破:しかし何も…
…その日は終日、何もなかった。街にも何も異変は起きず、何か奇妙な事が起きる事も無かった。
「ウァサゴ、今日は何かあるんじゃなかったのか?」
「…俺の思い違いだった。悪かったな、変に緊張させた。」
「それは構わないんだが…」
明らかに焦ってるのはお前だろ?どうして私の考えている事に答えない?察知できないほど焦っているのか?
夜になり、日付が変わっても、何も起きなかった。
「…何も起きていないんだ。良い事だろ?」
「……そうだよな。普通はそうだ。そうだ、そうなんだ。」
…落ち着いたか?
「…悪かったな。ここ数日、少し…慌てていた。」
「調子が戻ったようで何よりだ。」
…朝になった。ウァサゴはここ数日の緊張した面持ちも解け、元気そうにしている。
「…結局、アイツ等の予言は外れたって事か?」
「十中八九な。」
「もう月は欠け始めたんだ、気にする事も無いだろ?」
「気にする事が無くなったから、こうして飯を食ってんだろ。」
頬が膨れるまで詰め込んでいる。そんなに腹が空いていたのか。
「そんなに詰め込むと喉に詰まるわよ。」
「水は飲んでる」
そういう話でも無いだろうに。
結局、三日後になっても何も起きなかったため、私達は次の都市を目指す事にした。
「次は何処に行くんだ?」
「次は…ノリスにでも行くか?」
「ここ暖かいのはいいんだけどずっとだからね~、偶には涼みに行きましょ!」
「涼むじゃなくて寒いの間違いだろ。」
……?
「…どうした?」
「……勘違いだったら謝る。皆、構えてくれ。」
………あ、まずい。そう思った時には、遅かった。
目の前を光が掠めた。それと同時に、都市を覆う結界が、割れた。
「結界が…」
「…外に居るの、天使か?」
「くそ、なんで予言が遅れてくるんだ!」
…ふと、周りを見る。空から降ってきた光が周囲の地面を焼いているのが見えた。…問題は、その光が空中で曲がっていることだ。魔術の類か?…此方に飛んできた光を避けつつ、周囲の状況を確認する。
…まずいのは上だな。空を埋め尽くす量の天使が、地表に向かってきている。どうして今の今まで気づかなかったんだ?
「…どうする?」
「……元より準備はしていた。ブエル!上の天使の相手頼む!バルバトス!大方曲がる光は大天使の攻撃だ、どこにいるかは知らんが、見つけ出して殺す!…渚、お前はどうする?」
「…ブエルの援護でもしようか。手伝って欲しかったら言ってくれ。」
「わかった……全員の無事を祈る」
「それでブエル、どうやってあの量の天使を迎撃するんだ?」
「んーまあ、幾つか案はあるよ。とりあえず、魔術師の本領を見せてあげる!」
どこからともなく、帽子と…杖?を取り出した。
「…威力と連鎖回数を上げて……【雷鎖】!」
…稲妻が空へ昇っていき、天使を大量に撃ち落とした……が、まだまだ天使は居る。
「…きりが無さそうね。私はこの調子で落とし続けるけど、渚ちゃんはどうするの?私の援護とは言っても、ある程度は自衛できるわよ私。」
「まあ、援護とは言っても……個人的な検証も兼ねてる。」
丁度、ブエルの攻撃をすり抜けて天使がこちらに向かってきた。
「丁度いい。…【五つの星】!」
格納庫を開き、その中から光る武器を飛ばす……天使の頭に突き刺さり、天使は砕けて消えた。武器も同じく砕けて消えた。
「…複合魔術?」
「そうだ。まあ、かなり単純な仕組みではあるが。前にバルバトスと戦った時の反省を生かしてみた。」
「…成程、【構築光】で作った武器を【星座に手を伸ばす】に格納して、任意で飛ばしてる…って事?」
「ブエルならもっと効率よく遠距離攻撃ができるだろうが……これが私の精一杯だ。」
…天使が増え続けている。また剣を飛ばし、ブエルの攻撃から逃れた天使を撃ち落とす。
「じゃあ、渚ちゃんは私が撃ち漏らした奴を倒して。あと何発撃てる?」
「……5867512発」
「…どんだけ魔力使ったの?」
「さあ。別に体調不良は無いから、心配しないでくれ。」
「ちなみに射程は?」
「任意で操作できるのは私から100mまで、威力を保って撃てる限界は400mという所だ。」
「ならいいか。」
…他の所も騒がしくなってきた。周りにいた人々はいつの間にかどこかへ消え、代わりに、黒い羽織?を来た人々が増えてきた。
「…アウトサイダーね。まあ今回は利害一致だし、手は出してこないでしょう。」
「……攻撃されることもあるのか?」
「偶にね。ならず者と同じ扱いされる事もあるから。」
…世知辛い物だ。
…この光、どこから飛んできてるんだ?
