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1-3 フィオとゆかいな自分たち(後編)

「……仕方ありませんね」


 緑の髪は澄みわたる水のような青色の髪に、花飾りは銀縁のメガネに、そしてぬいぐるみは分厚い本の姿へと変わる。


「私もフィオ・フローライト。通称(アオ)と申します。以後お見知りおきを」

「ど、どうも」


 (アオ)と化したフィオはメガネが似合う知的な少年だった。(アオ)は少女に挨拶を交わすとスライムに向き直る。


「さて、どうしますか。あのスライムは通常の個体よりも遥かに耐性が多い。しかも相手からの攻撃エネルギーを自らの進化へと利用する。流石に……私の水魔法だけではどうしようもありませんね」


 (アオ)は敵の分析を得意とし、魔法も扱うことの出来る学者。頭の良さと冷静さは他のフィオ以上であり、(アオ)はスライムをじっくり観察し作戦を練る。


「皆さん、ここからは連携で行きましょう。まずは私が行くので(アイ)、すぐに続いてください」


 (アオ)は本を開くと、すぐさま魔法を発動させる。


「アクア・フォール!」


 (アオ)の水魔法【アクア・フォール】は自らの【魔力増幅】スキルとその手に開いた魔道書(イリス・メモリア)の【魔力増幅】効果が掛け合わさって通常よりも遥かに性能が向上し、スライムの頭上には超大量の水が降り注ぐ。


 もちろんそれだけではスライムにダメージは与えられない。


「──氷刃剣(ひょうじんけん)氷閃(ひせん)

「えっ? えっ?」


 次の瞬間、(アオ)が繰り出した怒濤の水はスライムごと凍りついてしまう。

 それには少女も一瞬何が起こったのかわからなった。


 青色の髪は冷たく深い海のような藍色の髪に、メガネは藍色の着流しに、そして本は一振りの刀の姿へと変わる。


 (アオ)から即座に替わった(アイ)は氷の魔力を纏わせた刀による絶対零度の一閃【氷刃剣・氷閃】にて(アオ)の水を瞬時に凍らせてスライムをその中へと閉じ込めたのである。


 (アイ)は寡黙な氷の剣士。その剣の腕前による戦闘能力はフィオたちの中でも一、二を争うほどである。


(ムラサキ)……次はお前だ」


 (アイ)は即座に次のフィオへと交代する。


「任せときっ!」

「また変わったよー!」


 藍の髪は風に吹かれる菫の花のような紫色の髪に、着流しは白い特攻服に、そして刀は手甲(ガントレット)の姿へと変化する。


「行くで! 紫獅(しし)烈風拳(れっぷうけん)!!」


 (ムラサキ)は姉御肌で人情家の拳闘士の少女。拳に風の魔力を込めて戦う速攻型アタッカー。

 (ムラサキ)は両の拳を連続で叩き込む【紫獅烈風拳】で(アイ)が凍らせた氷をスライムごと砕いていく。


「オラオラオラッ!! さあ、トドメや! ぶちかましたれっ! (モモ)っ!!」


 そして、そのまま最後のフィオへとバトンは渡される。


「は~い☆」

「九人目!?」


 紫の髪はかわいらしい桃の花のような桃色に、特攻服は大きな白いリボンに、そしてガントレットは巨大なハンマーへと変わる。


「フルメタル~」


 (モモ)はかわいい容姿や言動とは裏腹にあらゆる重量武器を扱う狂戦士。鋼の魔法で武器や自分を強化し一撃必殺で勝負を決めることを得意とするパワーファイターである。

 (モモ)は鋼の魔力を込めた巨大ハンマーを大きく振りかぶり、凍って砕けたスライム目掛けて一気に振り下ろす。


「インパクト~☆」


 (モモ)の必殺の一撃【フルメタル・インパクト】により、スライムだったものは木っ端微塵に砕け散る。

 (アオ)から始まった怒濤の連続攻撃に少女はぽかーんと見ているほか無かった。


「やったね~☆」

「お、終わったの?」

「終わったよ~☆」


 次々と姿を変えながらスライムに攻撃を加え、九人のフィオ(・・・・・・)はようやくダンジョンのボスであるスライムを倒すことに成功する。


「でも、どういうことなの?」

「──それは僕から話そうか」


 桃色の髪は雪のような純白の髪に、リボンは黒いローブに、そしてハンマーはホウキの姿へと変化する。

 フィオは少女が一番初めに出会った白髪のフィオへと戻っていた。


「僕の中には僕を含めていくつもの魂がある。魂を切り替える度に表に出てくる魂の人格の姿へと変化する……それが僕たちフィオ・フローライト(・・・・・・・・・・)なんだよ」

「えーと、多重人格……みたいなもの?」

「んー、まあそんな感じだと思えばいいよ」

「ふーん、じゃあローブがマントや帽子に変わってたのは?」

「このホウキと同じ虹の記憶(イリス・メモリア)さ。武器になるか防具になるかの違いだよ。まあ防具と言ってもそこまで高い防御力があるわけでもない単なるオシャレアイテムみたいな使い方だけど」


 フィオはそう言いながらホウキとローブを一度虹色の玉の姿へと戻して見せると、再びホウキとローブへと戻して身に付け直す。


「さて、ボスも倒したことだしこんなダンジョンからはさっさと脱出──」


 油断しているつもりはなかった。

 スライムにも完全にトドメを刺していた。


 ……はずだった。


 だが、まだ終わってはいなかった。


「──っ!?」


 背後から放たれた悪意の一撃は少女の心臓を貫いていた。

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