寝起き
燃える。何が?燃える。炎が?
消える。何が?去っていく。魂が?
どうしてこんな情景が浮かぶ?私はそれを知らないのに。けれど、身体はそれを覚えて…
「…ぁ…?」
ここは何処だ?私は…
「…渚?」
名前は覚えている、名前は合っているのだろう。何故かパズルのピースが嵌ったような気がした。
「夜か」
満天の星空、浮かぶ月。…何かを思い出せるだろうか。
私が誰で、何故こんな所にいるのか。どうして寝ていた私の横にこんな物があるのか。
「…まあ、なるようになるだろう。」
前の私…がいるならきっと、同じように思っただろう。
3209/05/24 0:41
辺りを散策した所、まだ生きているPCがあったため備忘録としてこれを残す。日付はPCのだから少しずれがあるかもしれない。正確な日付が判明したら直す。
PCに刺さっていたUSBの中身を覗こうとしたが、全てのファイルに制限がかかっていて閲覧することができなかった。何故こんな面倒な事を?生体認証とかでかつての持ち主にしか見れないようにしたのだろうか…というか、何故私はこんな知識を?
仕方がないのでこの天文台や外を見てみることにした。万一にも壊れたら困るのでPCは置いていく。
刀は…念のため持っていくか。
3209/05/24 3:25
残念ながら周囲に街はおろか、集落の影すら無かった。当たり前か、天文台は人気の無い所に配置する物だ。
幸い道路を見つけて、それに沿って山を下りてみたが…人がいた痕跡が何も残っていなかった。
少し気になったのが、山の割に静かだった。植物は生えているのに鳥や虫の一匹すら見なかった。何か遭ったのだろうか?
一度高速で移動する影を見た気がするが…気のせいだろう。
次は反対側に行ってみる。
3209/05/24 12:18
…なんだあれは、鳥じゃ無い、鳥にしては大きすぎる。だが機械でも無い、機械にしては静かすぎる。
人型の何かが空を飛んでいた。しかも無音で。
幸い此方には気づかずに飛び去って行ったが…先程の影はあれだろう。
敵対しているのか、していないのか、どちらにしても私では手出しができないな…もう少しこの天文台の内部を調査してみるか。
3209/05/24 15:02
残念ながら大した記録は無かった。だが、おそらく職員のであろう日記を見つけた…かなり古ぼけてはいるが、読めないほどでは無い。
3209/5/24 18:47
…凄まじい事が書いてあった。
一部を抜粋する。
==============================
2978/1/01
上からの命令で、崩落現象?とやらを観測する仕事に就かされた。なんで俺が…
崩落現象って何なんだと聞いたらリーダーが教えてくれた。秘密にしろとは言われたが…俺の日記を見る奴なんていないだろうし、もしも見るやつがいるなら大方俺は死んでるだろう、というわけでここに記載する。
これまで七回、世界中でドンパチやった時に使った物質消滅用大量破壊兵器「Void」っていうとんでもない代物があるだろ?こいつが全ての元凶だ。
このくそ兵器を使って世界中に穴ぼこを開けまくったせいで裏世界?とこっちとの境界が不安定になって、世界が崩れた。今はまだ少しだけだが、今後広がっていくんだろう。…バカは死んでも治らないとか、歴史は繰り返すとは言うが、ここまでバカだとは神様も思わなかっただろうな。
この世界が崩れる現象を上は崩落現象と呼んでる。今はまだ山が一つ消えた程度だが…この崩落が徐々に伝播していくのか、それとも突如現れるのか…
これを解明して、止める。これが俺達の仕事らしい。
2984/11/30
良い事が分かった、崩落は増えない。悪いことも分かった。伝播はする。国が一つ消えた。急がないと間に合わなくなる。
2986/3/19
上が決死隊とかいうゴミを考え付きやがった
せめて無人機を落とせ貴重な人材をドブに捨てんじゃねえ
2986/5/08
第一陣が落ちた。ここのリーダーが主導で、空いた席に俺が座る事になった、なんでだよ
…だが、情報は得た。どうやら向こうには妙なエネルギーが満ちてるらしい。詳しく観測したら、崩落した穴から同じエネルギーが漏れ出ていた。…これを使えれば
2989/4/15
やっとエネルギーの正体を解明できた。機械への転用はできなさそうだが、一部の人間がエネルギーに適合した。……一般人からでもいい、とにかくこれに適合できる奴をかき集める。
2991/6/26
…世界の四分の一が崩落した。海の向こうはもう無い、これ以上を止めるためなら、俺は…
2991/7/14
ProjectOOが承認された。忙しくなる。
2997/9/22
やっと完成した。…昔は反応が無かったのに今になって俺にも反応が出た。…他の奴らだけにやらせる訳にはいかない。一番勝手が分かってるのは俺だ。
2998/10/07
■■■とやらの協力で人数は集まった。もっと早く要請してりゃ…
俺以外の奴がほぼ全員子供なのが気に食わねえが…状況が状況だ、急ごう。
=================================
3209/5/24 20:56
今、こうして居られるということは、きっと、日記を残した人は成功したんだろう。
だが、謎は深まるばかりだ。崩落が止まったのなら何故人がいない?…もっと遠くまで行ってみるか。
明日準備をして、明後日出かける。戻れるかはわからないが…まあ、なんとかなるだろう。
3029/5/26 5:16
リュックサックがあって良かった。お陰でPCも持って行けそうだ。
刀は…取り合えず腰に差す。…この体は刀の使い方が分かるらしく、腰のほうが収まりがいい。
3209/5/26 10:58
かなり山を下って漸く街が見えた。
だが、街に人は居なかった。建物には植物が生え、道路は瓦礫ばかりでとても人がいるようには見えなかったし、気配もしなかった。
街に降りて建物の中を覗いてみたが、電気は止まっていて、電光掲示板は故障していた。街の中心に巨大な柱が立っていたが…あれはなんなんだ?まだ稼働しているようだが…
…やはりここまで来ても植物しか観測できていない。どれもこれも風媒花ばかりだ。となると、植物が絶滅する程の長い間虫や鳥は存在していないのか?
