1-9 森のオオカミを倒してみよう
王都イスティルから南に馬車で一週間ほど。イスティル平原を抜けた先にイスティル大森林と言う名の森林地帯があり、そこに例のフェンリルが逃げ込んでいるとハルコさんから教えて貰っていた。
《しかし……まさか黒が転移魔法を使えるとは》
「白が使ってるのは見てたし、わたしのスキルに【補助魔法】ってのがあったから出来るかなって思って」
《さいのうのかたまり》
「えへへ、誉めても何も出ないよー」
通常なら馬車でも一週間、歩きでは半月ほどもかかる距離ではあったが、黒はいつの間にかマスターしていた転移魔法を使い、イスティル大森林の入り口付近まで一瞬でやって来ていた。
転移魔法と言っても実はいくつか種類がある。転移範囲によってランクが違い、黒はあっさり使用していたが広範囲の転移魔法はかなりランクの高いものであった。
「んー、流石にわたしの転移魔法じゃフェンリルをの近くに直接は飛べないみたいだよ」
《いや、まあ十分やろ》
《あとは地道に探すしかないけど》
《……ここには魔物も多い。気を付けろ》
「魔物かー。わたし、スライムしか会ったことないから不安だなあ」
例のダンジョンでは結局スライム以外の魔物は見つからなかったため、黒の魔物との戦闘はスライムだけであった。
黒は言葉だけは不安を装っていたが、その実、魔物に会えることに少しわくわくしてもいた。
《それなんだけど……黒がスライム戦で使ったブラックホールはここでは使わないように》
「ええっ!?」
《確かに……あれは強力ですが強力すぎるのも問題です。私が見た所、あれは自分以外の全てを飲み込む危険なもの。ダンジョンならいざ知らずこのような場所では他の動物や植物を巻き込んでしまうかもしれませんし、何よりまだ魔法の扱いに慣れていないの黒では暴走の可能性もあります》
「むぅ……確かに。わかったよ、なるべくブラックホールは使わないようにするよ」
《なるべく?》
「わーかーりーまーしーたー! 使わない、使いませんよっ!」
スライムを倒した決め手となったブラックホールの使用を禁止された黒はあからさまに不満を漏らす。
《──黒っ!》
「わかってる!」
そんなやり取りをしていたフィオたちの前に望まぬ客が現れる。
体長2メートルを超える大きな灰色の毛の狼が数頭、周りを取り囲んでいたのである。
《ひっ! い、犬っ!》
《赤はいぬぎらい……だもんね》
「もしかしてあれがフェンリル?」
《いや、あれはただのグレイウルフって狼じゃんよ》
《フェンリルはもっともっとおっきい狼なんだよ~☆》
「あれより!?」
その魔物は【グレイウルフ】という狼でこのイスティル大森林に棲息する魔物の中では最も凶暴な魔物であった。群れで獲物を襲い、多くの冒険者や旅人が餌食となるためイスティル大森林には本当に腕に自身のある者しか訪れはしない場所であった。
《それより大丈夫ですの?》
「まあ、見ててよ。試したいことがいっぱいあるから
黒はそう言いながらポケットから虹の記憶を取り出し、武器に変化させる。だが、それはスライム戦の時の鞭とは違い、二振りの短剣であった。
《短剣?》
「短剣術スキルがあったからね。試したいことその1だよ」
黒は両手に短剣を構えると一番近くのグレイウルフへと向かう。
グレイウルフはフィオの接近に対し、自身も飛びかかりカウンターを狙う。
だが、グレイウルフの爪も牙も空を切る。フィオの姿は一瞬でその場から消えていた。
次の瞬間、グレイウルフは背中に短剣を突き刺され絶命していた。
《おお、すごいやん!》
《転移魔法によるショートワープか》
「へへん、試したかったことその2成功!」
黒は覚えたばかりの転移魔法を目の届く範囲で使用し、グレイウルフの背後を取っていた。
仲間がやられたことでグレイウルフたちは一気にフィオに襲いかかる。
「それじゃあ、次はこれ!」
グレイウルフの攻撃を転移でかわしながら、黒は自身の周りに無数の黒い矢を発生させる。
「ダークネス・アロー!!」
それはダンジョンで白が見せたシャイニング・アローの闇属性バージョン。初級魔法である【ダークネス・アロー】は他のフィオたちも所有していた【無詠唱】スキルの効果で瞬時に発動でき、その威力も【魔力増幅】のスキルで高まっており、灰色狼たちを次々と闇の矢が撃ち抜いていく。
《おおー、やるじゃんね!》
《魔法もスキルも使いこなせてますわね》
「まだまだ行くよー!」
狂暴な魔物であるはずのグレイウルフも黒の前には全く相手にならず、その戦い方の実験台とされてしまう。
黒が次に試したかったのは【双剣術】のスキル。
両の手に持つ短剣は双剣へと変化する。
「てぇえええいっ!」
黒は同じく剣を使用する赤や藍ほどではないが、初めて剣を扱ったにしては十分すぎた。
一撃目で狼の攻撃を打ち払い、二撃目でその急所を打ち貫く。
そして、そのまま最後の一匹のグレイウルフに向き合うが、仲間たちを次々に殺された最後の狼は思わず逃げ出してしまう。
「あ、逃げちゃった。どうしよう、追いかける?」
《深追いは禁物だ》
「ん、わかった」
こうして黒の二度目の戦闘は終了し、虹の記憶を元の玉の状態に戻してポケットにしまう。
《しかし、鞭に短剣、双剣に闇魔法か。黒は器用やなあ》
《こんなに戦えるなんて桃ちゃんもビックリだよ~☆》
「あとは召喚が出来るようになればもっといっぱい魔物を殺せるんだけどねー」
《へ……?》
無邪気に笑いながら自覚なくそんなことを漏らす黒に、他のフィオたちはハルコさんの言う彼女の闇をわずかではあるが感じてしまうのであった。