3-14 お調子者の終曲《フィナーレ》
「オーイーラーはーフィオー♪ オイラは十人で一人♪ 一人は十人でオイラなーのーさー♪」
王都イスティル。東区広場噴水前。テンガロンハットを被り、橙色のジャージを着た橙色の髪の少年はギターをかき鳴らして歌っていた。
美しいギターの音色に初めは立ち止まって聞く人も多かったが、やはり彼の歌を聞くとすぐさま散っていく。
例のダンジョン引率から数日。橙はついに完成した『フィオのうた』の改訂版を広場で披露していた。
《で、何がどう違うんですの?》
《やっとわたしの部分の歌詞が出来たんだって。わたしもどんなのかまだ聞いてないんだけど》
《……どうせたいしたことない》
《全くやな。しかし、いつもいつもこんな微妙な歌を大勢の前で歌える度胸だけはすごいわな》
「白はまーじめな魔法使い♪ 光の魔法でピッカピカ♪ 赤はねっけつ勇者さーまー♪ 炎の剣はメーラメラ♪」
《ここは赤がごねた部分ですわね。『勇者じゃなきゃ嫌だ』って》
《あたしそんなこと言ってない!》
《……いいや、言ってたな》
橙の歌う『フィオのうた』はフィオたちの歴史でもある。意外にも古参である橙は新しい魂がフィオとなる度にこの歌の詞を書き直してきた。
「橙ようきな吟遊詩人♪ 大地の歌でドッカドカ♪ 黄はわがままお嬢さまー♪ 雷ダンスでシービシビ♪」
《わたくしこの部分には未だに納得言ってませんわ! 何でわたくしだけ『ぶとうか』じゃなく『おじょうさま』ですの!?》
《さあ? そこは橙の拘りらしいですし》
《黄ちゃんもごねる~?》
《いや、もういいですわ……》
『フィオのうた』の黄の部分は橙が初めて書き加えた歌詞でありどうやら思い入れがあるようであった。
「緑はきような人形使い♪ 森のクマさん手の鳴る方へ♪ 青はかしこい学者さん♪ 敵の弱点まーるみえ♪」
《しかし、この微妙な歌も長いこと歌ってるね。橙がフィオになって150年だっけ?》
《そんなに!?》
《でも……フィオや白や藍はもっとまえからいるよ?》
伝説の騎士【ソイル・オレンジスタ】がフィオ・フローライトの魂と同化して150年。橙となった彼は騎士ではなく吟遊詩人として歌い続けている。
「藍はクールな剣士さま♪ 氷の剣でカッチコチ♪ 紫不良な拳士さん♪ はやてのパンチで攻撃だ♪ 桃はあざとい狂戦士♪ 重いいちげき鉄をも砕く♪」
《…………》
《誰が不良や!》
《桃ちゃんあざとくないってば~》
ここまでは今まで橙が新しいフィオが入る度に継ぎ足してきていた歌。
「黒はきけんな召喚士~♪ 闇の力はおっかない♪」
《それ!? ずっと考えててそれ!?》
ずっとどうしようかと考えていた黒の紹介パートは一瞬にしてあっさり終わってしまう。それには黒も思わずツッコミを入れるも、気持ち良さそうに歌っている橙は全く聞いてはいなかった。
「みんなそれぞれ違うけど♪ みんな違ってみんないい♪ オーイーラーはフィオー♪ 一人で十人♪ 十人で一人の女神の従者ー♪ フィオ・フローライトなーのーさー♪」
改訂版『フィオのうた』は歌詞がわずかに変わっているだけで、そこまで大きな変化はなかった。
橙が歌い終わるとパチパチと拍手が聞こえてくる。
「フィオさん」
「ん? ピアちゃんじゃん!」
橙の歌に対し、唯一拍手をしてくれたのはピアであった。ピアは先日、橙が歌を聴きに来てほしいと言っていたのを律儀に守ってくれたようだった。
「すごく面白くて笑っちゃいました!」
「いやコミックソングじゃないんだけど……ま、ピアちゃんが笑顔になったならいいか」
ずっと泣き虫だった少女は橙と出会ってから笑顔となっており、今日も橙の歌を聴いて笑顔を見せる。
ただ、自慢の歌をコミックソング扱いされたことで橙は少しだけテンションを落とすのであった。
《でも、少しだけわかった気がする》
《黒、どうかした?》
《橙が騎士を辞めて吟遊詩人になった理由》
かつてソイル・オレンジスタはフィオ・フローライトの一部となった時に騎士であった自分を捨てて吟遊詩人となった。
しかし、その本質は変わらない。ソイルも橙も人々を笑顔にするために今日も歌を歌うのであった。
《でもやっぱり歌は微妙だね》
「うるさいじゃんよー」
第3話「橙」 了




