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軽やかな夢、重たい視線

座席は驚くほど快適だった。

こんなに背中が感謝していると感じたのは、本当に久しぶりだ。

隣では、イレーネが静かに眠っていた。

その呼吸はまるで穏やかな小川のせせらぎのようで、心が安らぐ。


「子供だからこれほど眠るのか…それとも呪いのせいか…?」


頭を振った。今はそんなことを考える時じゃない。


カラナも体を預けてきて、俺の腕を枕代わりにしていた。

彼女の体は暖かく、そしてしっかりとしていた。

小柄な体格とは裏腹に、彼女には強さと存在感があった。

俺の意識も、次第に眠気に引き込まれていく——


——スゥ、スゥ…


馬車の中の空気は、まるで魔法のように静かで心地よかった。


無意識に微笑んだ俺は、「永遠なる愛情の毛布」を編み込みインベントリから取り出した。

そっと広げ、三人を包み込む。

完璧なサイズ感…いや、二人が小柄だからこそだろう。


イレーネ…儚げな体に、世界の闇を忘れさせてくれるような光を宿す少女。

カラナ…小さな体に鋼の意志と致命的な拳を持つ女。


二人を少し自分の方に引き寄せ、その温もりを感じた。

この温もりが、どれほど自分に必要だったか…ようやくわかった。


「アルテミサ…見張っててくれ…zzz…」


そうして、眠りへと身を委ねた。



---


頭の上から、アルテミサは静かに観察していた。

見張り役のように座ったまま、一切の動きを見逃さずに。

その小さな体に宿る魔力核が、彼女に自律性を与えている。


人間の感情や関係を完全には理解できない。

だが、彼女にとってこの二人——少女と女——は創造主にとって重要な存在。

ゆえに、自身の守るべき対象となった。


——その時。

直感による警戒信号が走る。

魔力の感知ではなく、本能に近いもの。

誰かが、見ている。


瞳のない視線が、馬車の後方へと向けられる。


そこに座っていたのは、一人の貴族風の若い女性。

派手なドレスではないが、身に着けている宝飾品や扇子の象牙細工が彼女の立場を物語っていた。

その顔は冷たく美しく、まるで感情を削ぎ落とした彫刻のようだった。


隣には、中年の執事。

完璧な姿勢、穏やかな表情。だが、その体は鍛えられた戦士のようで、危険な気配をまとっていた。


「リチャード、あの人形…手に入れられるかしら?

価格は関係ないわ。お父様ならきっと払ってくれるもの。」


貴族の少女は扇子の裏で微笑みながら囁く。

執事は無言で頷いた。言葉など必要ない忠誠だった。


彼はゆっくりと手を伸ばし、アルテミサに触れようとした。

だが、その指先が布に触れる寸前——アルテミサが動いた。


ひと跳ねでエステルの頭からカラナの肩へと移動。

その手が掲げられると、小さな音と共に青い火花が閃いた。


「——接触は禁止。」


感情のない機械のような声。

だが、その警告は確かに意味を持っていた。


執事は静かに手を引っ込めた。表情に動揺はない。

だが、少女は違った。

目を輝かせ、扇子の後ろで満足そうに微笑んだ。


「リチャード…エルフの国に着いたら…あの人形を手に入れて。

どんな手を使ってもいいわ。」


執事は再び頷く。

その目は、すでに標的を捕らえ、動く準備を整えていた。


アルテミサはそのまま、エステルの膝に戻ると、足を組んで座った。

魔力探知は続いており、防御も準備万端。

感情はない。

だが、彼女は“守る”という意味を、確かに理解していた。


そして——

三人が“永遠なる愛情の毛布”に包まれながら眠るその間にも、運命の盤上では新たな駒が、音もなく動き始めていた

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