3209/5/27 14:54
柱の付近まで来た。僅かに傾いているが、稼働に支障は無いらしい。
3209/5/27 20:38
夜になって雨が降り出した。暗くてよくは見えなかったが、柱の近くに人影を見た。
3209/5/28 7:20
今日も空を飛ぶ人影を見た。柱の調査でもしているのか?奴らは柱に触れたらすぐに去った。ふと、柱と周囲の地形を見ていたら、少し気になることに気づいた。この柱は街の中心にあるが、街はこの柱を中心としていない。柱を中心に街を作ったというより、元から在った街に柱を刺した、というほうが正しそうだ。なぜわざわざ廃墟に?もしや、柱を建造した時には人がいたのだろうか?…日記の最後の日付は2998年、つまりこの日記を書いた後に何かがあった?あの人影と何か関係性があるのだろうか。
3209/5/28 10:41
街の外れまで来た。ここからは崩落を見に行く。…この崩落が止まったエリアは存外広いようで、今私が居る所からでは端が観測しずらい。それに気になる事もある、何故中央に配置された柱が中央では無い所に配置されているんだ?彼の後継は指示に従わなかったのか…それとも、状況が変わったのか。
3209/6/2 13:20
端まで来た……まあ、予想通りというか、道中で見たから何となくどうなっているかは解っていた。
何も無かった。空虚というか、何というか。元より何も無かったかのように、虚ろな空間が広がっていた。ただ、崩落している所としていない所の狭間には必ず結界?の様な物があった。所々に立っている柱と柱の間にしか無いのを見るに、これが崩落を止めているのだろう。…柱の正体はかなり悍ましいが、状況が状況だ、今を生きる私が口を出す道理は無いだろう。
試しに少し結界に触れて…
===============================
「誰だ?」
「…返事をしないのなら敵と看做すぞ」
熱を感じた次の瞬間……空気が焼けた。地面が溶けたらしく、焼けた土の匂いがした。
「───ッ」
速い、光線か?辛うじて避けられたが次も避けれるか?
「…前の私が強かったことを願おう。」
そもそも相手は何処だ?というか誰だ?
切っ掛けは…私が結界に手を伸ばしたからか?なら事前に警告ぐらいしてくれてもいいだろうに。
いや、私が明確に敵意を持ったからか?気配は……右か?
先程の攻撃、光線の発射前に僅かに熱を感じた。ならタイミングの予測はできるが…回避は別問題か。
刀で光を切る…論外、刀が溶ける。ならギリギリまで引き付けて避けるか?現実的なのはそれぐらいか。
…熱!
胸に熱気を感じ、咄嗟に体を左に逸らす。
「ぐっ…」
掠ったか?…動きに支障無し。対して移動してないな?このまま詰める!
…頭上に熱気!
「…上!かっ!」
連続で撃てるのか!
…上空に逃げられては手出しが出来ない…引くか?
いや、空を飛べるのなら、前に見た人影と何か関係があるかもしれない。…追ってこられても面倒だ、ここで何とかしよう。
とは言え、どう上空の敵に対処する?……跳ねる…とか?
…頭では出来ないと思うが……身体は、
………やってみよう、駄目なら駄目で案はある。
1…2の、3!
「うわっ!?」
…思いもよらず、体は宙を舞った。一瞬で景色が変わり、少しだけ吃驚した。
「…!」
その時、私は初めてその人影の姿を、顔を見た。
「顔が…無い?」
恐らく後ろ姿だけなら普通の人だと思うだろう。
いや、違うな。どこから見ても唯の人とは思えないか。
「…天使?」
金色の髪、頭に浮かぶ輪。羽こそ無いが、俗にいう天使に近い見た目をしている。
しまった、熱…
「っ!」
光線は身を捩った私を掠めてどこかへ飛んで行った。
回避した事でバランスを崩した私は落下を開始した。このまま一度着地して、もう一度跳ねて詰め…
「…全身?」
今度は全身が熱気を感じた。
ふと天使を見てみたら、何もない顔の正面に光が集まっていた。
「ぐぅっ!?」
先の光線程の威力は無いが…熱い!
「……舐める!な!」
思わず空を蹴った、体が再度跳ねた。
「!……こんな、事が、出来るなら!」
再度空を蹴る。今度は連続で、追ってくる光を避けながら。
「──────ふぅ」
深く、深く息を吸う。
頭を下に、脚を上にして空を蹴る。手を刀に添え、天使の体に向かって突き進む。
「最後に聞いておく、お前は、お前達は、なんだ?」
返事は期待していなかったし、実際帰ってこなかった。
当たり前だ。顔が無いのだから。 今しがた頭も消えたが。
「………疲れた…」
傍らに目をやる。頭を無くした天使が、生気を感じさせずに横たわっていた。元よりあまり感じなかったが。恐らく───死んだのだろう。
ピシッ…と、何かが割れるような音がした。
目を向けた瞬間……天使の体にひびが入り、崩れた。割れ目からは金色の液体…いや、血か?…それが流れ出た。それは地面に染み込む訳でもなく、霧のように霧散していった。
そして、崩れた体も砂の様に消え…気づけば、天使が其処にいた証拠は何も無くなってしまった。
「…どうなってるんだ」
本当に死んだのか?
読んでくれてありがとうございます
感想を糧に私はこの物語を書くのだ…無くても書きます