跳ねる金色と、風を裂く矢
僕たちは手をつないで、木々の間を進んでいた。
イレーネは僕の手をぎゅっと握っていたが、その表情は好奇心に満ちていた。これが、彼女にとって“正式な任務”への初参加。僕たち二人とも、今は新しく作った魔法の衣服を着ている。
魔力核の助けを借りて作った衣服は、森の木漏れ日を浴びるとほんのり輝いていた。着心地が良いだけでなく、僕たちにとって初めての「本物の防具」だった。
前を歩くCランクパーティーの面々は、小声で会話を交わしていた。
リーダーのローランドは、森の地図を確認しながら、古い道や待ち伏せのポイントをつぶやいている。カエルは時折空気の匂いを嗅ぎ、狐の耳をピクピクと動かしていた。リシアは、優雅だが警戒心のある足取りで進み、手には常に黒い木の杖を握っていた。
「ポーションは持ってるか?」 「はい、小型2本と即時回復1本です」 「よし。気を抜くな。この森は…以前とは違う」
緊張感はあるが、不快ではなかった。
時おり僕は顔を上げて、緑に包まれた森の景色に見入っていた。葉がささやき合い、枝を踏む音と、他のパーティーの足音が交差する。
(これはもう、ただの散歩じゃない)
森はどんどん深くなっていた。湿り気が増し、太陽の光も、葉の隙間からしか届かなくなっていた。
その時だった。
カエルが突然足を止めた。
鼻をくんくんと動かし、耳を立てた。
「おやおや~。来客だね」と、いつものように飄々とした声だが、手はすでに短剣の柄にかかっていた。
全員が緊張した。
ローランドは盾を構え前へ出る。リシアはそっと横に動き、杖がほのかな緑光を放ち始める。
そして──僕たちはそれを見た。
金色のゼリーのようなスライムが、草むらからぷるんと飛び出してきた。
「スライム…?」と僕。
「ただのスライムじゃない」とローランドが言った。「ゴールドスライムだ!」
リシアが杖を掲げ、僕の知らない言葉で何かを唱える。すると柔らかな風のような魔力が現れ、スライムを包み込むように持ち上げた。
「捕まえたわよ~」と彼女は笑った。
「坊や、知ってるか? 貴族たちにとって、このゴールドスライムは最高の珍味なんだ。生きたまま手に入れば…とんでもない価値だぞ」
「…ゼリーみたいだな」
その姿を見て、食卓に並ぶスライムの姿を想像してしまった。そして…もしかしたら、このレアな遭遇は僕とイレーネの服に付与された「幸運」効果のおかげなのかもしれない、と思った。
だが──そんな考えは長く続かなかった。
――シュッ!
風を裂く音。
僕が反応するより早く、カエルが短剣を抜き、矢をはじいた。
「敵襲!」とローランドが叫んだ。「全員、構えろ!」
パーティーは即座に動いた。
リシアはスライムを特殊な瓶に入れ、再び杖を構える。
カエルは周囲に目を配りながら、身体を低く構える。
僕は──本能で動いた。
イレーネを腕の中に抱え、身を挺して彼女を守った。
「エステル…」と彼女が小さくつぶやいたが、僕は首を振る。
「大丈夫。君は…僕が守る」
身体の隅々が緊張で硬直していた。心臓の鼓動が全身に響く。
そして、確かに──
あの感覚。
首筋を撫でる、あの「何かが始まる」予感。
この森は、もう普通の森じゃない。
そしてそれは…始まりに過ぎなかった。




