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1-4 わたしの名前は

《な、な、何っ!?》

《攻撃!? どこからですの!?》

(シロ)、早く回復を!》

「もうやってる!」


 (シロ)の中の他のフィオたちも何が起こったのかわからず驚きを隠せなかった。

 (シロ)は即座に回復魔法を唱えるも少女の傷は回復することはなかった。

 ただの回復魔法ではない。瀕死の状態からでも全快レベルに傷が回復するフィオたちが使える中でも最高位の回復魔法を持ってしてもだ。


 そして少女を襲った攻撃の正体もすぐに判明する。

 (モモ)により粉々に砕かれたはずの1ミリにも満たないスライムだったものの欠片は動いており、また一つへと戻ろうとしていた。その際に邪魔者を排除するかのように粘弾を放ち、少女の心臓を貫いていたのである。


《迂闊でした。あのスライムは氷結耐性まで持っていたようです。それにあの粘弾……どうやら呪いが付与されていますね。あのスライムは呪いの特性も持っていたようです》

「呪い……それで回復魔法が効かへんのか!」

《あたしたち誰も解呪魔法なんて使えないわよ!?》

《どうするじゃん! このままじゃあかわい子ちゃんが!》

《……いや、もう手遅れだろう》

《おねえちゃん……しんじゃった……?》


 呪いは一時的にではあるが回復を阻害する効果があり、呪いを付与された攻撃で心臓を穿たれた少女を治す術はもうなかった。

 様々な耐性に加え、コアを砕かれてなお死なない生命力に驚異の再生能力。それに加えて高レベルの呪いを付与する特性。

 スライムは弱い魔物ではないとは言ったが、ここまで来るともはや異常である。


《なんなんだよアイツ!》

《強すぎだよ~(泣)》


「……彼女を助ける可能性があるとすれば」

《ま、まさか!》

《確かにあれなら……》

《でもよろしいんですの!?》


 肉体的にはもうほぼ死んでいる。

 このままでは死を待つだけ。

 だが、まだ魂は死んではいない。


「彼女には悪いけど……ここで完全に魂まで死ぬよりは──」


 フィオに残された最後の手段。フィオはこれまでの人生において“九回”しか使った事のない大魔法の詠唱を開始する。


「──女神により喚ばれし無垢なる魂よ。天獄の扉開く前に我が呼び声に応えよ。我と汝の魂を一つにし、共に歩むことを我、春の女神に誓う──」


 (シロ)は詠唱を続けながら、同時に無詠唱結界を張りスライムの攻撃を防ぐ。

 当然、スライムの魔法侵食の粘弾の前にフィオの結界魔法はすぐに消失し、結界が破られる度に新たな結界を張り直していく。


「──ソウル・レゾナンス」


 スライムの攻撃を耐えきり、呪文の詠唱が終わったその時、少女の身体は光の柱に包まれ、その肉体は完全に消失する。

 フィオ・フローライトが長い人生で“十回”しか使わなかった魂の大魔法。


 フィオたちの持つ魔力の大半を代償にして発動するその大魔法の効果により奇跡は起こる。


「──あれ? わたし……」


 白い髪は深淵の闇の如き黒い髪に、ローブは少女がしていたものと同じチョーカーに、そしてホウキは黒い鞭の姿へと変化する。


《ごめんね。こうするしか方法はなかったんだ》


「そっか……そういうことだったんだ」


 魂の大魔法【ソウル・レゾナンス】により死した少女の魂はこの世から完全に消え去る前にフィオの魂と一つになった。

 かつての少女の面影はなくなり、そこには黒髪のフィオ・(・・・・・・・)フローライト(・・・・・・)が立っていた。


「それじゃあ、これからわたしの名前はフィオ・フローライト(・・・・・・・・・・)なんだね。さしずめ、わたしは(クロ)ってことなのかな?」

《まあ、そうなんだけど……》

《やけにあっさり受け入れるじゃん!?》

《前向きというか何というか……でも、嫌いじゃないわ! これからよろしくね、(クロ)!》

「よろしく、みんな──っと」


 他のフィオたちに挨拶を交わす間もなく、スライムの攻撃は激しくなっていた。そんな攻撃を(クロ)はひょいひょいとかわしていく。


「でも、わたしの武器なんで鞭?」

《さあ、そればっかりは君のイメージだから》

「まあいいや。とりあえずやってみる!」

《いきなりで大丈夫ですの!?》

「もう二度と油断はしないよ。スライムはわたしが倒す!」


 粘弾をかわしつつ、虹の記憶(イリス・メモリア)(クロ)の持つイメージにより変化した鞭を振るい、スライムに攻撃を仕掛けていく。


 転生──いや二度目の転生(・・・・・・)を果たしたばかりだというのに(クロ)は自分が思っている以上に思い通りに動くことが出来ていた。


 それはまるで以前から戦い慣れていると思わせるほどに。


「お?」

《これは……》

《攻撃が効いてるじゃん!》

《そうか……彼女の魂、その魔力の属性は【闇】です。闇の力を纏った攻撃ならば呪いの粘弾も逆に無効化出来ます》

「えー? わたし闇属性なの? 何だかちょっと悪そうな感じ…………ま、別にいいけ……どっ!!」


 今までどのフィオの攻撃も効かなかったスライムに対し、(クロ)の闇の攻撃は相性が良く効果は抜群であった。


 だが、攻撃が効くとはいえまだ決定打には欠けていた。


「そうだ、わたしもみんなみたいに魔法! 魔法とか使いたい!」

《……ならばやればいい》

《まほうはたましいにきざまれてる》

《頭に……魂に思い浮かんだ魔法の呪文を唱えるんですわ》

《今のこの身体の魔力なら魔法の一つや二つ使えるはずや。とりあえず思うようにやってみ!》

「んー、わかった!」


 (クロ)フィオは少し考えると鞭を大きく振り回し、その頭上でぐるぐると回転させる。そして、頭に思い浮かんだ呪文を詠唱する。


「闇の魔法……ええと……全てを飲み込む深淵の闇よ。全てを喰らう暗黒の穴を我が前に! ブラックホール!!」

《ブラックホールぅ!?》

《いきなりそんな大技なんて、(クロ)ちゃんすご~い☆》


 魔力を宿した鞭の回転は闇の渦を作り出し、深淵はフィオ以外の全てを飲み込んでいく。

 全ての魔法、物理、ありとあらゆる耐性を持つスライムも【ブラックホール】には一溜まりもなく、全ての破片は闇の中へと消えていく。


 そしてそこにはフィオだけが残った。


「今度の今度こそ終わった……よね?」

《最初に君が言ってた通りになったね》

「なにが?」

《君が覚醒してスライムを倒すって話》

「あー、そういえば……そんなこと言ってたねー。みんな、あらためてよろしくね!」


 こうしてダンジョンの主である恐ろしく強力なスライムは倒される。


 そしてフィオ・フローライトは十人目の魂(・・・・・)をその身に宿すことになるのであった。

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