三枚の銅貨の価値
ORZ
奇妙な感覚だった。
まるで自分の体が空へと浮かんでいくような――
いや、単に疲れすぎて沈む力すらなかっただけかもしれない。
この世界で、初めての戦いを経験した。
本当は、貴族の息子として甘い蜜を吸って生きる…
そんな寄生虫のような人生を望んでいたはずだったのに。
目に浮かぶのは、あの女神の顔。
棒切れで虫をつつく子どものような、無邪気で無責任な好奇心。
あの時の俺は、まだ形もない魂だった。
笑って許すべきか、殴り飛ばすべきかもわからなかった。
…ただ、柔らかいベッドと
暖かい布団と
ふかふかの枕が恋しかった。
だが、現実は――
冷たい地面、ざらざらと背中に当たる土。
マリタ草の柑橘系と苦味が混ざった匂い。
そこに乾いたゴブリンの血の臭いが混ざる。
静かに目を開ける。
「俺…生きてるのか…?」
上体を起こそうとした瞬間、
激痛が腹部を駆け抜ける。
反射的にみぞおちを押さえる。
でも、数時間前のような鋭い痛みではなかった。
まだ痛い。けれど、耐えられる。
「ん、ぐっ……クソ…」
焦げた鉄を握ったような、焼け付くような痛み。
骨が折れてるのか、単に耐性がないのか…
どちらにせよ、過ぎたことだ。
マリタ草は袋の中にあった。
傷んではいたが、まだ新鮮に見えた。
葉を一枚、恐る恐る口に入れる。
噛んだ瞬間――後悔した。
「うえっ!なんだこれ…!」
オレンジの皮にコーヒーをかけたような苦味と渋み。
舌がしびれる。
だが、それと同時に痛みがほんの少し和らいだ。
気のせいかもしれない。
いや、もしかしたら本物だ。
十分だった。
身体を起こして、ふらふらと立ち上がる。
空はもう、夕闇に染まりかけていた。
帰り道は、ゆっくりだった。
見上げると、巨大な城壁とそれを囲む都市の輪が見えた。
一番上には、煌びやかな貴族の屋敷。
贅沢な装飾と、美しいけれど実用性のない建築。
中央には、あの大聖堂。
俺のユニークスキルが「公開処刑」された場所。
さらにその奥には、皇帝の宮殿。
この国、いやこの世界の頂点。
その下に広がるのは中環区。
商店、ギルド、鍛冶屋、薬屋…この都市の心臓部。
そして最後に、
俺が歩いている外環区。
…いや、正確には「俺がいる場所」ではなかった。
ここは、行き場をなくした者たちの最後の落ち場所。
俺には、まだどこにも属する場所がない。
ただ、
今夜どこかの木陰か、ベンチの下か…
眠れる影を探すしかなかった。
手に残っていたマリタ草。
握りしめたままの状態でも、まだ少しの香りと瑞々しさが残っていた。
ゆっくり歩いた。
目指すのは、見慣れた看板。
冒険者ギルド。
「……せめてこれだけは、渡しておかないとな。」
たった三枚の銅貨。
でもそれは――
俺の努力で、
俺の傷で、
俺の一歩で、手にしたものだった。
【経験値を獲得しました!】
【レベルが2に上がりました!】
→ 最大HPが上昇
→ 最大MPが上昇
→ ステータスが微増
名前: エステル
レベル: 2
クラス: 冒険者
称号: 追放者 / 転生者(隠)
ユニークスキル: 裁縫(EX)
魔法適性: ???
HP: 125
MP: 90
筋力(STR): 15
体力(VIT): 14
敏捷(AGI): 17
器用(DEX): 20
知力(INT): 16
幸運(LUK): ???