影の塔
何が起こったのか、正確には分からなかった。頭の中はまだ重く、あの腐ったような魔力の記憶に囚われていた。でも、手は勝手に動いていた。
ゾンビ化したゴブリンたちの死体を、一体ずつ《編み込みインベントリ》に収納していった。最後は、あの変異したシャーマンだった。ほんの一瞬、手が止まる。まだ微かに黒い霧のようなものを漂わせていて、体内に何かが残っているようだった。
(もしかしたら……後で使えるかもしれない。最悪、売れるかもな。)
システムは何も文句を言わなかった。死体は他と同じように吸い込まれ、インベントリのスロットが一つ光った。
振り返ると、アイリーンが黙って見つめていた。まだ石を握っていたけど、指先は微かに震えていた。それでも、彼女は逃げなかった。
俺は小さく微笑み、うなずいた。
「よく頑張ったな、アイリーン。」
しゃがんで彼女の手を取った。
「行こう。あのシャーマンが向かってた先に何かある。」
茂みはさらに深くなり、空気も重くなっていく。まるで、見てはならないものに近づいているようだった。それでも、前へ進む。俺の中の何かが「知るべきだ」と告げていた。
──その時、彼らを見つけた。
草むらに身を潜める数人の冒険者。そのうち一人、痩せ型の男が目を閉じ、片手を地面に触れていた。
(……スキル? いや、経験の賜物か?)
男が静かに目を開き、仲間たちにささやいた。
「北側。哨戒中の敵、四体。高所に塔がある。」
彼の指す方向を見る。最初は何も見えなかった。でも、少し目を凝らすと──あった。
ボロボロの木材、ほつれたロープ、錆びついた金属で組まれた《塔》。
不安定で傾きかけている。だが、それは──
「……動いてる。」
塔の頂上には、骨と腱でできた弓を持ったゴブリンが。下には槍を手にした二体。もう一体は縄を登っていた。
(ゴブリンが……監視塔を?)
「これって、普通なのか……?」
思わず漏れた声に、男が鼻で笑ったように返した。
「普通じゃない。ゴブリンは本来、バカだ。目の前の肉にしか興味がない、ナイフを持った野生児だ。」
少し間を空けて、続ける。
「だが……指揮官がつけば話は別だ。命令する奴がいるなら、ただのクズどもが災厄になる。群れをなすんだよ。軍勢になる。」
俺はアイリーンの手を強く握った。
巣。アジト。
(シャーマンは……ただの使いか……?)
この森は、生きている。
そして──俺たちは今、間違いなく《見られている》。




