2-12 自称勇者と勇者の夢
《うちでって……うちはペット禁止なんじゃあ》
《いやいやいや! お姫さまをペット扱いすんなや!》
《……ねこちゃんだけど、ねこじゃないよ》
《でも、びっくりだよね~。まさかクゥちゃんがお姫さまだったなんてね~☆》
赤の提案はクゥを自宅に住まわせ、勇者として育成するというもの。つまりはクゥを赤の弟子にするというものであった。
《勇者はいいけど、僕たちも忙しいから掛かりっきりで彼女の修行とかは出来ないよ?》
《そうだよ、ちゃんとお世話できるの?》
《お前はペット扱いやめーや!》
《というか、あなたはフェンリルのお世話をちゃんとしなさいな》
《……とにかくだ。まだ彼女の意見を聞いていない。話はそれからだ》
「……そうね」
問題はクゥの気持ち。
いくら赤がそう提案しようが、他のフィオたちが了承しようが、まだクゥの気持ちを聞いていない。
「クゥはどうしたい?」
「アタシは……」
祖国を追われた元皇女クゥ・アイル・ウエスタニアはフィオの問いかけに即座に答えることが出来なかった。
行く場所のない彼女にとってフィオの提案はありがたいものではあるが、勇者がどうこうという話は寝耳に水だったため、本当にどうしたいのかわからなかった。
「ま、一旦あたしの家に行きましょうか
。決めるのはそれからでも」
「いや、あなたはこれから牢屋行きよ?」
忘れてはならないのは赤は現在拘束中であり、これから投獄予定であるということ。
赤にはこれからたのしい獄中生活が待っているため、クゥを自宅に住まわせたり、勇者として育てるという以前の問題である。
「まぁ……本来であればクゥ皇女は我が城で保護したいところではあるが、ウエスタニア帝国との外交上の問題もあるのでそう簡単に首を縦には振れない」
《どういうこと?》
《クーデターとはいえ、現在のウエスタニア帝国はクゥさんの兄である新皇帝が治めています。イスティル王国としてもクゥさんを匿って今のウエスタニアと事を荒げたくはないでしょうからね》
シルフィスとしてもクゥの扱いには困っていた。赤の提案を聞き、彼女も少し思う所があるようであった。
「ならば女神の従者たるフィオ・フローライトに預けるのが得策か」
「だったら!」
「ふむ……じゃあ二時間だけ猶予をあげるわ。クゥ皇女をあなたの自宅に送り届けたらまたここに戻って来なさい。戻らなければ罪が増えるわよ?」
「わ、わかったわよ」
シルフィスの粋な計らいにより、フィオの拘束が解かれ、特別に一時帰宅が認められる。
自由の身になった赤はクゥを自宅に連れて帰ると──
二人で風呂に入っていた。
《わかっとると思うけど男子は感覚遮断しとくんやで!》
《特に橙、クゥさんの裸を覗いたら承知しませんわよ?》
《な、何でオイラだけに言うんだよ!》
《……橙はぜんかがあるから》
なお、紫と黄の厳命により、男のフィオたちはしばらくの間は感覚遮断を言い渡される。特に橙に向けてのものではあるが。
「あのフィオ姉さん……」
「ん? どしたの?」
「何で一緒にお風呂に?」
突然家に連れてこられただけでなく、服を脱がされ、浴室に入れられたクゥはいまだに戸惑いを隠せずにいた。
「そりゃ二人とも疲れてるし、汚れて汗もかいてるからね。それにあたしはしばらくお風呂入れそうにないし」
「……それにアタシが勇者って」
「あの魔族……あいつは弱いとはいっても勇者にしか倒せなかった。今のあたしじゃ無理……でもクゥには出来た」
「それは……」
確かにクゥは【勇者】のスキルを持っているのだろう。だが、その実力の無さは自分が一番よくわかっていた。
フィオが弱いと言い放った例の魔族に殺されそうになり、トドメを刺せたのもフィオが極限までダメージを与えていたためである。
そんな自分が勇者と言われても困惑する他なかった。
「確かに今のあんたはめちゃくちゃ弱いわ」
「う……」
「あたしはね……女神ハルコリウス・アヴァロンの従者として数多くの【勇者】を見てきた。でも、そんなあたしが一番可能性を感じたのはクゥ……あんたなのよ」
「な、なんで……」
「さあ? まあ、あたしの勘みたいなもんだから」
そう言いながら、赤はわしゃわしゃとクゥの髪を洗う。
《でも、赤は本当は自分が勇者になりたいんじゃないの?》
《……ま、それはそうですわ。それでも赤は本当に魔王を倒せる可能性のある者に自分の夢を託してもいいと思ったのでしょうね》
《勇者の夢……かあ》
クゥの身体を綺麗に洗った赤は一緒に狭い湯船に浸かる。
「とりあえず、しばらくはここに居ていいわ。あとで合鍵を渡しとくわね」
「……ありがとう、フィオ姉さん」
まだクゥにもどうしたいのかはわからないが、ゆっくり考える時間は必要だろう。そのためにも赤はここに滞在することを勧めたのである。
《……カッコつけてるけど、この後牢屋暮らしなんだよね?》
《ええ、少なくとも一週間は出られませんわ。いつものことですけど》
《シルフィスはんが裏で動いてくれるとは思うけど、毎度毎度のことやからなあ》
《……ゆうしゃしっかく》
何を言おうが、赤が逮捕投獄されることには変わりなく、他のフィオたちも呆れるしかなかった。




