3-3 ダンジョンの行進曲《マーチ》
「それじゃあ、あとよろしく」
王都イスティルを出て数時間進んだ西の丘陵地帯。そこにイスティル王国騎士団御用達の初心者用ダンジョンが存在していた。
シルフィスは今回の参加者を例のダンジョンへと案内すると、他に用事があるらしくさっさと帰ってしまう。
「あー、シルフィスさん、もう帰っちゃったじゃんよ」
「橙、入らないの?」
「あー……んじゃ、行きますか!」
クゥやほか騎士団の新人たちもダンジョンに足を踏み入れるのを確認すると、橙も早速ダンジョンへと入っていく。
なお、ダンジョンと言っても様々な種類がある。自然の洞窟、人が作った遺跡、魔王が生み出した脅威。
そして、これは女神が人間に試練を与えるために作ったもので、一定間隔で魔物やアイテムなどが自動生成され、中の魔物も外には絶対に出られないという特別仕様なダンジョンであった。
中でもこのダンジョンはレベルの低い者に合わせて調整された初心者用のダンジョンであり、ある程度のランクの魔物やアイテムしか生成されないというものである。
つまり、騎士団の新人たちにはうってつけのものでこのダンジョンで新人研修を行うのがイスティル騎士団の毎年の恒例行事となっていた。
《へえ、このダンジョンってハルコさんが作ったやつなんだ》
《たぶん……そう……だと思いますわね》
《たぶん?》
《いえ、このダンジョンは私たちが生まれるずっと前からあるらしいですからね。ハルコさんも自分がどこにどのダンジョンを作ったかなんていちいち覚えていないらしいですし》
《あー、確かにハルコさんなら覚えなさそうだもんねー。ん? あれ? どしたの、橙?》
ダンジョンについて話していたフィオたちであったが、その最中、黒は橙の様子がおかしいことに気付く。
ダンジョンに入った橙だったが、数歩進んだところで一歩も動かなくなっていたのである。
「く……」
《く?》
「暗いじゃんよー!」
《えっ!?》
ダンジョンに入ったばかりだというのに橙は震えてしまっていた。
《まさか橙って》
《せや、あいつは暗所恐怖症。つまり暗いところが苦手なんや》
《ええーっ!? それなのになんでダンジョンの引率役なんて引き受けたの!?》
暗さに怯え、一歩も動こうとしない橙。引率役がこれではクゥを始め、他のメンバーも呆れたり心配したり様々な反応を見せる。
《はあ……仕方ないなあ》
白は今回は橙に任せるつもりであり表に出るつもりはなかったが、思わず彼と交代することにし、橙色の髪の少年は一瞬で白色の髪の少年へと変化する。
「イルミネイト」
そして白はすぐさま照明魔法を唱え、ダンジョンを明るい光で照らしていく。
「あっ、明るくなった!」
「おお! こりゃあ松明要らずだな」
「あ、白さん」
「クゥ、ごめんね。橙がみっともない姿を見せて」
「ねえ、橙じゃなく白さんが代わりに引率役やってよ」
「うーん、でもこれは橙が頼まれた仕事だから。それじゃあまたね」
やはりクゥの態度は橙の時とは態度が違っていた。
だが、白も今日はこれ以上は手を貸すつもりがなく、クゥの頼みを申し訳なさそうに断って橙へと身体の所有権を戻す。
「さあ、張り切っていくじゃん♪」
「…………」
白の魔法で辺りが明るくなった途端、橙のテンションはあっさりと回復する。その様子をクゥはジト目で見ているのであった。
《橙ちゃんもしっかりしてほしいよね~》
《しかし、橙が暗いところが苦手なんて意外だね。赤の犬嫌いも相当だったけど》
《あ、あたしのことはいいでしょ》
《まあ、みんな一つ二つ弱点くらいはありますわよ》
《黄は何が苦手なの?》
《そんなの言うわけないでしょう!》
《……黄はおとこのひとがにがてなんだよ》
《緑、バラさないでもらえます!?》
《あれ? でも男の白たちは平気なんだね》
《そりゃあ……もう何百年も一緒にいますし、何より自分自身みたいなものですもの。流石に慣れもしますわよ。あくまで他の男が苦手……って、何を言わせるんですのよ!》
赤や橙、黄だけでなく他のフィオたちにもそれぞれ弱点や苦手なものは存在する。
それを聞いた黒は逆に羨ましく思ってもいた。転生してから数日、黒はいまだ自分のことがわかっていなかったのである。
《でもいいよね、わたしは自分が何が苦手かすらわからないから》
《……お前は料理だろう?》
《なにが?》
《……いや、いい》
自覚があるのか無いのか、黒は料理が苦手という事実を認めようとはしなかった。




