並行歴史〜ルシアン編
帝国中の大貴族や有名商人ギルドから、舞い込む招待状は止むことがなかった。彼の名は、未来の英雄として帝国中に鳴り響いている。悪しき前兆も聖戦の予言もないというのに、彼のユニークスキル【聖剣の使い手】が公になったという事実だけが、伝説に飢えた国民の熱狂に火を付けるには十分だった。
そして、新たな賞賛の一つ一つが、彼の自尊心にさらに薪をくべるだけだった。
ルシアンは己の剣をひけらかした。その眩い光は、宮廷人たちに「太陽が二度昇った」と冗談を言わしめるほどだった。それは彼のお気に入りの戦利品、彼の優越性の動かぬ証であり、訓練での決闘でも、彼の最も好きなゲーム――貴族の令嬢たちを口説き落とすことでも、それを振りかざした。
しかし、彼の思考の静寂の中では、賞賛の言葉は煙のように消え去った。彼には誰もが劣等種に映る。彼らのユニークスキル、運命からの「贈り物」など、彼のそれと比べれば無きに等しい。誰が伝説の偉大な英雄たちに匹敵できるというのか? 彼はその当然の後継者なのだ。たとえ彼らが持つ騎士道精神、聖性、弱者への慈愛を、彼が完全に欠いていたとしても。むしろ、その家柄と新たに得た神の力は、平民や奴隷、商人、下級貴族への軽蔑を強固にするだけだった。彼らは塵芥だ。神々に彫られた美貌、鍛え上げられた肉体、選ばれし魂を持つ彼のような美しき存在が、どうしてこの塵芥と共存できようか?
彼はこの物語の主人公だった。そして、主人公として、世界は光だけでなく、影でも描くための彼のキャンバスなのである。
帝国の法が届かない、悪臭漂う裏路地では、彼の悪行が毒霧のように渦巻いていた。人身売買、高純度の阿片、詮索しすぎた探偵の失踪……。もとより危険な貧民街は、彼個人の狩り場と化していた。家族は娘を隠し、髪を切り、少年のように変装させるほどの恐怖が支配する。だが、新たな玩具を求める彼の魔手は、豊かな商人の娘たちや、下級の準男爵、騎士の娘たちにすら伸びていた。皆、空っぽの約束――アルステア家での使用人か愛人の地位――に釣られて。それらの約束は、彼の私的な苦痛のコレクションの、使い捨てのオブジェクトでしかなかった。
富は無限の資源、訓練は不要な形式――彼の神の恩恵は、経験豊富な騎士を凌辱する剣の達人を、彼に生まれつかせた。彼は本質的に、人生というゲームにおける「チートキャラ」なのだ。そして彼の唯一の願いは、コレクションを拡大し、消された悲鳴で耳を満たし、増すばかりの欲望を満たすことだけ。
「はははは……この世界は、俺の傑作のキャンバスだ〜」 彼はよくそう囁いた。三人の仲間の女性たちが、空虚な笑顔で聞き流す言葉を。
彼女たちは、彼の仮面に完璧な飾りだった。高貴な家柄の令嬢たち、エリートによって鍛え上げられた卓越した美貌の持ち主。鋼の筋肉を持つ女戦士、鋭い知性の女魔術師、隙のない信仰心の女祭司。愛ゆえではなく、野望ゆえにそこにいた。未来の英雄に連なり、その世継ぎを産むことは、歴史に名を残すための切符だった。ルシアンは彼女たちに、一切動じることなく何でも与えた。ミスリルの鎧、竜の核を封じた杖、聖遺物……その装備の費用は小国一国の軍隊を賄えるほど。アルステア家にとっては、飴玉を買うようなものだ。
「ルシアンさん、お強いですね!」 女戦士は、彼が無造作に聖剣の一撃でトロールを両断した後、甘ったるい声で感嘆した。
ルシアンは汗一つかかなかった。技術を学ぶ必要はなく、ただ武器を振るえばいい。聖なるエネルギーが残りをなす。魔物を切り裂き、百年の大木をなぎ倒し、再生能力を持つクリーチャーさえ、最初から存在しなかったかのように蒸発させる。巻き添え被害など、取るに足らない些事だった。
彼は聖剣の光のように輝く温かな笑みを彼女たちに向けた。民を安心させ、女性ファンを落とすための、英雄の笑み。しかし、誰かがその唇の曲線の向こう側を覗き込む勇気があれば、真実を見出すだろう。冷たい銀色の彼の瞳は、笑っていなかった。そこは、慈悲も、野望も、感情としての悪意さえも住まわない、純粋な虚無への窓。ただ、全てと全ての者が、神の遊びの中の使い捨ての駒であるという、静かで絶対的な確信だけが存在していた。




