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エピローグ

「あやかちゃん……ぐぬぬ……」


「まぁ綾音落ち着けって。今のはその……なんだ。友人同士のフレンチキスってやつじゃないか?」


「絶対に違う。私には分かるね、あやかちゃんは本気でアイスを狙いに来てる」


「ど、どうだろうなぁ。それにキスなら今なら誰も見てないししてもいいぞ」


「今すると、私があやかちゃんと間接キスしてるみたいにならない?そして、アイスのキスに対するハードルが今の1件で下がってそうなのも若干不愉快」


「ヤバいヤバい、綾音さん若干メンヘラキャラが戻ってきてますって」


 綾音が病室の扉を睨みつけながら、手首を指の爪でカリカリと引っ掻いている。ま、まずい!その動きは……!


「あ、アイスくん元気かい?様子を見に来たんだけれど」


「お陰様で。けいちゃんと、それにふぃーも俺の事応急処置してくれたんだってな。ありがとう」


「人として当然のことをしたまでだよ。急病人が助けられなくて何が医者志望だってね」


「おめーの文化祭での一件は人として有り得ないことをしてるけどな?」


「てへっ?」


 綾音の睨みつける病室の扉が開き、中に入ってきたのはけいちゃんとふぃーだった。

 けいちゃんはお見舞いにとフルーツを持ってきてくれている。お見舞いのフルーツって嬉しいものなんだな。あれを食べたら体が全回復しそうだ。


「まっちゃは……まぁ居ないか」


「誘ったんだけれどね、なにか用事があるらしくて来れなかったみたいだ」


「しゃーないな。多分まっちゃにとって俺のお見舞いの優先順位は部屋の掃除より下だろう。任意の用事で避けられるだろうな」

 

 まっちゃが俺のお見舞いに来ないことは当然想定範囲内である。逆にあいつが超心配になりながら看病しに来たら怖い。普通に毒が盛られてないか疑うレベルである。


「どうだろうね。アイスくんが事故にあった後も、実はすぐに行方をくらましているから少し心配なんだ」


「なるほどな、まぁ心配ないんじゃないか?まっちゃは化学部の中だとまともな人間側だと評価しているからな」


「そのランキングの私の順位についての話をしようか」


「綾音の順位に関しては黙秘権を行使させてもらう。当然俺より下だ」


「おかしい!おかしい!」


「あはは、病院内で騒がしくしたらいけないよ。僕が持ってきたフルーツでも剥こうか」


「いいのか?ありがとう。りんごが食べたいな」


「分かった。りんごだね、待ってて」


 平和だ……。一悶着あったけれど、ようやく平和な化学部の日常が取り戻せた気がする。

 それに、病院暮らしというのも中々悪くはない。退院までに半月は必要とのことで、夏休みがほぼ丸々潰れてしまうのは請け合いだが、逆に雑念が少ない部屋で受験勉強に取り組むことが出来るというわけだ。

 明日は優実花に勉強道具でも持ってきてもらおう。ここから、真に俺の受験生としての生活が始まるのだ。


 ───────────────────────

 ♤


 呼び出されたのは駅前の公園、湖の横にぽつんと置かれているベンチの前に目当ての人間は立ち尽くしていた。


「昨日も呼び出してもらった所悪いけど、無理だから」


「まぁそんなに怒らないでくれよ、マイハニー。ただ僕たちの仲を取り戻そうって話なだけじゃないか」


「普通に無理、貴方とは絶交したはずでしょう?」


「絶交したとはいえねぇ、同じクラスになってしまったのだ。嫌悪感を丸出しにするのも紳士的ではないだろう?」


 私の目の前にいるのは熊野優希。イケスカない男で、文化祭のクラス劇ではふぃーちゃんと結ばれる──なんかアイスが邪魔してたけど──予定だった主人公役をやっていた人間だ。

 そして、私の元カレでもある。


「だから、私としてはあなたと関わらないようにしているでしょ。言いたいことがそれだけなら私帰るから」


「あのさぁ」


「っ!?」


 私がくるりと背を向けて帰ろうとすると、その回転を止められ、そのままベンチに押し倒され、身動きが取れなくなる。


「お前勘違いしてね?いつからお前って僕に指図とか出来るほど偉くなったの?」


「……チッ」


「まぁいいや。本題はこれじゃないんだ。僕は学歴や試験方法にこだわる質じゃないから、指定校推薦を使って大学に行くことが決定しているんだ」


「へぇ、自慢?」


「いいや、我が校における指定校推薦の合格率は流石に高い。このエレガントな方法を用いた僕に嫉妬して、自慢と捉えるのも不思議では無いけど、今回は若干違う」


「本題は何、さっさと答えて」


「うるせぇな黙って聞いてろよ雌豚が」


「い、く、ぐが」


 熊野の反感を買ってしまい、彼の左手が私の首に添えられ、強く締めあげられる。


「それでさ、そしたらこっから卒業までの間が暇になるだろ?だから思いついたんだ」


 熊野の考えることだ。どうせろくなことではない。そして、その予感は的中した。


「中学時代を再現しようかなーって」


「!?」


 眼前の邪悪な顔がきらきらと輝く笑みに変わった瞬間、私の首は解放され呼吸が自由になる。

 だが、こいつが今言った言葉──中学時代を再現って……それだけは絶対にあってはならなかった。


「それは……だ」


「まさか否定なんてしねぇよなぁ?」


「……」


 否定は先に潰されてしまった。おかげで声が出ず、沈黙が場を支配する。


「よぉし、沈黙は肯定と受け取ろう。それじゃ、俺が言いたかったことはそれだけ、だから新学期からきちんと再現の準備、しておけよ?」


「……チッ」


 言いたいことだけ言うと、熊野は私のことなど気にも止めず公園から出ていってしまった。

 中学時代──私の思い出したくもない黒歴史、いいや、あんな過去は存在しなかったに等しい。あんな私は私ではありえないはずだ……。それを再現だなんて……。


「あやねん、ごめんなさい」


 私が今ここで出来るのは最愛の親友への謝罪。ただ、それだけだった。




16章 夢の続きは終わってる


の更新は数ヶ月後となりそうです。お待ちください。


【追記】

すみません。就活が忙しいです。就職決まるまでお待ちください。

コメント、レビュー、評価、等して頂けると励みになります。よろしくお願いいたします。

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