3-10 伝説の追想曲《リコルダンツァ》
《オレ……?》
《ちょっと昔の橙が出ちゃってるね》
《……奴はフィオとなる前は騎士だった》
《あんなのでも……さいきょうのきし》
《そうなの!?》
かつてイスティル王国には■■■・■■■■■■という伝説の騎士がいた。
それこそがフィオ・フローライトになる前の橙。王国最強の騎士だった男である。
「──アイス・キャノン!!」
ピア・アーモニアが繰り出した巨大な氷塊を撃ち出す魔法はダンジョンワームを橙のタイタン・アームごと吹き飛ばす。
ただ、吹き飛ばしはしたもののダンジョンワームにダメージ自体はなく、逆に土の巨腕が破壊されたことで自由の身となってしまう。
「ま、待てっ!」
続けざまに同じ魔法を繰り出すピアであったが、ダンジョンワームは地中に潜って姿を眩ましてしまう。
「ピアちゃん、落ち着くじゃん!」
「アイス・キャノン! アイス・キャノン!!」
祖父の仇である魔物を前にし冷静さを失ったピアは構わずアイス・キャノンを撃ち続けるもダンジョンワームは地上と地下を行き来し、おちょくるかのように攻撃をかわし続けていた。
「ピア・アーモニア!!」
「ぴゃ!?」
そんなピアを止めたのは普段は陽気なお調子者。
橙の普段とは違う口調にピアは驚き、思わず動きを止めてしまっていた。
「ピアちゃん、騎士たるもの常に冷静に」
「で、でも……」
「でもじゃない。冷静にならないと大切なものは守れない。ピアちゃんのおじいちゃんは立派な騎士だったよ。常に冷静でみんなを守ってた」
それはかつて騎士だった男の言葉。
■■■・■■■■■■という男は異世界からの転生者ではない。【勇者】のスキルも持ってはいなかった。だが、当時の勇者と肩を並べる実力者であり、勇者のパーティに加わり魔王討伐の旅に参加もしていた。
【勇者】のスキルが無くとも仲間たちの盾代わりにはなるだろう。そう思っていた。
「でも、オイラは守れなかった……あの時のオイラも冷静じゃなかったからな」
思い出される前世の記憶。
約150年の昔、■■■・■■■■■■は魔王との戦いで仲間を一人、また一人と失い、そして友であった勇者をも失った。
最強の騎士であったのに彼は守れなかったのである。
《──でも何でそんな橙が吟遊詩人なんてやってるの?》
《……奴は魔王との戦いで大事な仲間を失った》
《それから一人で魔王と三日三晩戦い続けて》
《そのあと……フィオたちがくるまでずっとうたってたんだよ》
《え?》
──戦って、戦って、戦って、守れず、更に戦って、戦って、戦って、そして気付いた。
『いったい何をやっているんだろう?』
──と。
「あんなでっかいダンジョンワームから街を……人々を守りきったピアちゃんのおじいちゃんは本当にすごいよ」
「うん……おじいちゃんは伝説の騎士オレンジスタみたいにすごい騎士だったんだよ」
「いいや、オレンジスタなんかよりずっとすごいと思うよ」
伝説の騎士オレンジスタ。■■■・オレンジスタは仲間全てを失ったあと、一人で魔王と戦い、そして──歌った。
魔王の攻撃を耐えながら■■■は歌った。下手くそながらも好きだった歌を歌い続けた。
騎士は人々を守り、笑顔にするのが仕事である。
それは歌で人々を笑顔にする吟遊詩人も同じ。
《で、橙は何で歌ったの?》
《さあな。やけになったのか、それとも》
《魔王をも笑顔にしようとしたのか》
《なんにせよ……しぬまでうたってた》
■■■は魔王相手に三日三晩歌い続け、そして死んだ。女神の従者フィオ・フローライトが来る瞬間までずっと。
「大地の歌・巨人の槍」
橙は地面を隆起させ石の槍にてダンジョンワームを串刺しにしようとするも、その硬い外皮には全く通じなかった。
「この程度の魔法じゃ流石に無理か」
《橙、あたしが代わろうか? 謹慎の期間もうちょい長くしてもいいから……あんな虫けらあたしの火力なら!》
「ありがとな、赤。でも、最後までオイラにカッコつけさせて欲しいじゃん!」
もちろん手が無いわけではない。巨人の槍クラスの魔法が通用しないならば、それ以上の威力の魔法をぶつければいい、ただそれだけの話である。
だが、簡単な演奏で発動できるこれまでの橙の魔法とは違い、強力な魔法にはもっと長い演奏が必要になる。
「……騎士ピア・アーモニア殿!」
「え? は、はい」
突然、フィオに畏まった呼ばれ方をされたピアは困惑しながらも返事をする。
「恥を忍んで貴殿にお願いいたす! 暫しの間、あの虫の相手をお願いいただけないだろうか!」
「は……ううん。こ、心得ました! フィオ・フローライト殿!」
橙はかつての騎士としての口調でピアに時間稼ぎを要請する。橙の大魔法が発動するまでの間、ダンジョンワーム相手に時間稼ぎが出来そうなのはこの中ではピアしかいなかった。
そんなフィオに対し、ピアも騎士として応えるのであった。




