5-13 きんだんのまほう
「ははは、見事じゃ!」
ずっと高みの見物をしていたタルト・タタンは地面に降りて、ラリゴ・リラゴを倒した三人に称賛の拍手を送る。
「タルト・タタン……」
自らが改造したラリゴ・リラゴがやられたというのにタルト・タタンは全く気にする様子は無いようであった。
《ラリゴ・リラゴは倒せたけど……》
《まだタルト・タタンが残ってますわ》
《緑も他の二人ももう魔力切れ寸前じゃんよ》
《緑にしては燃費の悪い戦い方してたもんね》
《いや、そうしなければ奴には勝てなかった。おそらく他の誰がやっても同じだっただろうな》
普段は省エネな緑も今回ばかりは強力な魔法を惜しげもなく使い、その魔力は枯渇寸前であった。クゥやエリスも同様である。
フィオの魔力は他のフィオに代わると魔力残量もそのフィオのものとなるため、そこまで問題はないがクゥやエリスはそうはいかない。
もしタルト・タタンと戦うならば今度はフィオ・フローライト一人で戦わなくてはならないのである。
「さてと……んじゃ、わしは帰るかのう」
「……え?」
いつ攻撃が来てもいいように身構えていた緑であったが、タルト・タタンの口から飛び出してきたのは予想もしなかった言葉であった。
「……たたかわないの?」
「何じゃ、小童。わしと戦いたいのか?」
「……そうじゃない……けど」
どうやらタルト・タタンに戦うつもりはないらしく、それを知った緑も思わず警戒を解く。
「わしは暇つぶしが出来て満足じゃよ。面白いもんも見れたしな」
「タルト・タタン……もうひとつだけ……しつもん……いい?」
そんなタルト・タタンに対し、緑は最後にどうしても尋ねておきたいことがあった。
「欲張りさんじゃのう。ま、今日は気分がいいから別にええぞ?」
「じゃあ……たると・たたんはえるふのもりで……いったいなにをさがしてたの?」
それはタルト・タタンの目的。彼女がエルフの森で何かを探していることは彼女自身が言ってはいたがそれが何なのかは元エルフでありこの森が故郷であった緑はずっと気になっていた。
「ああ、別に大したものじゃないさ。かつてハイエルフの里からエルフによって持ち出された禁断の魔法。それを記した魔道書じゃよ」
「禁断の……魔法?」
「おばあちゃん、知ってる?」
「……フィオもしらない」
禁断の魔法。長らくエルフの国に関わりのある緑であってもその存在は初めて聞くものであった。
「ま、小童たちが知らなくも無理はないさ。おそらくこの国の一番長生きなエルフですらその存在は知らないだろうさ。何せわしですらその存在を知ったのはつい最近のことじゃからな」
1000年を生きるハイエルフのタルト・タタンにしてみれば、300年程度しか生きれないエルフがかつて持ち出した禁断の魔法の存在を知らないとしても当然だと思っていた。
「それで……きんだんのまほうはみつかったの?」
「……いいや。この国、この森を隈無く見ては回ってみたが、そんなものはどこにも無かった。これだけ探しても見つからないとなるとどうやらこの大陸のエルフの里には無いようじゃな。わしも忙しい身じゃからこうして探しに来れる時間も無いんじゃ」
残念そうに肩を落とすタルト・タタン。禁断の魔法とやらがこのイスティル大陸のエルフの里に存在しない以上、彼女はもうここに用はないらしい。
「小童もどこかで禁断の魔法を見つけたらわしに知らせるんじゃぞ」
「……きんだんのまほうって……どんなまほう……なの?」
「なあに、何てことない……ただの“死者蘇生”じゃよ」
タルト・タルトはそれだけ言うと、転移魔法でその場から立ち去ってしまう。エルフの森の中では結界により転移魔法は使えないはずではあるが、タルト・タタンはそれを無視するかのように転移魔法を使ってみせた。
やはり相当な実力者であることは間違いないのであろう。
《死者蘇生……》
《死んだ人を生き返らせる魔法だよね? あれ? それって……》
《ええ、女神が使う転生者召喚の魔法と原理は同じはずです。あれは異世界から強力な魂を召喚してこの世界で蘇生させるという女神にしか使えない奇跡の魔法ですからね。もちろんその分魔力消費も半端ないですから女神であっても年に一度使えるかどうかですが》
《あー、だからわたしが召喚されてハルコさん嫌な顔してたんだね。次の召喚まで時間かかるから》
《ハルコさんのことはともかく……もし本当に死者蘇生魔法なんて存在するとしたらとんでもなく厄介なことになりそうだね》
死者蘇生の魔法。それが本当に存在するのか、そしてタルト・タタンはそれを手に入れて何をしようとしているのか。謎は尽きないが、今考えても仕方ないため、とりあえずフィオたちはエルフィアへと帰ることにするのであった。
「……はいえるふのたると・たたん……か。たぶん、こんどあうときは……たたかうことになる……とおもう」




