斬るか、斬られるか
ゴブリンたちが唸り声を上げる。
俺を見つけた途端、
まるで獲物を見つけた獣のように、にやけながら襲いかかってきた。
石を持っていた方が先に突っ込んでくる。
頭にその石を叩き込むつもりだ。
集中しろ。意識を一点に――!
ギリッと歯を食いしばり、
持っていた錆びた短剣を振り上げ、相手の腕を払う。
パリィ成功。
その勢いのまま、もう片方の手で拳を握り、
奴の顔面に思い切り叩き込んだ。
鈍い音と共に、ゴブリンの頭がぐらりと揺れる。
だが――
もう一体が近づいてきていた。
即席の棍棒を振り上げ、俺の腹に打ち下ろす。
ドゴッ。
肺の中の空気が抜けた。
痛みが腹から全身に走る。
「ぐっ……!」
膝をつく。
視界が揺れる。息ができない。
もう一度、奴が武器を振り上げる。
咄嗟に短剣を上げて防ぐ。
もう一方の手は本能的に腹を押さえていた。
冷静になれ。周囲を見ろ。何か使えるものは――
頭が真っ白だった。
「クソっ……!どうすればいい……!?」
また一撃。受け止める。
短剣がきしむ。金属がひび割れる音が聞こえた。
このままじゃ、折れる。
次の一撃で終わりだ。
そして――
叫んだ。
「――ユニークスキル、裁縫!」
視界が変わった。
まるで世界全体がスキャンされるように、
物の大きさ、形、長さ、重さ……全てが“見えた”。
目の前に文字が浮かぶ。
《選択してください:縫う/取る/切る》
条件反射のように、言葉が口から出た。
「――切る!」
次の画面が開く。
《切断対象を選んでください》
情報ウィンドウが邪魔だった。
それでも俺は、まだ動く身体で、視線を敵に固定した。
ゴブリンの体が、裁断線のようなものに覆われていた。
まるで布の型紙。
俺の手が自然に動く。
空中をなぞるように、斜めに“線”をなぞった。
現実が、反応した。
【切断処理完了】
ゴブリンが動きを止めた。
何が起きたのか、奴も理解していなかった。
胸元にうっすらと赤い線。
次の瞬間――
ズバッ。
胴体が斜めに裂けて、
上半身と下半身が地面に倒れる。
湿った肉の音が耳に残った。
息が荒い。
手が震える。
やった。
俺が倒した。
短剣じゃない。
この、わけのわからないスキルで――
そして、突然の倦怠感が全身を包んだ。
膝から崩れ落ち、そのまま地面に倒れる。
「はは……馬鹿みたいだ……」
意識が薄れていく中で思った。
これは――
ただの裁縫じゃない。
これは……力だ。
そして俺はまだ、
この“力”の何も知らない。