3-11 新人騎士の協奏曲《コンツェルト》
「冷静に……冷静に」
フィオからダンジョンワームの相手を頼まれたピア。
橙から言われたこともあり、今のピアは冷静だった。
再びピアがダンジョンワームの相手を始めると同時に、橙もギターの演奏を始める。
「マッド・フォール!」
ピアが発動させた魔法は水と土の複合魔法【マッド・フォール】であった。大量の水を発生させるアクア・フォールという魔法の派生であり、土の魔力を加えて泥を生み出す魔法である。
マッド・フォールによりダンジョンワームの頭上から大量の泥が降りかかる。
「フリーズ・ショット」
即座に冷気の弾丸を撃ち出し、ピアはダンジョンワームを泥ごと凍らせる。
もちろんそれで終わるなら苦労はない。
「えっ、もう……!?」
虫が身を震わすとあっという間に氷は砕け、早くも自由の身となる。ダンジョンワームはまたしても地中へと姿を隠す。
「ピア、大丈夫!?」
「クゥさん、みなさん……」
そんなピアの元へクゥたちも駆け寄ってくる。
ゴーレムよりも遥かに大きく強いダンジョンワームにクゥたちが出来ることは何も無いかもしれない。それでも仲間のピンチに黙って待ってはいられなかった。
「フィオさんが演奏を終えるまでの間、ダンジョンワームを足止め出来ればいいんですけど……」
「アタシたちも手伝うわ」
「で、でも……」
「陽動くらいなら俺たちにも出来るさ」
「無茶はしない」
「だからピアちゃん、一緒に頑張りましょう」
「あ、ありがとうございます!」
クゥやアルバートたちもピアに加勢することになり、全員でダンジョンワームの足止めを行うことにする。
とはいえ、ピアの攻撃ですらまともにダメージの入らないほど硬い外皮を持つダンジョンワーム相手には本当に新人たちには困難だった。
「うわっ! 槍が折れた!?」
「こっちもだ……ここまでとは」
ダンジョンワームが地上に出てきた瞬間に同時に攻撃を仕掛けたアルバートとレイズだったが、その外皮にアルバートの槍もレイズの剣も一太刀入れるだけで砕け散ってしまう。
「これならっ!!」
続いて聖剣を持つクゥの一閃。ゴーレムすら両断したエクスカリバーであったが、ワームには通用しなかった。聖剣の性能により二人の武器のように折れることはなかったが、単にクゥ自身の実力が聖剣に追いついていないことが原因であろう。
同時にアーシェが光の矢で援護するもこちらも全く効果はなかった。
「なんて硬さ……!」
「魔法も効きません!」
幸いなことにダンジョンワームは積極的に攻撃しては来なかった。というよりもこちらの攻撃が効いてないため、ただ単に敵として見られていない可能性すらあった。
「……あたしの魔力も残りわずか……どうせ攻撃としては効かないのなら!」
ピアは最後の魔力を振り絞り、とっておきの魔法の詠唱を行う。
「水よ、土よ、氷よ、風よ。四つの力を合わせ持つ大いなる嵐となれ。クアドラプル・ストーム!!」
それはピアの持つ水、土、氷の魔法に加え、適正のない風の魔法をも組み合わせた四重複合魔法。水の矢、土の矢、氷の矢が風の魔法で一つとなり、嵐のように襲いかかるピア・アーモニアの切り札。
それでもダンジョンワームを倒すには至らない。
だが、強力な嵐を受けてワームの動きが一瞬だけ止まる。
「──大地の歌」
そこで橙の魔法も完成する。
「巨人の終焉」
長いギターの演奏が終わった時、地面が競り上がり土の巨人が現れる。それはダンジョンワームと同じくらいの大きさであり、すぐにワームに組み付いていく。
それこそが橙の切り札とも言うべき大地の歌の奥義。土の大魔法【大地の歌・巨人の終焉】である。
《ゴーレムを生み出す魔法?》
《いや、そんな単純な魔法じゃないよ。あれはもっとえげつないものだよ》
それは崩壊の魔法。巨人が触れる全てのものを風化させ砂へと還す恐ろしい魔法である。
巨人に組み付かれたダンジョンワームは全身の水分を奪われ、あっという間に干からびていく。
そして、役目を終えた巨人と共に砂へと還っていった。
「す、すごい……」
「あの虫を一瞬で」
「いやいや、みんなのお陰じゃん♪ ありがとな、時間を稼いでくれて」
新人たちがあれほど苦戦していたダンジョンワームをあっさりと倒した橙。その口調はかつての騎士ではなくいつもの陽気なの吟遊詩人に戻っていた。
「ピアちゃん、お疲れさま」
「フィオさん……ありがとうございました。おじいちゃんの仇を取ってくれて」
「オイラは仇討ちなんてしてないじゃん。オイラはただみんなを守っただけじゃんよ」
「それでも……ありがとうございます、フィオさん」
ピアはダンジョンワームを倒したフィオに改めてお礼を言う。その顔は最初にダンジョンにはいった時の泣き虫な少女のものではなく一人の騎士の顔であった。




