5-3 おばあちゃん
イスティル大森林を抜けるとまた別の森が広がっている。それがエルフの森。
緑から藍に交代してから一時間。緑が迷った時間も入れると三時間ほどでエルフの森へと到着する。
その道中で何度か魔物に襲われたことも考えるとかなり早いペースである。
「ここから先がエルフの森だ」
「ここから……って、さっきの森とそんなに変わらないですね」
「……見た目はな」
クゥには一見すると森の違いはわからなかったが、実際には大きく違う。
目には見えないが、エルフの森には特殊な結界が張られており、エルフたちに認められた者しか入ることが出来ない。転移魔法で入れないのもこの結界の影響である。
「えっ? どうするんですか?」
「俺たちはすでにエルフに認められているから普通に入れるが……」
「えーと、アタシは?」
「…………」
「だ、黙らないでくださいよっ!」
フィオはもう何度となくエルフの国を訪れているのでそのまま結界を通ることが出来るが、初めて来たクゥではそうはいかない。
「悪いがここで待て」
「ええーっ!?」
「…………冗談だ」
珍しく冗談をつく藍であったが、その冗談は全く冗談に聞こえはしなかった。
《お前真顔でやめーや!》
《クゥが信じちゃうじゃないのよ!》
「……喋れと言ったりやめろと言ったり忙しいな」
《でも、実際どうするの?》
《だいじょうぶ……すでにれんらくずみ……だから》
もちろんクゥがエルフの森に入れるよう対策済みであった。
緑は事前にエルフィアの知り合いに連絡を取っており、クゥが森に入れないか聞いていたのである。
「……緑の縁者が森の入り口近くで待ってくれているという話なんだが」
「緑さんの?」
「とりあえず、緑に代わっておく」
藍はそう言うと身体の所有権を緑に返し、藍色の髪の少年は緑色の髪の少女へと瞬時に変身する。
「……エリスちゃんがきてるはずだけど」
「エリスちゃん?」
「フィオの……」
「お、ば、あ、ちゃーん!!」
そんな話をしていた側からフィオたちの元へと手を振りながら駆け寄ってくる少女の姿が見えた。
年の頃はクゥと同じくらい。緑と同じ長い緑色の髪の少女でその耳は尖っていた。エルフである。
エルフの少女は緑の姿を見つけると思いっきり抱きついてきたのであった。
「おばあちゃん、久しぶりー!」
「……おばあちゃん……じゃない」
「え、えーと……緑さん、この子は?」
「フィオの……ぜんせのふたごのいもうと……のまごのエリスちゃん……だよ」
「エリス・ラフォーレでーす! あなたがおばあちゃんから聞いてたクゥちゃん? よろしくねー!」
「……だからおばあちゃん……ちがう」
そのエルフの少女の名はエリス・ラフォーレ。緑の前世であるヒスイ・ラフォーレの双子の妹であるメノウ・ラフォーレの孫娘。なお、エリスが生まれたのはヒスイが死んでからずっと後のことなのでヒスイとしては直接面識はない。
なお、エリスは緑のことを「おばあちゃん」と呼んではいるが、実際は大伯母と姪孫の関係であり、緑は「おばあちゃん」と呼ばれることをあまり良くは思っていなかった。
《緑、孫いたんだー》
「……まごじゃない。てっそん……」
《てっそん?》
《姪孫……つまり緑の妹の孫ですね。逆に彼女から見れば緑は大伯母になります》
《エリスはおばあちゃんっ子だからね。おばあちゃんの姉だった緑のこともおばあちゃんって呼んで慕ってるんだよ》
「ほんとはまごでもてっそんでもない……フィオはおばあちゃん……じゃないのに。エリスちゃんのことはすきだけど……これだけは……ね」
少し不満げな緑であったが、エリスはお構い無しといった様子で、おばあちゃん久々に会えたことを喜んでいるようであった。
「エリスってアタシと同じくらいに見えるけどいくつ?」
「私? 42歳だよー」
「えっ!?」
「……えるふはにんげんのさんばいはいきるから……にんげんでいうと……じゅうよんさいくらい?」
「あっ、じゃあホントにアタシと同じくらいなんだ」
エリスが42歳と聞いて驚いたクゥであったが、人間年齢に換算すると14歳とエルフとしてはかなり若く、クゥと同い年と言えなくもない年齢であった。
「それじゃあ、クゥちゃん。これを腕に着けてね」
エリスはクゥに宝石が填め込まれた綺麗な腕輪を手渡す。これがエリスがここまで出迎えに来た本来の目的である。
「これは?」
「これを着けてるとエルフの結界に入れるパスだよ。再発行は難しいらしいから失くさないでねー」
「う、うん」
クゥは言われるがままにエリスから受け取った腕輪を装着する。これでクゥもエルフの森の結界を通れることになるのであった。
そして、エリスはエルフィアまでの案内役も兼ねているために、これでもう緑が迷う心配もなかった。
「んじゃ、おばあちゃん、クゥちゃん。そろそろ行こっか!」
「……だからおばあちゃん……じゃない」




