幕間4
♣︎
「よし、それじゃあコメダに行こう。けいちゃん先導よろしく〜」
「あぁ、任せて。みんな僕に着いてきてね、はぐれないように」
「はーい」
私は先導のけいちゃんと川合さんについて行くようにして歩き始める。
左足の親指と人差し指の間は少し痛むけど、耐えられないほどじゃない。
(……はぁ)
私は心の中で酷く大きなため息を付く。
(私は何をしているんだろう。)
せっかくのお祭りなのに、満足に楽しむことも出来ず、それどころかずっと楽しむこととは真逆のことを考えている。
アイスにも、他の化学部のみんなにも心配かけて、こんな自分が嫌になってしまう。自分の存在が目の前に落ちていた道路上の石ころのようにも思えてくる。
(よし、もう考えるのはやめよう)
最近予知は外れてるんだ。じゃあ『あの予言』だって外れる可能性もあるじゃんか。何をこんなうだうだ考える必要があったんだ。
「あっ」
しかし、よく前を見ずに歩いていたからだろう。目の前にあった手のひらで握りしめられなそうなほどの大きさの石に気付かず、下駄で思い切り踏んづけてしまう。
と、同時に、さっきアイスに応急処置してもらった花緒が擦りむいた部分にくい込み、痛みと石上のバランスの取りにくさから、体が左側に倒れ込んでしまう。
(あ……)
そして、私の目の前の視界に映ったのはトラックだった。──つまり、予知は現実になってしまったのだ。
何も臆することはない。だって、私は最初からこれを知っていて、そして、諦めた状態でここに立っていた。
何も後悔することなんて残っていない──残っていないはずなのに。
(なぜ目が潤むんだろう)
私の目は涙を流すまでには至らないものの、確実に潤んでいた。視界が滲み、トラックの光が散乱することで私の視界は真っ白と何も見えなくなる。
「綾鷹!」
途端、私の右腕になにか大きな力がかかるのを感じた。
何事歌を判断する前に、私の体は大きく右側へと傾き、歩道におしりを打ち付けてしまう。
「いたた……」
「あっ!?」
尻もちの衝撃で痛がっている間もなく、後ろから白餡ちゃんの驚いたような、悲鳴のような声が聞こえてくる。
そして、トラックのクラクションがけたたましい音を鳴らしているのを感じ、そちらに反射的に体を向けてしまう。
瞬間、聞きたくもない鈍い破裂音と共に、アイスの体が放物線を描いて飛んでいくのが目に入った。
トラックに跳ね飛ばされたアイスは受身を取ろうとはしていたのだろうが、全身をコンクリートの道路に打ち付け、そのまま動かなくなる。
惨状はそれだけでは終わらない。アイスの体の下から液体が滲み出てきたのだ。赤い液体──血だ。血がアイスの体の下から湧き出ている。
「いやぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
真っ先に駆け寄ったのは白餡ちゃんだった。
彼女は甲高い悲鳴をあげながらアイスに近づき、泣きじゃくりながらアイスに話しかける。
「アイス、?嘘だよね?嘘でしょ!?ねぇ!?」
そして白餡ちゃんがアイスの体に手を触れ揺さぶろうとした時だった。
「揺らしちゃダメ!!!」
続いて声を上げたのは川合さんだった。彼女はアイスの体に近づき、全身をくまなく、ただ的確に触り始める。
「意識はないけど呼吸はある。けいちゃん!すぐ救急車を呼んで!」
「分かったよ」
「呼吸はあるから時間的猶予はあるとはいえ、出血量が多すぎる。止血するから、まっちゃちゃん!白餡ちゃん!運転手と協力して交通規制!二次被害防いで!」
「わ、分かった」
「了解」
「嘔吐、痙攣なし。脳に損傷はいってない……?傷口は後頭部か。寝かせたままじゃ止血できないね。ごめん綾鷹ちゃん!アイスくんの頭起こすの手伝って貰える!?」
「あ……は、はい!」
ぼーっとしていた私にも、とうとう川合さんから指示が入る。
言われた通り上半身を持ち上げ、アイスの頭を川合さんの上半身に倒れ込むようにする。
