4-6 初戦ですわ
イスティル城地下闘技場。本来は王国騎士団が訓練の一環として王族貴族の前で御前試合を行う施設であるが、観客席が増設されこういった催し物が行われる際に一般にも開放されることになっている。
観客席は満員御礼であり、観客たちは試合が始まるのを今か今かと待ちわびていた。
「さあ、始まりましたイスティル武闘会! 司会進行及び審判兼実況はこの私、リース・ラインハルトが担当させていただきます!」
拡声魔道具を手に闘技場の中央に姿を見せたのはピンクの髪をポニーテールにしたかわいらしいメイドであった。イスティル城に仕えるメイドの一人、リース・ラインハルトという女性が今回の司会役を担っているようであった。
「それではまずはルール説明! ルールは単純明快! 相手を倒すか、相手が負けを認めた時点で勝利となります! 殺してはダメですのでご注意を! 我が城の優秀な治療術士も死者蘇生は出来ませんので!」
リースが視線を向けた闘技場の傍らには治療術士が数名控えており、戦いで怪我を負った選手は彼らの魔法により回復してもらえるようであった。
「なお、闘技場の舞台と観客席の間には強力な結界魔法が施されていますので観客の皆々様方はどうかご安心を! 逆に観客席から舞台に物を投げても無駄ですので、投げるのは声援だけにしてください!」
観客席の安全は結界術士の魔法により守られているようであった。これは魔法を使う参加者の流れ弾を想定してのものであろう。
「その他の細かなルールや説明等はお手元のパンフレットをご覧ください! まだ購入されていない方は物販にて各種グッズと共に販売中ですのでお帰りの際には是非ともどうぞ!」
ちゃっかり物販コーナーの宣伝もするリース。どうやらこの大会は相当力が入っているようである。
「それでは、早速……試合に移りましょう! 一回戦第一試合!」
リースの合図で闘技場に入る第一試合の対戦者二人。その内の一人はフィオであった。
「まずは東ゲートより! 十の人格を持つ最強の女神の従者! フィオ・フローライト選手です!!」
「まさかいきなりわたくしの出番だなん
て」
フィオは一回戦の第一試合からの参戦であった。出場者の一覧はあったが、対戦の組み合わせは公平を期すべく直前にならないとわからないようであった。
「なお、今回はフィオさんたちの中でもか雷の躍り手! 黄さんが出場されるそうです!」
リースはフィオたちの事情を知っているようで、簡単にフィオの紹介をしつつ、フィオを会場へと呼び込むのであった。
「続いて西ゲートより! 熊殺しの異名を持つマッチョマン! ブレッド・ベイグル選手!!」
「ガハハハ! まさか初戦がこんな小娘とはな!」
対するはブレッド・ベイグルというスキンヘッドで筋骨粒々な大男。2メートルを超えるその巨体はフィオと比べるとまさに大人と子供といった感じである。
ブレッドという男はリースとは逆にフィオのことは知らないようで完全に見下しているようであった。
《うわー、でっかいなー》
《でかいだけじゃ意味ないわよ》
「はあ……わたくしも舐められたものですわね」
《そういえば黄って男の人が苦手らしいけど大丈夫なの?》
「わたくしをどこぞの犬嫌いや虫嫌い、暗所恐怖症や高所恐怖症なんかと一緒にしないでいただけます? 戦うだけなら何の問題もありませんわ」
そう言いながら舞台の中央へと向かう黄。黄とブレッドが対峙すると同時にリースは二人から距離を取る。
「綺麗なドレスなんて着て、ここは舞踏会の会場じゃあないんだぜ?」
「わ、わかってますわよ!」
実際は舞踏会と間違えたなど口が裂けても言えず、ブレッドに反論する黄であったが、ドレス姿なのをやはり少し気まずく感じていた。
そして、間もなく闘いの鐘が鳴り響く。
「それでは……試合開始です!!」
「ガハハハ!! パンチ一発でノックアウトだぜ!」
先に動いたのはブレッド。その巨腕から繰り出される豪快な一撃は確かに熊をも殺せるほどの威力があるのだろう。
だが、彼が相手をしているのは最強の女神の従者が一人。
「雷神掌……ですわ!」
一瞬。
ブレッドのパンチに対しカウンターで繰り出された雷の魔力が込められた黄の掌底の一撃により、ブレッド・ベイグルは一瞬でその場に倒れ込む。
「踊る必要すらありませんでしたわね」
「──き、決まったあああ!! 私も一瞬何が起こったのか分からず実況出来ませんでしたが……ブレッド・ベイグル選手戦闘不能! よって勝者、フィオ・フローライト選手です!」
観客たちもリース同様に何が起こったのかわからなかったようで静寂に包まれていたが、リースによる勝者宣言が行われたことでようやく会場も沸き上がる。
《難なく一回戦突破だね!》
「当たり前ですわ。熊殺しだか何だか知りませんが、弱すぎですわよ」
《問題は次からだ……》
《ロコにイスルギ、ヨーコ、それにカミーユ……こうも転生者が勢揃いとは思わなかったからね》
《イスティル仮面は?》
《それは無視でええ!》
何はともあれ黄は一回戦と突破し、会場の傍らで次の試合を観戦することにするのであった。




