4-4 スイーツですわ
「さあ、ドレスも買いましたし、ケーキでも食べて帰りませんこと?」
「ケーキ! 食べたいです!」
「じゃあ、行きますわよ」
ドレスを買いに行くというメインイベントを終わらせた黄はケーキを食べようと提案し、二人はフィオの馴染みのスイーツ店へと足を伸ばす。
「ここのケーキは絶品ですわよ。それに西区のお店にしては良心的なお値段でオススメですわ」
「パティスリー・ミオですか」
そこはケーキをメインに取り扱っている王都イスティルで一、二を争うほど有名なスイーツ店パティスリー・ミオ。様々な種類のケーキは美味しいだけでなく、値段も東区の店とそう変わらないため黄も気に入っていた。
「あら、フィオちゃん」
「ヨーコさん、ご機嫌ようですわ」
店に入るとコックコートを着た女性店員に声を掛けられる。
彼女はパティスリー・ミオの店主ヨーコ・ミオ。ヨーコはフィオの知人であり、異世界からの転生者の元勇者候補であった
「そっちの子は初めましてね。私はオーナーの弥生陽子。ヨーコと呼んでくれればいいわ」
「は、初めまして。クゥです」
「ん? クゥ……? それにその猫耳とメイド服……」
ヨーコは初めて会ったはずのクゥの顔や服をじろじろと観察する。
「もしかして、ラーメン屋でバイトしてる?」
「え? どうしてそれを?」
「やっぱり! 悪いこと言わないからあんなおっさんの店辞めた方がいいわよ」
「え? え?」
「ああ、ヨーコさんは昔あのラーメン屋のご主人とパーティを組んでいたんですわ」
かつてヨーコは転生してから数年間はイスルギと同じパーティの一員として魔王討伐の旅をしていたという過去がある。冒険者を引退してからはイスルギ同様に王都イスティルに店を構えていた。
「ただ、何があったのかは知りませんが、あのお二人今はめちゃめちゃ仲が悪いんですわよ」
「ええっ!?」
かつてはパーティを組んでいた二人デパートあるが、現在では犬猿の仲といった間柄であった。それは互いの店の業種、立地、客層の何から何まで異なっているのに何故か競いあっているほど。
「もし、あのラーメン屋が嫌になったらうちにおいで」
「は、はあ……」
バイト先のラーメン屋店長と初対面のスイーツ店オーナーとの因縁を聞かされ、クゥは困惑するしかなかった。
「それで今日は何にしましょう?」
「そうですわね。クゥさん、何か食べたいものはありますか?」
「ええと……それじゃあ、オススメをお願いします」
「では、わたくしも同じものを。あとはそのケーキに合う紅茶もお願いしますわね」
二人はその店のオススメケーキを注文するとイートインのスペースに腰を下ろす。
「それで、ヨーコさんはどうしてイスルギ店長と仲が悪いんです?」
「さあ? 本当にわたくしたちも知らないんですわよ。どちらとも何も話そうとしませんし」
「そうなんですか?」
「まあ、どうせしょーもないことでしょうけど」
「しょうもなくて悪かったわね。てか、しょうもなくないし!」
二人の会話を聞いていたのかヨーコから訂正が入る。
同時にケーキと紅茶のセットが運ばれてきていた。
「別にあなたとイスルギさんの仲が良かろうが悪かろうがわたくしは興味ありませんわよ。それより今日のオススメはザッハトルテと……」
ケーキの方はザッハトルテ。異世界出身のヨーコが得意とするチョコレートケーキである。そして、それに合わせた紅茶は異世界ではなくこの世界のもの。
「ボルティアス・ティー……ですか」
「黄さん?」
「いえ、なんでもありませんわ。さあ、いただきましょう」
その紅茶を見た黄の顔は一瞬曇るが、すぐに気を取り直してケーキを食べ始める。
イスティルで一、二を争うというそのケーキの味はとても美味しく、黄を通して感じる味覚はこの店のケーキを初めて食べた黒も大絶賛だった。
《わっ、美味しい!》
「ええ、相変わらず……美味しいですわね。流石はボルティアス・ティーですわ」
《そっち!?》
《黄はその紅茶に思い入れがあるからね》
《そうなの?》
「……ま、そうですわね。このような楽しいお茶の時間に話すようなことではないですけどね」
《話したくないことなら別に聞かないけど》
「ありがとうございますわ」
黄とボルティアス・ティーに何か因縁めいたものがあるのは確かであるが、黄はそれを話そうとはせず、黒もそれ以上は聞かなかった。
「さて、これからどうしましょうか?」
「えと……もう少し他のお店も見てもいいですか?」
「もちろんですわ。それじゃあ、ケーキを食べたらもう少しショッピングを続けることにしましょうか」
ドレスも買い、目的は果たした黄ではあるが、クゥは要望を聞き、まだまだショッピングを続行することにするのであった。




