも、黙りこくって目線を合わせている。アウター同士、テレパシー的なモノで話せるんだろうか。
「大体わかりました……三人で討伐するの無理じゃないですか?」
「同感だ。中隊長も呼べ、なんなら案山子でいいから一般隊員も呼べ。」
「……大天使相手に隊員は出せないです。無駄に被害を広げるのは得策じゃない。」
「ならどうする?俺達に中隊長を合わせても五人だぞ?明らかに頭数が足りないだろ?」
「考えてもみろ、相手は大天使だぞ?本来一個大隊が総出でかかる相手をたかが五人とは…戦場に出たことが無いのか?」
「そもそも、なんでアウトサイダーが大天使を感知してないんだ。都市部に出現してんだ、どう考えても部分的に結界が割られてるだろ。」
「……結界の破損報告が無かったんです。おそらく、神仰宗が何らかの小細工を仕掛けた為、我々が察知できなかった…のかと」
「だったら神仰宗の馬鹿共を見張ってればいいだろ、普段は結界があって暇なんだからお前等は。郊外で遊び呆けてる大隊長などここ以外で聞いた事がない。」
「………」
「確か元はフロント出身だったか。精神がやられてここに流れて来たんだろ?そんな軟弱者を大隊長にするとは、隊長サマも鈍ったか?」
「ウァサゴ、言い過ぎだ。」
「黙ってろ、お前が首を挟むな。」
「黙らないし首を挟む。今は言い合いをするより、大天使の対処を優先しろ。話し合いはその後だ。」
「…わかった」
「すまない、ウァサゴが変な事を…」
「…いいよ、事実だしね。あの人は私達の事嫌いだし、私達は嫌われる事してるから。」
…雰囲気は悪いが、兎も角大天使を倒さない事にはどうしようもない。気づけば、空の天使がかなり少なくなっていた。なら、じきにブエルも来るだろう。
「…あの大天使の弱点、どこなんですかね。」
「十中八九、あの馬鹿でかい目か鏡だろ。」
…試しに剣を飛ばしてみる。……集中砲火で焼き払われた。
「あの集中砲火をさせない為にどうやっても人手がいる。わかるか?」
「…中隊長は呼んでる。でも隊員は呼べない。」
「……いいだろう。回収するのも手間だ」
ウァサゴは少し落ち着いたようだ。…にしても、凄い剣幕だった。……大天使を挟んで反対側に、人影が二つ…中隊長か?
「揃ったな。」
…大天使は未だ、攻撃を止ませる気配はない。
「…俺とアウトサイダー共で囮になる、渚。」
「……まあ、何をして欲しいかはわかるよ。」
「ならよし、叩き割れ。」
「…多分、鏡が向いてるほうが正面ですよね?」
「だろうな。だから俺達で目と翼を請け負う。隙ができたら渚が鏡を叩く、わかったか?」
「わかりました。協力しましょう」
「元より協力しに来たんじゃないのか?」
「ウァサゴ、隅を突くな。」
「へいへい。それじゃ、行くぞ。」
ウァサゴと唯が向こう側へ移動した。
大天使が、向こう側を向き……攻撃が始まった。翼から無数の光が、目から虹色の光が飛んでいく。…これ、全て回避しないとバルバトスのように継続ダメージを食らい続ける事になるんだろうか。
「――――!」
「―――!」
声が聞こえる。また言い合いをしているのか?…そうでないといいんだが。
……今のところ誰も落ちてない、流石だな。
……全ての翼と目が向こうを向いた
――展開場所を鏡の前に、発動寸前で止めて…………今!
裂け目が開き、中から剣が出て……鏡に突き刺さり、砕けた。
…鏡が割れる音と共に、叫び声が聞こえた……気がした。
「何だ!?」
渚が鏡を割った。そこまではいい。何故、鏡がまだある。割れた音もしたぞ、なんでひびすら…
……!
「離れろ!」
鏡は割ったはずだ。なんで、なんで破片が落ちてこない?…割れてないのか?割った音はした、完全に破壊できていないのか?…ウァサゴ達が慌てている……
…!
まずい!
