3-8 ゴーレムの受難曲《パッション》
「たあっ!」
クゥの繰り出した一閃がスライムをいとも容易く両断する。
先ほど手に入れた伝説の聖剣エクスカリバー。この剣を装備したクゥは新たに会敵したスライムをあっさり倒していた。
《これは武器の性能のおかげよ? クゥ自体はまだまだ弱いことを自覚しないと!》
《……お前はいつまで引きずってるんだ。それならあの剣は彼女から取り上げてお前が使うか?》
《いや、流石にそれは師匠の面子が……》
《赤ちゃん師匠も複雑だね~》
弟子の活躍と伝説の聖剣。やはり師匠と勇者に揺れる赤の心境は複雑なものがあり、クゥがスライムを倒すのを素直に喜べないでいた。
《しかし、このダンジョン……ハルコさんのことですから、もしかすると他にも何かやらかしがあるかも知れませんよ?》
《怖いこと言うなや! フラグにしか聞こえへんやん!》
《出てくるはずのない魔物が出てきたり、ボスがめちゃくちゃ強かったり?》
《だからそれがフラグや!》
《まあ、何にせよこの依頼が終わったら一度ハルコさんに報告が必要だね》
《……きんきゅうめんて》
今の所は出るはずのない武器以外に変わったことは起きてはいないが、このダンジョンはハルコさん製であるため、また何か別のやらかしがあるのではないかとフィオたちは警戒していた。
《ところでこのダンジョンのボスは何でしたかしら? わたくし、全然覚えてませんわ》
《ここは確か……ゴーレムですね》
《ゴーレムってあれだよね! なんかでっかいやつ!》
ふわっとした知識だが黒もそ の魔物のことはなんとなく知っていた。
土や岩などを利用し作られた巨大な人形兵器。それが【ゴーレム】である。
《ええ、まあだいたい合ってます。ゴーレムのは最大の特長はその巨体。初心者が一人で相手をするにはなかなかに厳しいですが四、五人で組んで戦うのならば丁度良い相手でしょうね》
《なるほど、チームワークを試すためのボスなんだね》
《あのハルコさんがそこまで考えてダンジョンを作ってるわけないですわ!》
《……てきとうめがみ》
「ま、何にせよボスフロアまでもうすぐじゃん」
ともあれ、一行は出てくる魔物を倒しながらダンジョンを奥へ奥へと進んでいく。
そして辿り着いた最後の大広間。そこに鎮座している巨人の姿があった。それこそがこの初心者用ダンジョンのボスとして設定されたゴーレムである。
「あれがゴーレム……」
「実物は初めて見たけどでっかいなー」
ゴーレムはフィオたちが近づくことで起動する。
立ち上がったゴーレムは10メートルほどの大きさがあり、全身が土で作られているタイプのものであった。
「んじゃ、オイラは見てるからみんなで力を合わせて頑張るじゃん♪」
「って言ってもあんな大きなの……」
クゥは大型の魔物と戦うのも初めてであり、ゴーレムの巨体に戸惑っていたが
それでも剣を抜き、戦闘準備を整える。
「俺とレイズ、クゥちゃんは前衛! アーシェとピアちゃんは後衛からサポートよろしく!」
「了解」
「わかった!」
「任せて!」
「……う、うん」
班長のアルバートが指示を出し、それぞれゴーレムから適切な距離を取る。前衛の三人がゴーレムのヘイトを集めつつ攻撃し、後衛の二人が魔法でサポートというスタイルで戦闘を開始する。
《……で、どないな感じや?》
「と言うと?」
《あのゴーレムだ。何か変わった所は無いか?》
《あー、わたしがボスがめちゃくちゃ強かったりとか言っちゃったもんね》
「んー、外から見た感じだと特に変わった所のない普通のゴーレムっぽい感じじゃん。土塊のゴーレムは岩や鋼のゴーレムよりは弱いから初心者用としては適切なレベルではあるんだよなあ」
例のエクスカリバーから一気にハルコさん製のダンジョンのやらかしが他にもあるのではないかと思っているフィオたちはボスのゴーレムの強さも本当に適切なものか疑念を抱いていた。
橙の見立てでは普通のレベルのゴーレムのようだったが、新人たちはどうやら苦戦しているようだった。
「うわっ……と!」
ゴーレムは動きは遅いが、その体力、攻撃力、防御力はかなり高い。ゴーレムの強靭な腕から放たれた強力なパンチを前衛の三人は上手くかわしつつ攻撃を仕掛けるも、その防御力の高さになかなか攻撃は通らなかった。
「硬!」
「迅雷刃!」
「シャイニング・アロー!」
レイズの雷撃剣とアーシェの光の矢。同時に食らってもゴーレムはびくともしなかった。
《みんな結構苦戦してるみたいだけど、これでも普通なの?》
《まあ、ゴーレムとしては普通ね。あの子たちにはちょっと厳しいでしょうけど、決して勝てない相手じゃないわ》
「と言うか、ピアちゃんはちょっと手を抜いてる感じがするじゃん」
《え?》
《確かに……あの子ならゴーレムも瞬殺出来てもいいくらいの実力はありそうだけど》
橙や白が気になったのはピア。先ほどまでは魔物を瞬殺していたピアであったが、今回は後方から弱めの魔法でサポートするに専念しているようだった。
《あの子は何がしたいのかしら?》
《彼女は……たぶん、すごく不器用なんだよ。仲間思いではあるんだろうけどね》
《どういうこと?》
《……あの子はちゃんと言われたことをやってるんだよ。スライムの時は自由にやれって言われたから真っ先に倒したし、ガーゴイルの時はクゥが苦戦していたから助けるために行動した。今も言われた通りにサポートに徹してる》
《あー、そういう。それは確かにちょっと不器用だわ》
ピア・アーモニアは言われたことをしっかりとやる素直な子であった。ただ、少し言葉足らずでありそれが何を考えているのかわからないという印象を抱かせていたのである。
「騎士として命令に従うのはある意味正解ではあるんだけどなー。でも、あの子には騎士として一番大切なものが欠けてるじゃん」
《というと?》
「笑顔じゃん♪」
《笑顔……?》
そんな橙の言葉とは裏腹にピア・アーモニアはいまだに泣き止んではおらず、泣きながらも他のメンバーに対するサポートを行っていた。




