5-9 はいえるふ
「フレイム・ストライク!」
「エレメンタル・アロー!」
クゥが前衛から攻撃、エリスが後衛から援護と隊列はエルフィア・トライホーンの時と同様であったが、今回はそれに加えて緑が中衛から木人形を操作して攻撃、援護、ヘイト管理を行っていた。
「タタン! タタン!!」
「ダメ……全然効かない」
「魔法でも効いてないよー!」
だが、クゥの聖剣による攻撃もエリスの魔法も怪物にはまるで効かず、怪物は二人を狙う。
「……そうはさせない」
しかし、その攻撃は緑が操作する木人形が防ぎ、クゥやエリスは無事であった。
《そもそもあれ何なんだろう? 魔族かな?》
《魔族にしては知性の欠片もないですわよ?》
《でも、姿は全然違ってもあの魔力はランウ・タンオにどこか似てる……けど、250年も前のことだからなあ。僕の気のせいか……?》
緑が表で戦っている間も他のフィオたちはその怪物についての考察を続けていた。
今現在わかっていることはそう多くはない。
大猿の怪物は土の魔法を操り、鋼の魔力で身体を強化しているようであった。そして、白はその魔力が以前戦ったランウ・タンオのものと似ていることを感じ取っていた。
《ランウ・タンオが封印されてる間にああなっちゃったって線は?》
《どんな封印やねん!》
《あれは魂を封印するもの。そんな効果はないはずだ……ないはずなんだけど》
《ランウ・タンオがいないってのも気になるわね。今、この森で大きな魔力反応はこのゴリラだけだし》
《ランウ・タンオはいったいどこに消えたじゃん?》
白の友人が封印したランウ・タンオ。その封印を破ったのは誰なのか、ランウ・タンオはどこに行ったのか、そもそも目の前の化け物は何者なのか。
考えても今わかることはそう多くはなかった。
「……さんびきのこぶた」
緑は再度三体の豚人形を出現させ、怪物の狙いを分散させる。
「ヴァイン・バインド!!」
エリスは後方から拘束魔法を唱えるも、緑の時と同様に怪物のパワーの前には意味を成さなかった。
「フレイム・ストライクっ!!」
クゥは前衛で攻撃を仕掛けるも、聖剣の一撃であってもやはり怪物の硬い身体に傷一つ付かなかった。
「全然だめだぁ!」
「こんなことって」
二人に向かう攻撃は全て緑の木人形が引き受けているとはいえ、やはりこのパーティでは怪物を倒す火力が足りなかった。
《どうする? わたしか赤が出ようか?》
《いえ、ここで下手に入れ替わるとクゥさんやエリスさんに攻撃が向かいます》
《……しばらくは緑に任せるしかないか》
《歯痒いわね! あたしの炎ならあんな奴!》
《あなただと森ごと燃やしそうですわよ!》
「──おやおや、だいぶ苦戦しておるようじゃのう」
「……っ!?」
怪物との戦いを続けていた緑であったが、突然後ろから声が掛かる。
木人形は操作したまま思わず振り返ると、そこには銀髪の幼いエルフが立っていた。
「……えるふ?」
「ハズレじゃ、小童」
銀髪のエルフはそう言うと、瞬時に魔法障壁を発動させ、怪物の攻撃からその場にいる全員を守るのであった。
「……あ、ありがと」
「いやいや、礼には及ばんよ。何せわしはお前らの敵じゃからな」
「……え?」
ニコニコと笑顔のままそう言い放つ少女。その喋り方は少女のそれではなく、老人のようであった。
「……あなた……なにもの?」
「わしか? わしはタルト・タタン。通りすがりのハイエルフじゃよ」
《ハ、ハイエルフ!?》
タルトと名乗ったハイエルフの少女に白は驚きを隠せなかった。
《どしたの!?》
《ハイエルフはエルフよりも強力な魔法を扱い、エルフよりも数倍は生きると言われる古代のエルフ。だけど、ハイエルフなんてもうとっくに滅びてるものと……》
「……あなた……ほんとうにはいえるふ?」
「ま、確かにエルフとハイエルフの外見的違いなんてほとんど無いから疑うのも当然か。じゃが、わしは齢1000を超える正真正銘のハイエルフじゃよ。何なら1000年前の話でも聞かせてみせようか?」
ハイエルフはエルフの祖とも言うべき純血種。だが、強力な魔法を操る種族も次第に歴史に埋もれていき、現在では絶滅したとされている。
はずであった。
だが、ハイエルフはまだこの世界に生き残っていた。タルト・タタンを名乗るハイエルフが本当にハイエルフだという保証はないが、嘘を吐いているようにも見えなかった。
「……それで……どうしてはいえるふがこんなところに?」
「なに、ちょっとした探し物の途中じゃよ。各地のエルフの里を回っておってな。そうしたら面白いものが封印されとったから息抜きがてら、こやつで遊ぶことにしたんじゃよ」
「……ふういん……まさか……」
「ランウ・タンオとか言ったか? 何年封印されとったどこの雑魚魔族かは知らんが、わしの魔改造にかかれば、ほれこの通り」
タルト・タタンはそう言うと、転移魔法で瞬時に怪物──妖樹翁ランウ・タンオだったものの肩の上へと移動するのであった。
「どうじゃ? わしの特製魔改造生物は?」
「ほむんくるす……」
女神により造られた神造生物であるフィオ・フローライト。そして、ランウ・タンオの肉体を魔法で改造して造られたというその魔改造生物。
どちらも魔法を用いて造られた生物というカテゴリーとしては全く同じ存在であった。