「ウァサゴ!大天使の場所はまだわからないのか?」
「……第六感じゃ、天使の所在はわからない、知ってるだろ?」
「あーそうだったな、忘れてた。」
……光が空中で曲がって、此方に向かってくる。避けるしか選択肢が無いのが辛いな。
「…バルバトス、何とかして光の起点を見つけてくれ。光が曲がる前、発射されている場所を探せ。」
「了解、お前もやれよ?」
「当たり前だ。」
ここまでやって見つからないのなら、認識阻害か透明化辺りの能力持ちか。…どの大天使だ?
…きりが無い。どれだけ天使がいるんだ、そろそろ抑えきれないぞ。
「……どうしようね」
「アウトサイダーの中に、魔術が使える奴はいないのか?それか、普通に魔術師とか……」
「いないのよ。」
「何故?」
「……色々あってね。まあ、今話す事じゃないかな。」
「事が落ち着いたら、教えてくれ。」
降ってきた曲がる光を光る盾で防ぎ、盾が壊れる前にブエルを守る結界を張りなおす。…気のせいかもしれないが、徐々にこちらへの攻撃が増えてきているような?
「なんだか攻撃が増えてきてないか?」
「だいぶ天使倒してるからねー、ヘイト買ってんでしょ。」
「…大天使、だったか?天使の司令塔は。」
「うん」
「大天使の情報があったりしないのか?アウトサイダーは何度か戦っているんだろ?」
また寄ってきた天使を撃ち落とし、飛んできた光を結界で受ける。
「うーん…一応、何体かの大天使の情報はあるのよ。…ただ、無いのが殆どかな。」
周りのアウトサイダーは、ブエルの射程外の天使を狩っている。大天使の情報があるなら、そちらの相手をするはず……なら、今来襲している大天使は、情報がない奴なんだろう。
「…ん?」
空中に、何か…煌めく物がある。…しかも、かなりの数だな。
掴んでみると……なんだこれ、かなり小さいな…親指に乗る程度の大きさしかない。
「ブエル、これなんだと思う?」
「…プリズムかな?しかも凄く小さい…」
光の曲がる起点をよく見てみると……やっぱり、プリズムがある。光は、これを通して曲がっているのか?
「…もしかすると、これが曲がる光の正体か?」
「……渚ちゃん、私はいいから、片っ端からそれ、壊せる?」
「わかった。」
…周囲で煌めくプリズムに狙いを定める。
「【五つの星】」
光る武器を飛ばす。…この程度の大きさなら、破損による減少を気にする必要もない。剣から礫まで、全部使う。…プリズムの事、ウァサゴにも伝えておこう。
「ウァサゴ!」
「渚?」
…成程
「お前はそのまま破壊し続けろ、俺達も壊しながら大天使を探す!」
「了解!」
「あー…俺にも説明してくれるか?」
「光が曲がる所にプリズムがある、それを壊すぞ。…壊していけば、光の起点もわかりやすくなる。」
「了解だ。」
…さて、他の所の援護にも行くか。