5-6 はかまいり
森の悪魔こと元魔王四天王・妖樹翁ランウ・タンオはエルフの森の奥地に封印されている。その封印の地に行く前に緑には行くべき場所があった。
《どこに行くの?》
「……メノウちゃんの……ところ」
《メノウちゃんって……双子の妹だっけ?》
「…………そ」
だが、緑が向かっていったのはエルフィアの町の中止部からどんどん離れた町外れ。
《緑、また迷ってない?》
「……さすがにこきょうのまちのなかではまよわない……」
イスティル大森林の時とは違い、緑はまっすぐに目的地へと辿り着いていた。緑が訪れたところにあったのはエルフたちが眠る墓地であった。
《もしかして……》
「……うん……メノウちゃんはすこしまえにしんじゃってる」
緑の前世であるヒスイ・ラフォーレの双子の妹。エリスの祖母のメノウ・ラフォーレはすでに亡くなっていた。それは今からつい20年ほど前の話。普通のエルフの寿命は300年程度なので247歳で死んだメノウはエルフとしては早すぎる死であった。
《緑の妹さん、亡くなってたんだね》
「でも……むかしのフィオよりはずっとながいき。むかしのフィオはじゅうななさいでしんだ……から。メノウちゃんはじゅうぶんいきたとおもう……」
緑がエルフィアに来たもう一つの目的は彼女の墓参り。10年振りに訪れたエルフの里でかつての妹の墓に顔を見せておきたいと思っていたのである。
緑はポケットから花の種を取り出すと、魔法で急成長させてお墓に供え、手を合わせる。
《あたしたちは生前の緑は知らないけど、メノウのことは知ってたし、話したこともあるわ》
《綺麗で素敵な人だったじゃんよ》
《いつも緑のことをよろしくって言うてたな》
《亡くなったと聞かされた時は驚きましたわ……》
「……フィオはふろうだから……こういうことはみんなけいけんしてる……フィオはえるふだったからみんなよりもおそかった……だけ」
フィオ・フローライトは不老の神造生物。長い時を生きている彼/彼女たちは実に多くの人の死を見送ってきた。
250年前、ヒスイ・ラフォーレは17歳という幼さでフィオとなった。ヒスイが死んでから230年経って、妹のメノウが旅立った。
緑がフィオになったのは他のフィオたちよりも早かったが、肉親だった者を看取ったのは他のフィオたちよりも遥かに遅かった。
《エルフは長命とはいえ、その命は無限ではありません。しかし、私たちはその限りではない。不死ではありませんが、不老であるため誰よりも多くの出会いと別れを経験します》
《……》
《黒はまだピンと来ないかもしれないけど、これは必ず訪れる……だから心の片隅にでも留めておいて》
《……うん、わかった》
「……じゃあ、そろそろいくね」
双子の妹に挨拶を済ませた緑は町へと戻る。
町ではエリスとクゥがフィオの帰りを待っており、エリスは一人で墓参りに行った緑にご立腹な様子であった。
「おばあちゃん、おばあちゃんのお墓参りに行ってたなら私も誘ってよー!」
「……エリスちゃんは……いつでもこれる……でしょ」
「それはそうだけどさー」
町に戻った時、辺りはすっかり日が暮れていた。今日はエリスの家で休み、明日の朝には森の悪魔──妖樹翁ランウ・タンオが封印されている地に向かうことになっていた。
「ねえねえ、おばあちゃん。明日は私も一緒に行っていい?」
「……あそびにいくんじゃない……んだよ?」
「私も戦えるよー!」
「……おかあさんがいいっていったら……ね」
「やったー!!」
エリスはまるで遠足気分で母親であるセリスの元に許可を貰いに行ってしまう。
《エリスちゃんは元気だね~》
《……明日、妖樹翁の元に向かうのは緑とクゥとエリスの三人か?》
《だね。妖樹翁が相手なら人数はなるべく少ない方がいい。多すぎると連携が取れないし、場合によっては全滅の可能性もあるからね》
《……そんなに。てか、白はそんな奴を倒して封印できたの?》
《……僕の場合は運が良かっただけだよ》
250年前、完全に倒すことは出来なかったが、妖樹翁ランウ・タンオを倒したのは当時フィオ・フローライトだった白。そして、ランウ・タンオを封印したとの話である。
《昔話は……明日、道すがら話すよ》
結局、白はそれ以上話そうとはしなかった。
そんな中、エリスが笑顔で戻ってくる。
「ママがおばあちゃんの言うことをちゃんと聞くならいいって!」
「……おばあちゃん……じゃないから」
エリスはセリスから許可を貰ったらしく、明日のパーティは前述の三名となることが確定したのであった。
《でも、エリスちゃんの案内があれば迷わず封印の場所まで行けるね》
「だから……こきょうではまよわない……よ」




