3-9 泣き虫の小夜曲《セレナーデ》
ピア・アーモニア。前イスティル騎士団長の孫娘にして最年少で騎士となった天才少女。
《──しかし、あの子を見とるとアーモニアの旦那を思い出す。アーモニアの旦那の件は残念やったな》
《あれからもう一年か》
《それってピアちゃんのおじいちゃんだっけ? 何があったの?》
《アーモニア前騎士団長は魔物から人々を守って殉職したんだ》
《そう……なんだ》
そんなピアの祖父であるイスティル騎士前騎士団長ピオリム・アーモニアは一年前に殉職していた。
「──アイス・アロー!」
ピア・アーモニアは氷の矢をゴーレムの足目掛けて射出し、動きを止める。
「ひっぐ、ひっぐ……ク、ク、ク、クゥさん……い、今です」
「わかった!」
ゴーレムの動きが止まった所で、クゥがゴーレムの身体を駆け登る。猫獣人の血を引くクゥは非常に身軽であり、あっという間にゴーレムの頭上まで到達していた。
「アイス・アロー!」
駄目押しのアイス・アロー。今度はゴーレムの腕を凍らせ、追撃の手を止める。
「フレイム・ストライク!!」
クゥは聖剣エクスカリバーに火の魔力を込めてゴーレムを両断する。現状のクゥが使える唯一にして最大火力の必殺剣。もちろん、師匠である赤の火力にはまだまだ遠く及ばないが、エクスカリバーの攻撃力もあり初心者用ダンジョンのボス程度なら一撃で葬ることが出来た。
クゥの一刀両断により、ゴーレムはコアごと真っ二つとなり、土へと還っていく。
「よっしゃ!」
「……ふぅ、終わったか」
「やりましたね!」
ピアのアシストもあり、ゴーレムは無事に討伐された。
「ピア、ありがと!」
「……ご、ごめ」
「ごめんは無し! ピアは何も悪いことしてないんだから」
「…………うん」
ずっと泣いていたピアであったがその言葉を聞き、ようやく泣き止んだ。クゥはアシストしてくれたピアとハイタッチし、これによりこのダンジョンもクリア──
「ん? この魔力は……」
──とはどうやら行かないようであった。
ゴーレムは確かに倒したが橙の【魔力感知】スキルは高い魔力反応を感じ取っていた。
《なにこれ!?》
《フラグ回収が早すぎますわ!》
《……やっぱりばぐってる》
「とりあえず……大地の歌・巨人の盾!」
何が来るのかはわからないが、橙は岩壁を発生させ、その場の全員をガードする。
「みんな、下がるじゃん!」
フィオたちが感じた魔力量は明らかに新人たちがどうにかなる相手では無さそうで、橙は壁を発生させると新人たちを下がらせる。
《どうする? わたし出ようか?》
「ま、しばらくはオイラがやるじゃん。守るのはオイラの役目だからな!」
そして、すぐにそれは現れる。
ダンジョンの奥から壁を食い破るように姿を見せる巨大な口。
それはまるで蛇のような龍のような生物だった。
《蛇……いやドラゴン?》
《いや、あれは……》
《いやあああ! キッモ! 無理! キッモ!!》
それは巨大な虫。芋虫だった。
《紫はもしかして》
《せや! 虫や! 虫はあかん! あんなキモいんは勘弁や!!》
《まあ、あんなに大きなミミズ? イモムシ? は引くよねー》
《……というか大きすぎですわ! 通常のダンジョンワームの何倍あるんですの!?》
フィオたちの眼前に現れたのは【ダンジョンワーム】という大きな芋虫。
だが、大きなと言ってもそれは普通の芋虫と比べての話。通常の個体は30センチかそこらで地面の下や洞窟などに棲み、土や石などを食べているような魔物である。
しかし、目の前にいるダンジョンワームは明らかに全長10メートルはあり、まるで土龍と見紛うような巨大な個体であった。
巨大なダンジョンワームはあっという間にフロアの半分を食い破っていく。
「あ、あ、あ……う、うわあぁぁぁぁん!! おじいちゃぁぁぁん!!」
そんな巨大な虫を見たピアはまたしても泣き出してしまう。
《ピアちゃんも虫が苦手なのかな?》
《いや、たぶん違う》
《一年前、ピオリム氏が戦った魔物が巨大なダンジョンワームだったんです。孫娘であるピアさんもそれは知らされているはずですからね》
《じゃあ、あれはピアちゃんのおじいちゃんの仇?》
《あんな巨大なダンジョンワームの目撃例は過去に一件しかありません。それは例のピオリム氏と戦ったダンジョンワーム……そして、そのダンジョンワームはトドメを刺される前にどこかへ逃げたという話ですから、あれがピオリム氏の仇という可能性はかなり高いですね》
《じゃあ、あれはダンジョンが生み出した魔物じゃない……?》
「それはまだわかりませんが……ダンジョンの外から来た個体の可能性も十分ありますね」
かつて、元騎士団長ピオリム・アーモニアはとある街を守るために巨大なダンジョンワームと戦って殉職したという。
そんな祖父の仇である魔物が目の前に現れたのだからピアが泣き出すのも無理はなかった。
「ピアちゃん、落ち着くじゃん!」
ダンジョンワームが眼前に迫っていたが橙は全く動揺してはおらず、ギターをかき鳴らす。
「黒、ちょっと魔法借りるじゃんね」
《え?》
「大地の歌・巨人の剛腕」
《あーっ! パクられたー!!》
以前、黒がフェンリル相手に使ったティターンズ・アーム。闇の腕ではなく土の腕という違いこそあったが、似たような巨腕を生み出す魔法を発動させてダンジョンワームの動きを封じる。
「みんな、一ヶ所に集まるじゃん!」
橙の魔法がダンジョンワームを押さえている間に、全員が橙の側へと集結する。
「橙、あんな大きなのどうするの!?」
「あれはオイラが倒すじゃん。みんなは手を出さないように」
「ひっぐひっぐ……おじいちゃん」
おそらくダンジョンワームは新人たちには倒せないだろう。そう判断した橙は新人たちに戦わないよう指示を出すのだが、ピアはその話を聞こうとはしなかった。
ピアは泣きながらではあるが、大剣を手に携え、ダンジョンワームに向かっていた。
ダンジョンワームは祖父の仇。そのような行動に出るのは当然だろう。
「ちょ、ちょっと!」
「大丈夫、大丈夫。みんなもピアちゃんも絶対にオレが守るじゃん♪」
橙は全員を守るためにピアを追い、ダンジョンワームへと向かうのであった。




