はじまり
「皆の者、聞きなさい。」
巫女の冷たい声がその場に響いた。
辺りには瓦礫の山と化した家々と、倒れた村人たちの姿がある。
あちこちからは、悲鳴や泣き声が聞こえ、混乱と恐怖が支配する場所と化していた。
年に一度の祭りになるはずだった広場は恐ろしいほどの地獄絵図に変わっている。
「妖怪どもを村に呼び寄せたのは天穹院紅羽、その者だ!」
巫女は迷いなく紅羽を指差した。
あまりに突然のことに紅羽はギョッとして立ちすくむ。巫女はさらに言葉を重ねた。
「天穹院家が持つ封印、それを紅羽が解いたのです!」
「そんなこと……!」
紅羽の声は震えていた。彼女には思い当たる節が何一つなかった。
しかし、巫女の一言にその場の空気が変わったのが、紅羽にもわかった。
村人たちの顔が、驚愕から次第に憎悪へと変わっていく。
「天穹院さまが…?」
「一体なぜ、このようなむごいことを…!」
「そんなはずはない!私は何もしていない!」
紅羽は否定しようとしたが、村人たちの視線を感じて立ちすくんだ。
その目には明確な敵意が浮かんでいる。
(…なぜ、こんなことに…。)
広場には未だに、人々の恐怖と混乱が渦巻いていた。
紅羽はその視線に押し潰されそうになりながらも、その場に立ち尽くすしかなかった。