迷宮降下、巨門、そして血濡れの災厄
迷宮の階層を下り続けた。ドロップ品は相変わらず――トレントの枝、魔法の果実、魔力の石…。「はあ…この世界の迷宮のドロップって、起源の環境で決まるんだ? それとも…あの『愛すべき』女神様の気まぐれか? あ~不透明な未来よ、俺を見捨てないでくれ」 芝居じみた溜息をつく俺の傍らで、アイリーンは嬉しそうに生きている蔓鞭(ねじれた蔓でできた、濃い緑色で凝縮された樹液のように脈打つ新武器)を弄んでいた。誰かに笑われようが構わない――彼女が楽しそうならそれでよし。鞭を「ビュンビュン!」という特徴的な唸りと共にヘリコプターのように回転させ、床や岩に打ち付けて遊びながら、使い方を学んでいる。
一方カラナは…相も変わらず“鉱物もどき”(略して『アレ』)の調教に没頭中。皮膚の下に浮き上がる血管が示す通り、暴力全開で殴り続けていた。「ぐぬぬっ…! 屈服しろこのクソ岩石! お前の秘密を曝け出せ!」 (彼女の怒りで『アレ』が少しずつ屈服し始めているのを見て、背筋が凍った…。もし彼女を怒らせたり嫉妬させたりしたら、この全力が俺に向けられるのか? ((;゜Д゜))ガクブル)
歩きながら、俺の頭は迷宮脱出と強化でいっぱいだったが…「アイツら邪悪なマッスル共…一体何が目的だったんだ? なぜ女神は沈黙した? 『聖剣の使い手』の台頭は真の勇者の証なのか? 『善と海』? うぐぅ…巻き添え被害だけは勘弁だぜ…」 という疑問がチクチクと頭を刺す。
進むうちに、巨大な門が行く手を阻んだ。見上げるほどの高さで、厚さ数センチの堅牢な木材製。普通なら開けられる代物ではない。カラナは大工さながらに「トン、トン、トン」と材質を確かめ…すぐに「ドゴォン! ドゴォン! ドゴォン!」という軋むような拳撃へとエスカレート。木材は砕け、屈服した。「おい、破片はちゃんと回収しとけ! 超貴重な素材だぞ…へへへっ!」 …ゲーム脳全開の分解癖を隠せない。(てっきり自動修復すると思ってた…) 破片を拾い上げようとしたが、鉄インゴット並みの重さに唖然。やっとの思いで持ち上げた。「『編み上げインベントリ』!」 無限収納の祝福された能力を発動し、カラナが『寛大に』提供してくれた破片を片っ端から吸い込んだ。略奪に夢中になりすぎて…明らかな事実を忘れていた:こんな門は装飾じゃない。ボス部屋への入口だ。
そう。ボス戦。冒険を『印象的』にするアレだ。だが…なぜココに⁉ 女神の俺いじめ⁉ これが趣味⁉ そして…視界に入った。
トレント⁉ なのになぜ血糊まみれ⁉ なぜ戦利品のように根に白骨が絡まってる⁉
「くっそ──ッ!」 思考より先に体が動いた。血塗れの巨体が我々の侵入に気付く前に――カラナの鎧の襟首をガッと掴み後ろへ引っ張り、アイリーンに叫ぶ:「カラナの後ろに隠れろ! アルテミス、警戒態勢!」 「はぁはぁはぁ…」 荒い息を殺しながら、ズタボロの門を可能な限り静かに閉めようとする。巨獣は無動…もしくは、まだ我々に気付いていないようだ。 深く息を吸い、カラナを見る。苦笑が零れた。「ははっ!…どうやらオレたち…略奪のソウルメイトだな、へへ!」 彼女も爆笑した――少し恥ずかしそうにしながらも、瞳には『もっと木材を取りに戻れない?』という未練の火花が。 アイリーンは困惑しながらも鞭で遊び続ける(普通の縄跳び遊び…だが彼女の『縄』は岩を砕く威力)。肩のアルテミスは鞭を鋭い視線で追い、前足を動かして風の糸で再現しようとしているようだった。
「はぁ…よし」 残り少ない理性を取り戻す。「じゃあ…作戦は? 共同戦線…それとも…俺の一騎打ちを見せてやる⁉」(アドレナリンが思考を蝕み始めていた)
カラナが嘲るように笑った。「おぉ~! やっと男らしくなったか? 愛しの『妻』に、その勇姿を見せてやるべきじゃないか?」戦略的な前傾姿勢で、谷間を強調。「勝てば…『ご褒美』ももらえるかもよ?」****胸に熱い波(と多大な馬鹿さ)が押し寄せた。彼女に見せつけたい! 新能力を試したい! あの『ご褒美』が…欲しい!
「ならば…宝と栄光のために───‼」****そして底抜けの大バカとして、俺は無謀にも部屋へ突進した──作戦もなく、武器もなく(前の戦いでカラナが預かったままの『半ハサミ』!)、ただ彼女の『楽園』と栄光に埋もれたい一心で。 大誤算。致命的な大誤算だった。
「ギャアアアオオオオオオルルルルッ‼」
千の爪で黒板を引っ掻くような絶叫が部屋を揺らした。 怪物は異形の塊だった。歪み絡まった枝からはドロリと赤黒い液体(血? 穢れた樹液?)が沸騰するように滴り落ち、炎の霊気に包まれた髑髏の果実は不気味な「ガチ、ガチ、ガッ!」と顎を鳴らす。葉は生気ある緑ではなく、血のように陰鬱な赤。 足元には砕けた白骨や鎧の残骸が転がり、過去の犠牲者…あるいは失敗した盾の無念を物語る。血を渇望する樹木妖怪・ジュボッコと、地獄のハロウィンランタンが融合したようなグロテスクな姿だった。
「覚悟しろ、穢れた怪物め! お前の命…もらったぞォォッ‼」 空っぽの威勢で吠え、拳を振りかざす…そしてようやく、手に何も持っていないことに気づいた!****「チクショー──ッ!」(心の叫び)。トレントは言葉を理解せずとも、敵意のオーラは明瞭だった。 枝が轟音と共に持ち上がり、煮えたぎる赤い液体を溢れさせた。 鉄臭く濃密な深紅の霧が立ち昇り始める。炎の髑髏は怒り狂ってガチガチと鳴る。枝を激しく揺すり、灼熱の液体を床に撒き散らす。触れた石肌は「ジューーーッ‼」という鋭い音と共に水膨れを生じ、酸っぱい蒸気を噴き上げた。
必死に回避行動。 「熱湯ならまだしも…だがアレは…!」 触れたくない。絶対に。 正体を知りたくもなかった。
「おわぁ…やべぇ──ッ」****人生とは、いつだって不条理な冗談だ。 そしてその冗談は…今、まさに俺の胴体へと直撃しようとしていた。