…悲鳴が、聞こえた。
割ったはずの鏡が元に戻って…そして、光を放った。…超広範囲攻撃か。射線上の建物は融解してしまっている。射線上にはウァサゴ達だけで、幸いにも直撃はしなかったようだが……当たりはしてしまったか。
「くそっ……熱い…光が、体の中で跳ね回って……」
「動けるか!?」
「…無理だな、恐らく…バルバトスより……元の火力が高い。これでも俺は……避けたほうだ、他の奴らのほうが…まずい。回収して……ここから逃がせ……俺は、自力で逃げれる。」
「…わかった。」
【五つの星】で作った担架に、動けなくなった唯と中隊長達を載せて、安全圏まで逃がした。…さて、私一人になった訳だ。
…大天使が此方を向いている。…攻撃をしてこない。…なんだ、先制を譲る気か?
「唯が、"話せる大天使もいる"、と言っていた。お前も案外そうなのか?」
……返事はない。そもそも、言葉を発する器官が無さそうだ。
「何にしろ……始めようか。」
鏡の奥が光る。大方さっきの攻撃だろう。溜めがあるなら、まあ避けれる。真上にいるのは気に食わないが、私は機動力があるほうだと自負している。
「【拡大】」
地を蹴り、
「【巻雲】」
空を蹴る。その後ろから、光が追ってくる。…感は鋭いままなのが幸いして、辛うじて避けれはする…が、あまり長く避け続けるのは無理そうだ。早めに決着を付けたい所だな。
目から虹色の光が飛んでくる。身を捻ってそれを避け…た先には、爆ぜるプリズムが待ち構えている。【星海を越えて】でプリズムを抜け、周囲の翼に剣を突き刺す、突き刺し続ける。そのまま大天使の上を取り、空を蹴って移動し続ける。止まったら…何が起こるかは、想像に容易い。
…翼に攻撃を続けた結果、翼の一つにひびが入って…砕けた。……再生はしてないな、このまま目も潰す。
「どうした?まだ当たってないぞ?」
……少し、攻撃の密度が上がったか?感情でもあるんだろうか。…今はそれどころじゃないか。身を捻って、跳んで、転移して、弾いて、また跳んで……汗が滲んできたな。体力の限界に近づきつつあるのだろう。…もう少しだけ、動いてくれよ。
もう一つ、翼が砕けた。徐々にではあるが、密度が下がってきた。…冷静になってみれば、何故ウァサゴとバルバトスが居た時より良い動きができているのか疑問ではある。…前の私は、天使と戦うことに長けていたりしたんだろうか。それも単独で?そんな人がいるなら、なんで天文台なんかで眠っていたのか……おっと、回避回避……
…プリズムの起爆が厄介だ。そこら中に撒かれているせいで、どこに行っても少し食らう。既に潰した二対の翼は上から延々と攻撃、四対の翼と一対の目が連動して正面から攻撃、残る一つの目は虹の発射で…残る一つ、何も機能が無い…わけでもないんだろう?恐らくこの目が起爆の引き金だ。…潰すか。
目に近づき、手に持っている刀を突き刺す。突き刺す。突き刺す。突き刺す…割れて、壊れた。金色の血を流して……跡形も無く消え去った。…これで多分、プリズムの起爆はもうされない筈。
…翼より、目のほうが強度が低いな…なら、先に目を全て潰すか。
【五つの星】、四度も刺せば目は壊れるんだ、さっさと全て壊す。
目に武器が刺さる。刺さる。…あと少しの所で妨害された。流石に、そう簡単には行かないか。…斬れない武器ばかりだと思ってるだろ?切り札はあるさ。切り札と言える物でもないが。
「【星座に手を伸ばす】」
刀を抜く構えをする。…全部斬り落としてやる。唯一持っている刀を抜き、詰める。翼を十字に斬って、突き抜ける。【星海を越えて】で他の翼へ、再度斬って、また飛ぶ。
次の翼が光を撃ってきた。【結界光】を即展開。一瞬止めて、横に逸れ…また斬り落とす。残り一枚…この隙に、【五つの星】で、目も破壊する。…照準の目は破壊できたが、虹の目は間に合わず、虹が放たれた。…ああ、発射したまま方向を変えることもできるのか。
右手を伸ばして【星海を越えて】を発動、こちらに引き付けて今度は左手で【星海を越えて】、虹の裏側へ回り込み、裏から目を刺す。…目が割れた。同時に剣を飛ばして、最後の羽も壊す。
「さあ、全て壊したぞ。どうする?何をする?……見せてみろ、その前に倒す。」
…鏡の奥が激しく光る……悲鳴が聞こえる。だが、
「溜めが長すぎるんじゃないか?」
発射される前に、鏡に向けて剣を投擲する。【五つの星】を配置……鏡に向けて放つ。五本の剣が鏡に刺さり……割れた。
別にアウトサイダーは強いんです 大天使が規格外なだけなんです