5-10 たると・たたん
《か、改造って……じゃあ、やっぱりあれがランウ・タンオ!?》
《確かに魔力は似てたけど……まさか本当に本人とは。あんなに姿が変わってちゃわかるわけないよ》
《しかし、納得は行きました。ハイエルフである彼女ならエルフの結界も難なく通れるでしょうし、封印を解くのも簡単でしょうからね》
《それにしても魔改造生物だなんて……あたしたちをあんなゴリラと一緒にされるのは心外ね》
タルト・タタンにより封印を解かれたランウ・タンオはその場で彼女により改造され、見る影もない姿へと変貌していた。
かつて呪いと幻術でエルフたちを苦しめた老獪な魔族は、ハイエルフの手によって知性の欠片もない暴力の化身となったのである。
「しかし、あれは面白い封印術じゃったな。身体ではなく魂を縛る魔法か。長い時を生きるわしでも初めて見たぞ。やっぱり世界は広いのう」
「……そんなことより……どうしてランウ・タンオ……を?」
「ん? ああ、単なる暇つぶしじゃよ。面白いもんを拾ったんで改造したまでじゃ。最近はドワーフの技術にも興味があっての。あの鋼の腕はなかなかじゃろう?」
タルト・タタンはまるで自慢の玩具を見せびらかすように楽しげにランウ・タンオを改造した経緯を話す。
《なんかこの人ヤバくない!?》
《ええ、黒がそう言うくらいですからよっぽどですわね》
《ずっと封印されてたのに無理やり起こされて改造されたランウ・タンオが何か可哀想になってきたじゃん……》
《だが……奴が敵なのには変わらない。そして、この女もだ》
先程はランウ・タンオの攻撃からフィオたちを守ってくれたタルト・タタンであったが、彼女は自らを敵だと宣言した。
何の意図があったのかはわからないが、タルト・タタンもフィオたちの敵であるという事実は変わらないだろう。
「さて、小童。他に何か聞きたいことは?」
「…………」
聞きたいことは山ほどあった。ハイエルフのこと。タルト・タタンの目的のこと。ランウ・タンオのこと。
「……いや、いいよ」
「ほう、そうかい? もうサービスは終わりじゃぞ?」
「…………うん、いい」
結局、緑は何も聞かなかった。ここで話を聞いても聞かなくてもやることは変わらない。
「んじゃ、わしはおぬしらとこいつとの戦いを見学させてもらうとするかの。色々とデータを取っておきたいんでな」
タルト・タタンはそう言うと、転移魔法でまたしても場所を移動する。どうやら近くの木の上へで高みの見物を行うつもりらしい。
「おっと、そうじゃ。言い忘れておった。そやつの新しい名はラリゴ・リラゴ。魔改造生物ラリゴ・リラゴじゃよ」
その言葉を合図にするかのようにランウ・タンオ──もといラリゴ・リラゴは再び暴れだす。
「タタン! タタンッ!!」
ラリゴ・リラゴはまたしても鋼の腕を振るい、激しく地面を叩く。すると大地から土の槍が発生する。
《あいつの鳴き声ってもしかして、タルト・タタンのことかいな!》
《タルト・タタンに改造されたことを怒ってるのかな~》
《……もう自我は残っていなさそうだがな》
「……どっちでも……おなじだよ」
緑は木人形を操作し、土の槍を避けながらラリゴ・リラゴを押さえ込む。だが、やはりパワーではラリゴ・リラゴの方が格段に上であった。
「人形使いか。人形が人形を使うとは面白いのう!」
「……うるさい」
タルト・タタンは戦いに手出しはしてこなかったが、口出しはしてきていた。どうやらフィオが女神の人形であることも見破っているようであった。
「エレメンタル・アロー!!」
「あー、ダメダメ。子エルフよ、そんなに矢を無駄撃ちして魔力を無駄にするくらいなら一矢ずつ集中して放つ方がいいぞ」
「え、え?」
エリスの援護魔法に対して、タルト・タタンは敵ではあるはずだが何故かアドバイスを送る。
「フレイム・ストライクっ!!」
「そして、そこの子猫は……論外じゃな。武器はかなり良質じゃが、使い手がまだまだじゃ。ラリゴ・リラゴを相手にするには三年は早いかのう」
「そ、そんなのアタシが一番わかってる!」
タルト・タタンはクゥの実力も一太刀見ただけで把握しており、手厳しい言葉をクゥに投げ掛ける。
《あいつ何なの!?》
《タルト・タタン……真意が読めませんね。いったい何が目的なんでしょうか》
《でも……攻撃されないだけマシかもね。僕の勘だとあのハイエルフ……めちゃくちゃ強いと思うから》
《それは……確かに》
大きな魔力を垂れ流しているラリゴ・リラゴに対し、タルト・タタンからは一切の魔力を感じない。それは魔力が無いというよりも上手く隠しているということ。その実力がフィオたちを遥かに凌駕していることは全員が感じていた。




