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外伝:聖剣の選ばれし者

「ルシアン・アルステア」

その名は帝国中に鳴り響いていた。


東部の貴族、アルステア家の末子。

その家系は長年に渡り富と軍事力を築き上げ、帝都とも深く関わってきた。

そして今、家の末子が神の祝福を受けたのだ。


「聖剣…!ユニークスキル【聖なる剣の使い手】…!伝説の英雄たちしか得られなかった力…!」


それは乾いた森に火をつけるような衝撃だった。

貴族たちは祝福し、神殿は祝詞を唱え、

皇帝までもが正式にルシアンへ「太陽の炎騎士団」への加入を要請した。

それは帝国の最精鋭であり、国家の柱。


しかし――ルシアンは姿を見せなかった。


「修練中だ」と周囲には伝えていたが、それは仮面に過ぎなかった。


帝都の下層。法の届かぬ裏通りでは、囁きが風のように流れていた。


「最近、遠くから働きに来た少女たちが失踪してるって…」

「友達の知り合いが、夜に見たんだって。孤児の子が黒い馬車に連れて行かれるのを…」

「森の外れで女の子たちの遺体が発見されたとか…」

「ある情報屋がアルステア家の坊ちゃんを追って、地下娼館や奴隷取引所、薬物の密売場に通ってるって言ってた。でも…その情報屋、数日後には姿を消したよ」


恐怖は噂ではなかった。


ルシアンは、誰にも止められない存在だった。


彼に逆らう者は消えた。

声を上げる者は「いなかったこと」にされた。


そして彼は、鏡の前で微笑んでいた。


上半身裸で、壁に立てかけられた聖剣。

黄金の髪、銀の瞳、傷ひとつない肌。

その姿は確かに、神の祝福を受けたかのように見えた。


「――この世界の主役は、俺だ」

「聖剣。神の選定。誰もが認める英雄…」

「金も、土地も、女も…全て俺のものだ。使われたことを、むしろ感謝すべきだろ?」


その笑みは白く整っていたが、

その目には慈悲も、愛もなかった。

ただの、虚無。


「俺は救世主だ。新たな英雄。物語の中心…

この世界は、俺の手のひらで踊る舞台に過ぎない」


窓のそばに立ち、空を見上げた。

聖剣の光が、静かに彼の手を照らしていた。


その扉の外――

一人の侍女が息を殺して立ち尽くしていた。


ほんの一歩でも音を立てれば、

彼女は――

次の犠牲となる。

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