5-4 かぶとむし
「へえ、クゥちゃんは勇者なんだー!」
「まだ見習いだけどね」
実際の年齢こそ違うが精神的な年齢は同じくらいであるため、クゥとエリスはすぐに仲良くなっていた。
《クゥって誰とでもすぐに仲良くなるよね》
《勇者は仲間と助け合うものだからコミュ力は高い方がいいのよ》
《そういうもん?》
《でも、赤は昔ソロで魔王討伐に行ってたような気がするじゃん?》
《うっさい!》
「……そんなことより……けっかいのなかだからあんぜんとはかぎらない。あのけっかいはもともともりにくらすまものにはこうかがない……から」
《え? つまり……》
「てき……だよ」
最終目的地であるエルフィアの国は森の中心部にあり、そこに至るまでに魔物と遭遇することもある。
緑の懸念通り、早速エルフの森に棲む魔物が姿を見せる。
「わっ! でっかいカブトムシ!」
「クゥちゃん、エルフィア・トライホーンだよ!」
「……こんなところでめずらしい」
現れたのは全長1メートルを超える巨大な三本角のカブトムシ。エルフの森にのみ生息するエルフィア・トライホーンと呼ばれるカブトムシ型の魔物である。
ただし、その生息圏は森のもっと奥の方であり、このような入り口付近で見かけることはなかなか稀なことであった。
《嫌ぁぁぁっ! 虫はあかん!》
《えー? カッコいいじゃん! 捕まえて飼おうよ!》
《黒、あなたはまた! ハルコさんがまた怒りますわよ?》
巨大カブトムシを見たフィオたちの反応もそれぞれ違ってはいたが、向こうはこちらに対し明らかに敵意を向けていた。
《で、どうするの?》
「……たんにおおきいだけのむしだから……ふたりだけでたおせるとおもう」
「えー、おばあちゃんは戦わないのー!?」
「おばあちゃんじゃない……あぶなそうならたすけるから」
イスティル大森林の時と同様に緑はいざという時に備えて後ろに控え、戦いは二人に任せることにする。
《かなりでっかい魔物だけど二人だけで大丈夫?》
《エルフィア・トライホーンは見た通り甲虫型の魔物です。最大の武器は岩をも粉砕するあの三本の角ですかね。確かに強力な魔物ではありますが、エリスさんもいますし大丈夫でしょう》
《エルフの魔法はかなり強力だもんね~》
《クゥもいるしね!》
《クゥは……まあ経験は必要だろう》
こうしてエルフィア・トライホーンとの戦闘は開始された。前衛は勇者見習いのクゥ。そして後衛はエリス。
いきなりクゥに向かってくるカブトムシに対し、エリスは後方から矢を放って援護する。
エリスのクラスは魔法弓士。普通の矢と魔法の矢を場合に応じて使い分けるタイプの魔法にも秀でた弓使いである。
「クゥちゃん、来るよ!」
「了解っ!」
エリスの放った矢を受けても全く怯まず一直線に向かってくるカブトムシをクゥは難なく回避する。猫の身軽さを持つクゥにとっては余裕であった。
「ヴァイン・バインド!」
反転し、再度クゥに向かうカブトムシに対し、エリスは魔法を発動させる。
地面から生やした蔓で相手を拘束する木属性の魔法である。
エリスは拘束魔法を操作しつつ、矢を放って援護を続ける。
《エリスちゃん、器用だねー。流石は緑の孫だね》
「……まごじゃない」
弓矢と魔法を同時に操る器用なエリス。だが、エルフィア・トライホーンは蔓の拘束もそのパワーで引きちぎり、弓矢による援護射撃もその防御力の前には意味がなかった。
《強くない!?》
《虫の王様カブトムシだからこのくらい当然じゃんね!》
《大丈夫、あの二人ならやれるさ》
「……こんかいはフィオのでばんはなさそう……だね」
苦戦するかに思えたクゥとエリスのコンビであったが、そんなこともなかった。
「クゥちゃん、私が畳み掛けるからトドメをお願い!」
「わかった!」
エリスはクゥにそう言うと、弓を構える。そして、同時に魔法を唱えるのであった。
「全ての元素よ、無限の矢となり我が敵を射ぬけ! エレメンタル・アロー!!」
フィオやクゥも扱うことが出来る初級魔法である矢の魔法。その発展系【エレメンタル・アロー】は全ての属性の魔法矢を同時かつ多数発生させるという上級魔法。それは自分の魔力属性以外の魔法矢には強化が乗らないという欠点を補うほどに普通の魔法矢よりも遥かに高い威力があった。
先ほどの普通の矢では全くダメージを与えられなかったが、次々と繰り出される様々な属性の魔法矢はエルフィア・トライホーンの硬い身体に傷を負わせていく。
「クゥちゃん、今っ!!」
エリスが作ったチャンスをクゥは見逃さなかった。クゥは聖剣エクスカリバーを両手で構え直し、高く跳び上がる。
「フレイム・ストライク!!」
火の魔力を聖剣に込めて一刀両断するクゥが使える唯一の必殺技。
炎の聖剣はエルフィア・トライホーンの頭を斬り落とすのであった。
「た、倒せた……」
「やったね、クゥちゃん!」
「……ごくろう……さま」
緑は巨大なカブトムシを倒した二人を労い、改めてエルフィアへと足を進めることにするのであった。




