4-2 ショッピングですわ
王都イスティル西区。フィオたちの家がある東区からイスティル城を挟んだ反対側。ここに黄の目当ての店があった。
「アタシ、イスティルのこっちの方は初めて来ました」
「ここはお金持ち御用達のエリアですものね。わたくしも来るのは久々ですわ」
同じ王都イスティルでも庶民の住宅や大衆的な店舗が並ぶ東区とは異なり、西区は貴族やお金持ちたちの住宅や高級店舗が建ち並ぶエリアとなっていた。
黄はたまにショッピングで来ることはあるが、そこまで頻度は多くない。クゥに至ってはイスティルに来てから初めて西区を訪れていた。
《わたしも初めて来たよ。こっちの方ってこうなってたんだ》
《普通に生活するだけなら東区だけで事足りますからね。黄のように買い物目的でなければ、たまに貴族の方から依頼があるのでそれ目的で訪れるくらいですか》
《こっちはお高い店が多いから庶民のうちらには縁遠いねん》
《庶民……女神の従者なのに》
《女神の従者だからよ。別にあの仕事で給料は発生しないから結局はギルドの依頼とかで稼がなきゃいけないもの》
《そうだったんだ……》
《ちなみに黄は浪費家の癖に相当溜め込んでるじゃんよ》
《なぞのしきんげん》
「失礼ですわね! わたくしが普通に稼いだお金ですわよ!」
黄はフィオたちの中でも一番お金を使っているがそれ以上にお金を持っていた。一応、それには理由があるのだが、茶化されたことで黄は思わずツッコミを入れる。
「フィオさん、なんだか見られてる気がするんですけど」
「ま……それは仕方ないですわね」
ジャージの少女とメイド服の少女という変わった二人組は街行く人々の注目を集めるが、それも一時的なもので人々はすぐに気にも留めなくなり自分たちの目的を優先させていた。
「それにしても……この街は平和ですね」
「まあ、他と比べたらそうかもしれませんわね」
そんなイスティルの住人たちを見てクゥは思わずそんな感想を漏らす。クゥの目にはこの西区だけでなく普段生活している東区も含め、イスティルの人々は実に平和に見えていた。
《やっぱり他って酷いの? わたしもイスティルくらいしか知らないんだけど》
《例えば、この大陸の西側にはイスティル王国と肩を並べるのエストニールって大きな国があるんだけどそこは魔王軍とずっと戦い続けてる》
《イスティル大陸の最西端に魔王軍の前線基地があるんだよ~(泣)》
《魔大陸に近くなるとどうしても……な》
《魔大陸?》
《魔大陸アストラル……文字通り、魔王がいる大陸だよ》
忘れてはならないがこの世界は魔王の脅威に晒されているということ。
ただし、その被害は地域によって大きく違う。
世界の中心。かつて神の住まう伝説の地とされていたアストラルと呼ばれる大陸。多くの神や選ばれた人間たちが暮らす聖域であった。
だが、今はそうではない。
平和な聖域であったアストラル大陸は数百年前に突如として現れた魔王。瞬く間に魔王は神々を倒し、現在では神々のいない地となった大陸は魔王や魔族たちが支配しているという。
よってアストラルは次第に【魔大陸】と呼ばれるようになったのである。
そんなアストラル大陸を取り囲むように存在するのが四季の女神の加護が働く四大大陸。
春の女神ハルコリウスの守護する東の大陸イスティル。
夏の女神ナツキルギスの守護する南の大陸サウザード。
秋の女神アキノウェスの守護する西の大陸ウエスタニア。
冬の女神フユミテュスの守護する北の大陸ノストラーダ
それぞれ女神の加護が働いてはいるが、それでも限度はある。魔大陸アストラルに近ければ近いほど魔王の軍勢による被害は大きく、戦火は激しくなる。
この王都イスティルがある東の大陸イスティルは他の大陸と比べると魔王の被害が最も少なく、それ故に街も平和そのものに見える。
「イスティルは大陸の西部側がわずかに魔王軍の支配領域になってるくらいですものね。イスティル大陸は中央を巨大山脈で分断されていますから東側のこの国は魔王の被害の大きい西部側やクゥさんのいたウエスタニア大陸と比べたら遥かに平和に見えるかもしれませんわね」
「それでも街の外はまだまだ危険なんですよね」
「ええ、魔王の影響で普通の魔物も活性化していたりしますから普通の人はなかなか街から出られませんわ」
《あ、もしかしてこの前橙が倒した巨大ダンジョンワームって魔王の影響でおっきくなってたの!?》
《さあ、どうだろう? でもその可能性は十分あるじゃん》
《……たまにああいうのがでてくるからこまる》
《そりゃ普通の人は街の外にはあまり出たくないよね》
「だからこそ……街の中だけは平和なのかもしれませんわね」
笑顔で街行く人々を見ながらそんなことを思う黄。少し思うことはあるようだが、とりあえず今日はショッピングを楽しむことにする。




