5-1 えるふのもり
「……ねこちゃん、ひま?」
「へ?」
家の掃除をしていたメイド姿の猫耳少女。勇者見習いのクゥ・アイル・ウエスタニアに声をかけたのは珍しく表に出ていた緑の髪にピンクの花飾りをつけ、ぬいぐるみを抱えた緑ジャージの少女であった。
女神の従者フィオ・フローライトの十の魂が一人、緑である。
普段はあまり表に出ず、クゥともそこまで関わりのない緑であったが、今日はクゥにそのように尋ねていた。
「ねこちゃん……ってアタシのことですよね?」
「そ」
「ええと……バイトしてたお店の店長が何故かしばらく店を空けることになって、当分は暇ですけど」
クゥがバイトをしていたのは例のラーメン屋イスルギ亭である。そこの店長であるイスルギはヨーコと共にかつての仲間を訪ねに行ったきりであり、お店も休業中となっていたため、バイトも出来ずにいた。
《あれは……酷い事件だったね》
《酷いというかアホらしいというか。わたくし、呆れましたわ》
《マジで二人して他の街まで行ってるみたいよ? お陰でラーメンは食べられないわ、クゥはバイト出来ないわ、もう散々よ》
ラーメン屋の件はともあれ、緑は淡々と話を進める。
「……じゃあ、じゅんびして」
「準備?」
「たたかえるじゅんび。ちょっととおでする……から」
「は、はい」
クゥは掃除を切り上げると、言われた通りに聖剣と冒険用の肩掛け鞄を手に取り、鞄の中に回復薬など必要なものを詰め込んでいく。
《緑が珍しいね。どこに行くの?》
「えるふのもり」
《エルフの森!?》
「……そう」
《あー、もうそんな時期か》
《んじゃ、しばらくはうちには帰れないじゃんね》
《桃ちゃんがお弁当作っておいたから緑ちゃん持って行ってね~》
「……ありがと」
緑も桃が用意していたお弁当の包みをジャージの収納空間へとしまい、冒険の準備を進める。
《ところで、エルフの森ってどこにあるの?》
《以前フェンリルを探しに行ったイスティル大森林の更に先ですね。ただ、エルフの森の周りにはエルフたちによる特殊な結界が張られているので転移魔法で直接は行けません。イスティル大森林から歩いて行く必要がありますね》
《……しかし、大丈夫か?》
《クゥなら大丈夫でしょ。最近ちょっとずつだけど修行も出来てるし》
《……いや、彼女じゃなく緑の方だ。あいつは……》
《あー》
《ま、何とでもなるやろ。いざとなったらうちらが出ればええ》
何やら不安なこともあるらしいが、緑は転移魔法を使用し、クゥと共にイスティル大森林の出口付近まで一気に移動する。
「わっ、もう着いたんですか!?」
「……まだ。ここからはあるき。まものもでるからきをつけて」
「わ、わかりました!」
イスティル大陸南部イスティル大森林。以前黒が訪れた時は森の途中までしか行かなかったが、この大森林を抜けるとまた別の森が広がっている。
それこそがエルフの森。森の中央にはエルフたちの国であるエルフィア王国が存在しており、緑の行きたい場所もそこであった。
《それで……エルフの森に何の用なの?》
「……さとがえり」
《え? 里帰りって》
《ああ、緑の前世はエルフなんだよ》
《エルフの国の姫だったそうよ》
《ええーっ!?》
《げんみつにはちょっとちがう》
かつてエルフの王国エルフィアに幼き巫女姫がいた。
名をヒスイ・ラフォーレ。
若くして亡くなり、フィオ・フローライトとなった緑の前世であるエルフの少女。
約250年前の話である。
《緑は白の次にフィオになった古参勢ですからね》
《……おばあちゃんみたいにいわないで》
《おっと、すみません》
《けど、緑はそんなに昔からフィオだったんだ。ん? じゃあ白はもっと前から?》
《僕のことはいいよ。それより緑の話だ》
白ははぐらかすように緑、そしてエルフの話を続ける。
《当時、エルフの国は森の悪魔と呼ばれる脅威に晒されていてね。緑はそいつに殺されたようなものだったんだ》
「……まえの黒とおなじ。むかしのフィオものろいでしんだ」
《呪い……》
「そ、のろい。あ……はなしはひとまずちゅうだん。ねこちゃん、まものだよ」
「えっ!? 魔物!?」
話の途中ではあったが、緑の【魔力感知】スキルは魔物の接近を感じ取っており、同行しているクゥにそれを伝える。
「……ねこちゃん、とりあえずひとりでたたかってみて。だめそうならたすける」
「えっ、わ、わかりました」
緑はクゥの修行も兼ねてその魔物の相手をクゥに任せることにし、後ろで様子を伺うのであった。




