4-10 積年の恨みですわ
「ライジング・スラッシュ!!」
「ファイア・ボム!!」
戦士のイスルギは斧による物理攻撃、魔法使いのヨーコは炎の魔法を主体に戦いを展開させる。
イスルギは完全な物理アタッカー。魔力も魔法や武器に纏わせたりはせずに肉体の強化のみに使っている。
対するヨーコは魔法アタッカー。武器や体術には頼らない完全な魔法使いタイプである。
犬猿の仲である二人は激しい戦いを繰り広げていた。
《どっちが勝つと思う?》
《戦士と魔法使い。近接物理アタッカーと後方魔法アタッカー。難しいですね……互いに得意な距離に持っていければいいのですが》
《同じパーティを組んでいた者同士、互いのことはよくわかっているだろう》
《オイラはヨーコさんを応援するじゃん♪》
《じゃあ、あたしはおやっさんかしら。クゥもお世話になってるみたいだし》
《うーん、わたしはどっちに賭けようかな》
《いや、賭けはしてないから》
フィオたちもそれぞれ戦いの予想をする間も二人の戦いは続いていた。
「逃げてばかりじゃ俺は倒せないぞ!」
「挑発には乗らないわよ。私の魔法の射程はよく知ってるでしょう?」
距離を詰めて斧を当てたいイスルギ、離れて魔法を放ちたいヨーコと二人の思惑は真逆であり、どちらも自分の得意なレンジに持ち込もうとしていた。
「ラーメン屋のおっさんのくせになんてパワー……あの時とそんなに変わらないじゃない!」
「そっちも甘いケーキばかり食ってるから太ったと思ったが、動きは当時のままか」
「なんですって! 誰がデブですって!」
「そこまでは言ってねえ!!」
戦いの最中であっても言い争いはやめないイスルギとヨーコ。
「今はああでも昔は仲良かったんですわよね」
《そうなの!?》
《当時お二人は恋人同士だったと記憶していますが》
《あれれ? 付き合ってたんだっけ? でも何か甘酸っぱい関係だったのは確かだよ~》
《あー、確かそんな微妙な関係だったわね》
《ともだちいじょう、こいびとみまん》
《そんな二人が……いったい何があったんだろう?》
フィオたちも当時のことを正確に覚えているわけではなかったが、今とは違い仲は良かったとだけは覚えていた。
「あなたは絶対に許さない!」
「それはこっちの台詞だ!」
「よくも私のプリンを!!」
「お前も俺のまんじゅう食っただろ!!」
あまりに。
あまりに馬鹿馬鹿しい仲違いの理由に先ほどまで大いに沸いていた会場中の人々はみんな言葉を失ってしまう。
「はい……?」
《プリンとおまんじゅう!? え!? この人たちお菓子の取り合いでずっとケンカしてんの!?》
《な、なんてしょーもない》
《食べ物の恨みは恐ろしいとは言いますが、まさかそれで何年も……とは》
《馬鹿なんか! こいつら馬鹿なんか!》
フィオたちを始め、会場中の観客たちも呆れる中、なおも舌戦は続いていた。
「忘れもしないわ! あれはこれから魔大陸に渡ろうかって前夜!」
「街の人が差し入れてくれたまんじゅうをお前はっ!!」
「あんただって私のプリン食べたじゃない!」
「俺はプリンなんて食ってない!!」
「私だってあんたのおまんじゅうなんて食べてないわよ!」
戦いそっちのけで食べた、食べてないの言い争い。30を超えたいい大人がまるで子供のようにプリンだ、まんじゅうだと言い争う姿はその場にいた全員が呆れるしかなかった。
「あのー」
そんな中、二人の言い争いに司会のリースが割って入る。
「何だ!」
「何よっ!」
「ええと……お二人の話を聞く限りですと、どちらもプリンもおまんじゅうも食べていないんですよね?」
「ああ、プリンなんざ食っちゃいねえ!」
「私もおまんじゅうなんて食べちゃいないわよ!」
改めてそれを確認したリースは思わずため息をついた。
「……では、それは他のお仲間の仕業では?」
「は?」
「え?」
当時パーティを組んでいたのはこの二人だけではない。あと二人──狩人の少年と僧侶の少女もいたのである。
「あいつらかー!!」
「まあ、お二人でないなら別の方を疑うのが筋かと」
ちなみにその二人もイスルギやヨーコ同様に現役を引退しているのだが、二人はその後結婚して別の街で暮らしているとの話である。
「あんにゃろ! 今から行って問い詰めてやる!」
「え? あのー、試合は?」
「行くぞ、ヨーコ!」
「ええ、センパイ!」
二人は試合そっちのけでプリンとまんじゅうの真実を確かめるためにかつての仲間がいる街へと向かって行ってしまう。
そして、舞台の上には司会のリースだけが残されていた。
「えーと……試合放棄と見なし、両者失格とします!」
イスティル武闘会一回戦第八試合はイスルギとヨーコの両名共に試合会場を出ていってしまったため、リースはそのような判定を下す。
「なんというか……」
《いろんな意味ですごかったね……》
《いや、ただのアホや!》




