6-7 らんう・たんお
《妖樹翁ランウ・タンオ……》
翌日。日が昇ると同時にフィオたちはエルフィアから出立する。
森の悪魔が封印されているのはエルフの森の更に奥。かつて、白がランウ・タンオと戦った場所であった。
《250年前の魔王軍四天王。妖樹翁ランウ・タンオは呪いと幻術を操る実に嫌らしい戦い方をする奴だった》
道すがら、昨日言った通りに白は250年前の昔話を始めるのであった。
《エルフの森を攻めにきたランウ・タンオは手始めにエルフの国の姫に呪いをかけた》
「……それがむかしのフィオ……ヒスイ・ラフォーレだよ」
当時の緑──ヒスイ・ラフォーレはわずか17歳。人間でいうとまだ6歳ほどの幼い子供であった。
そんな子供に妖樹翁は呪いをかけたのである。
《なんでまた緑に呪いを?》
《どうもエルフの巫女姫が邪魔だったらしいね。魔王にとって何かしら不都合なことがあったとは思うけど詳しくはわからない。そもそも当時のエルフの巫女姫は二人いたからね》
《あ、双子の妹!》
ランウ・タンオが呪いをかけたのはエルフィアの幼き巫女姫の片割れ。双子の姉のヒスイにだけであった。メノウの存在を知らなかったのか、他に何か意図があったのかはわからないが、呪いはヒスイにだけかけられ、彼女が死ぬ原因となった。
《僕は当時のエルフィアの戦士たちと共にランウ・タンオと戦った。だけど、それが大きな間違いだったんだ》
《間違い?》
《さっきも言った通り、ランウ・タンオは幻術も得意としていた。幻を見せられたエルフの戦士たちは同士討ちを始めて、互いに殺しあってしまったんだ》
《そんな……》
《マジで嫌らしい戦い方よね。あたしがめちゃくちゃ嫌いなタイプだわ》
《うちもや。聞いてるだけで腹立つわ》
白の話を聞き、正々堂々とした戦い方である赤や紫は卑怯なランウ・タンオに嫌悪感を示していた。
だが、ランウ・タンオは魔王軍の四天王の一人であった男。彼にとってはそのような戦い方こそが普通なのである。
《それで、白はどうやってそいつを倒したの?》
黒は一番気になったことを白に尋ねることにする。
エルフの戦士たちが幻術にかかり、実際にランウ・タンオと戦ったのは当時のフィオ・フローライト──白ただ一人であった。
《僕は魔法使いだからね。基本的には魔法戦さ。互いに魔法を撃ち合って、魔力が尽きるまでひたすらに戦った。戦って、戦って、隙が出来た所を彼が封印したんだ》
《彼?》
《当時の僕の仲間……かな》
ランウ・タンオは白が封印したような口振りであったが実際は違っていた。白が戦い、もう一人がランウ・タンオを封印した……とのことである。
《何か聞いてた話と違うやないか》
《白は単独でランウ・タンオに挑んだのではなかったのですね》
「フィオもはつみみ……白のことはおぼえてるけど、もうひとりはむかしのフィオもしらない……」
《……彼は恥ずかしがり屋だったからね。ともあれ、【勇者】でも何でもなかった僕と彼は奴を封印することしか出来なかった。そして、その封印もそう長くは持たないことは僕も彼もわかってた》
《それで現在封印が解けかかってるんだね》
《……そういうことだね》
妖樹翁ランウ・タンオに関する昔話。これまで話を聞いて、フィオたちにはどうしても疑問に感じる部分があった。
すなわち、誰がランウ・タンオを封印したのか。
《……倒せなくでも再封印しちゃえばいいと思ってたけど、封印したのが白じゃないなら難しいよね》
《というか、誰なんですの!? 当時の緑も知らないっておかしくありません?》
《ま、250年も前の話だしなあ。白も話したくないことくらいあるじゃんよ》
《白ちゃんの秘密主義は今に始まったことじゃないしね~》
《あいつ、昔のこと全然話さないのねえ》
《……何にせよ、もう封印は出来ないのなら倒すしかない》
《…………》
結局、白はそれ以上は何も話さなかった。
しばらく歩き、三人は森の奥。ランウ・タンオが封印されているという大岩の前までやってくる。
「ここに森の悪魔が? 私、初めて来たよ」
「……みはりのひといがいはちかづけないよう……いってあるから……あたりまえ」
「それで封印は?」
「……え?」
セリスの話だと昨日の時点でランウ・タンオの封印は弱まってはいたもののまだ解けてはいなかった。
だが、今目の前にある岩には大きな亀裂が入ってしまっていた。
《もしかして、もう封印が!?》
《その可能性は十分あるんだけど……どうもおかしい》
《何か変ですの?》
封印に立ち会った白はその違和感にいち早く気付く。
《この封印……中からじゃなく外から破られてる!》
《え!?》
《てことは……》
《考えたくないけど……ランウ・タンオの封印を破った誰かがいる》
つまり、ここにはランウ・タンオ以外に敵がいるということ。
妖樹翁ランウ・タンオを倒すというこのクエストは一気にその難易度が上がるのであった。




