4-1 舞踏会ですわ
「ふんふんふふーん♪」
黄色のジャージを着た黄色い髪の少女は気分良さそうに鼻歌を歌っていた。
十の魂を持つ女神の従者フィオ・フローライトが一人、お嬢様気質の黄である。
「黄さん、何か良いことでも?」
そう尋ねるのは黒髪の猫耳メイド少女。
勇者見習いとなった元皇女の半獣人クゥ・アイル・ウエスタニア。現在では赤に弟子入りしてフィオの家に居候している。
彼女はご機嫌な黄にお茶を入れながら何があったのか聞いてみる。
「近々、お城で舞踏会があるそうなんですわ」
「舞踏会……ですか?」
「ええ、わたくしもお呼ばれしたんですの! クゥさんもご一緒にいかがですか?」
「ア、アタシはダンスとかは苦手で」
「あなたも一国の皇女でしょうに」
「で、でも苦手なものは苦手なんです!」
黄がご機嫌な理由は舞踏会。イスティル城で開かれる舞踏会にフィオ・フローライトとして呼ばれており、踊りの好きな黄が自分が参加すると手を挙げていた。
《舞踏会なんてそんなにいいものかな? あ、でも美味しい料理とか出るのならいいかも!》
「はあ……黒、あなたも淑女ならダンスの一つや二つ出来なくてはダメですわよ?」
《えー? わたしはいいよ!》
《あたしもパスだわ》
《……フィオもおどりはにがて》
《オイラも歌は出来ても踊りはなあ……》
《ツッコまへんで。というかまともに踊れるのなんて黄だけやろ》
《桃ちゃんも踊れるよ~?》
《お前は……まあ踊れそうだな》
《桃は何かと器用だからね》
《まあ、舞踏会なら私たちよりは舞踏家である黄が参加した方がいいでしょうね》
ダンスにあまり興味のない他のフィオたちは舞踏会と聞いて、その権利を全会一致で黄へと譲っていた。
「クゥさん、これからお時間ありますか?」
「ええ、今日はバイトもギルドの依頼もありませんし」
「あなたバイトなんてしてたんですの!?」
「そりゃあ……赤姉さんに修業してもらえない日とかは家にいてもやることないので」
「いつの間に……」
赤に弟子入りしたクゥではあるが、フィオは女神の従者としての仕事やギルドの依頼などで家を空けていることが多いため、クゥはその間にアルバイトをしたり、ギルドで簡単な依頼を受けたりして少しではあるがお金を稼いでいた。
「ちなみにバイトって何をなさってるんですの?」
「赤姉さんに修行終わりに連れていってもらったラーメン屋さんがバイト募集していたのでそこで」
「あー、あそこですの?」
《あたしも知らなかった……》
クゥがアルバイトをしていたのは赤も常連である転生者が店主をしているイスルギ亭であった。
「まあ、お時間があるならいいですわね。クゥさん、わたくしのお買い物に付き合っていただけます? 舞踏会用の新しいドレスを買おうと思いまして」
「え? フィオさんってジャージ以外も着るんですか!?」
「いつもメイド服の方に言われたくはありませんわ!」
フィオはいつも女神の力で作られた特別製のジャージを愛用しているが、ごくたまに他の服を着ることもある。
なお、クゥはフィオの家に居候するようになってからはシルフィスから大量に貰ったメイド服しか着ていないため、フィオの家のクローゼットの中はジャージとメイド服だけというおかしなことになっていた。
「というか、あなたも新しい服はいかがです? シルフィスさんから大量のメイド服が届けられた時は流石にドン引きしましたわよ」
「いえ、アタシはあのメイド服気に入ってるんで。なんかデザインかわいいですし」
「……ま、確かにいつもジャージのわたくしが言えた義理はありませんわね。まあ、何か気に入った服や小物があればプレゼントいたしますわね」
「あ、ありがとうございます!」
黄はクゥを誘ってショッピングに出掛けたいと思っていた。舞踏会のために新しいドレスを買うためだ。
しかし、それには他のフィオたちから待ったが掛かる。
《というか、わざわざ新しいドレス買わなくても収納空間にドレスくらいなかった?》
《ありますね。他の服なんて黄くらいしか着ませんから、何年もほったらかしのドレスが何十着と》
《えー? じゃあ、新しいの買わなくてもいいじゃん。勿体ないよー》
「わかっていませんわね。新しい舞踏会には新しいドレスで行かねば失礼というものですわ」
《いや、知らないけど……まあ、黄のお金で買うなら別に文句は無いけどさあ》
「その通りですわ! わたくしのお金をわたくしがどう使おうが自由ですわよ!」
フィオたちの財布にはフィオ全員で共通のものと個人個人で別々のものとが存在する。今回のドレス購入はもちろん黄のポケットマネーであるため、他のフィオたちもそれ以上文句は言えなかった。
ともあれ、黄は新しいドレスを買うため、クゥを連れて街へショッピングへと出掛けることにする。




