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朝陽の下の予兆

――エステル……エステル〜。


頬にひんやりとした感触が触れた。小さな何かがこすれるような気配に、身をよじるとくすくすと笑う声が聞こえた。


「もう朝だよ……」


目を開けると、そこにはイレーネの笑顔があった。彼女の頬が僕の頬にぴったりと触れている。朝の光に照らされた髪は昨日よりもずっと輝いて見えた。左右で異なる瞳はあまりにも純粋で…ほんの少し、現実を忘れさせてくれた。


「……おはよう」目をこすりながら呟いた。


簡単に着替えたあと、昨日の残り物――固くなったパン、果物、そして水筒の水で軽い朝食を済ませた。豪華ではないが、今日を始めるには十分だった。


僕たちは手をつなぎながらギルドへと向かった。


街はすでに活気に満ちていた。商人たちは屋台を開き、見習いたちが店先を掃除し、早朝から戻ってきた冒険者たちが情報を交わしていた。


そして、ギルドに到着すると――まるで蜂の巣のような人混みが目の前にあった。


「……こんなに早くから騒がしいな」


最初は、いい依頼が出たのかと思った。だが違った。


掲示板の中央には、目立つ赤枠の巨大な張り紙があった。


【調査依頼】

受注可能ランク:Dランク以上

リリアの森にて魔物の拠点形成の兆候あり。

通常の生息域を逸脱した魔物の目撃多数。

調査報告には銀貨15枚を支給。

異常種・変異種の発見、討伐には追加報酬あり。


(拠点形成……? こんな近くに?)


僕の記憶では、リリアの森の浅い部分にはゴブリンやスライムが棲んでいる程度だった。だが、もしも深部にいるはずの魔物が前線に出てきているのなら――それは異常だ。


「……気になるな」


「危ないの……?」イレーネが不安そうに僕の手をぎゅっと握る。


「まだ……でも、何かがおかしい」


そんな思考を巡らせていたとき――


「エステル〜!」


あの甘い声が僕を呼び止めた。ギルドの受付嬢だった。以前よりも少し艶っぽい笑みを浮かべている。


(また何か面倒なことか…?)


「ちょうどよかった! ちょっとお願いがあるの〜」


「……俺に?」


「うんうん。そこの可愛い子と一緒にね」彼女はイレーネに微笑みかけた。


「例の掲示板の件だけどね。この調査依頼を受けるCランクパーティに、荷物係として同行してくれないかな? あなたの『空間魔法』……いえ、『収納スキル』があれば、きっと助かると思って」


(……もう噂になってるのか)


「強制じゃないけど……ランクアップのチャンスよ。守ってくれる仲間もいるし、安心でしょ?」


イレーネを見ると、彼女は目を輝かせていた。まるで冒険の始まりを待ち望んでいるように。


……はぁ。


「分かった。引き受けるよ」


「ありがとう! じゃあ紹介するね!」


***


案内された先にいたのは、四人の冒険者たち。


まずはリーダーのローランド。軽装の鎧をまとった人間の男性で、栗色の髪を後ろで結び、厳しい眼差しを持つ。言葉少なだが、立っているだけで威圧感がある。


「……お前が新入りか」ぶっきらぼうに言われ、僕は頷いた。


次はリティア。短めのエルフの耳、白い肌、そして森のような緑の瞳。儀礼的な旅装束を身につけ、背には黒い杖を背負っていた。優雅に微笑みながら僕に会釈する。


「ようこそ。無茶はさせないから安心して」


最後はカエル。銀髪と狐の耳を持つ獣人。気さくな笑顔に二振りの短剣。尻尾は常に左右に揺れていた。


「よっ、よろしくなー。最初の傷で泣かないでくれよ? ……冗談だって!」


彼らのやり取りを見て、僕は何となく分かった。


――この人たちは、ただの仲間じゃない。


家族に近い信頼がある。


そして、今……僕もその一部になった。


僕はイレーネの手を握りしめた。


なぜか分からないが――


あの森で、何かが起こる。


そんな予感がした。

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