「か、川合さん!?」
私がアイスを持ち上げている間、川合さんは自身の着ている浴衣の帯を解いていた。
結果、川合さんの肌や下着は公然の徴収に露出され、私にも幾ばくか動揺が走る。
しかし、彼女はそんなこと気にも止めないかのようにアイスの頭を自身の胸部に寄せ、アイスの頭に先程の帯を巻き付けていく。
「たぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
そして、巻き付けた帯の結び目が出血部になるようにして、帯の両端をすごい力で引っ張り始めた。素人目にも分かる、圧迫止血だ。
「おい、なんだあれ?」
「誰か惹かれたってよ。ってかやばくね?あのブラ見えてる子超可愛くない?」
「か、川合さん!?」
川合さんが必死に応急処置をしている姿を野次馬たちが面白半分か、彼女の滑稽な姿を求めてか、パシャパシャとスマートフォンで撮影し始める。
私は彼女の尊厳を守る為にと、カメラと川合さんの間に割って入ろうとするが、当の本人からそれを止められる。
「綾鷹ちゃん!そんなことする暇があったらアイスの足を伸ばしてあげて。とりあえず血流をとめないようにしないと」
「で、でもそれじゃ川合さんが……」
「私のことはどうでもいい!!」
「っ!?」
「羞恥心で命は買えないんだよ。誰かを助けることが出来るのであれば、私は命以外の何を捨てても構わないと思ってる。自分の恥程度でそのチャンスを棒に振るなんて言語道断だね」
「う、うん……」
「分かったら手伝ってもらえる?私も握力には限界がある。これを両側に向かって引っ張って欲しい」
「わ、分かりました」
私はなんて不甲斐ないんだろう。こんな時、私は何も出来ない。
そう、あの時もそうだった。ただ、ただ見ているだけだった。
こんな自分が嫌になる。情けない自分を捨てたかった。
私でも誰かの役に立ちたかった。
だから──
「あ、救急車来たよ!意外と早いもんだね」
周囲の混乱を招かないよう、野次馬や交通規制を行っていた白餡ちゃんが救急車の到着に気づき、私達にはホッとしたような、安堵のような感情が芽生え始める。
アイスは救急隊員によって担架で運ばれていった。同乗するのは化学部の全会一致で川合さんとなった。
彼女とアイスを乗せた救急車は病院へと運ばれていく。直にどの病院に搬送されたか連絡が来るだろう。そうしたら、すぐに向かう予定だ。
「アイス、大丈夫かな」
「心配することじゃないよ白餡ちゃん。あのアイスくんがこんなことでくたばるわけないじゃないか」
「そうだね。うん、きっとそうだよ!」
「病院の受け入れ状況にもよるけれど、1番アイスくんが受け入れられる可能性が高い病院はあそこだね。今のうちに向かっておこうか」
「賛成!」
「う、うん」
「あ、ごめん。私はパス」
「……え?」
アイスの搬送されるであろう病院へ向かうことに反対したのはまっちゃちゃんだった。
まっちゃちゃんはしかめっ面でスマホを見ながら、申し訳なさそうにこちらを伺っている。
「ちょっと厄介なやつに呼ばれちゃって。ごめんけど断れないんだ。後からすぐに向かうと思う」
「ほーちゃん大丈夫?祭りとはいえほーちゃんをこの時間に1人にするのは不安なんだけど」
「あやねんは心配しすぎ。私はあやねんほど弱くないから」
「さりげなくディスったね?」
「まぁ仕方ないね。詳しい事情は聞かないけれど、そういうことなら僕たち3人で向かおうか」
「ごめん。出来るだけ早く向かうから」
そう言ってまっちゃちゃんは人混みの中へ紛れていってしまった。
「さ、僕たちも急ごう」
しかし、まっちゃちゃんのことに今深く構ってはいられない。私たちは病院へと急ぐことへした。
15章 ×××は終わってる
の更新は11/24となりそうです。お待ちください。
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