2-10 自称勇者と勇者の一撃
「さて、これ……どう言い訳しようか」
《無駄ですね。そもそもあのような強大な魔法を使わずともあの程度の魔族はもっと弱い魔法や技でも倒せていましたし》
《……お前は獄炎伯を倒した時の再現がやりたかっただけだろう?》
《まあ、あの時みたいに自爆せずにクゥと自分を守ったことは誉めるけどさ……二度とやめてよね?》
かつて■■■■が獄炎伯を同じ方法で倒した時はほぼ自分の命すら犠牲にした自爆特攻であった。
相討ちと言えば聞こえはいいが、魔王との戦いを獄炎伯に邪魔された怒りによる暴走のようなものであった。
前回の反省を生かし、最後まで冷静に防御魔法を使ったことだけは白も誉めるものの、それ以外の行動には静かな怒りを見せていた。
「ま、言い訳は後で考えるとして……クゥ、帰りましょうか」
「フィ、フィオ姉さん……」
クゥの方へと向き直り、声をかけた赤であったが、クゥはまだ怯えているようであったため、思わず振り返る。
かつて獄炎伯を倒したのと同じ魔法で今の獄炎伯を倒した。
だが、■■■■と赤には決定的な違いがあった。
「……あちゃあ。忘れたわ」
《な、何でっ!?》
あれだけの大爆炎と大爆発を食らい、その肉体は消滅した。だが、まだ魂までは砕けてはいなかった。
そこにはかつてフェルド・イブールだったものの魂とも言うべき怨霊が立っていた。
「はぁはぁ……ま、まさか私をここまで追い詰めるとは……先代様を倒したというのもあながち嘘ではなさそうですね……」
《なんか幽霊っぽくなってるけど!?》
《魂が実体化したんや》
《迂闊でした。先の獄炎伯よりは弱いとはいえ魔王から二つ名が拝命された魔族。魔王の力の一端を分け与えられているんです》
《つまり?》
《魔王の完全耐性ほどじゃないから【勇者】スキルがなくても肉体にダメージは与えられるけど、その魂は【勇者】スキルがないと完全には倒せない……ってことかな》
《えっ!? それじゃあわたしたちには倒せないじゃん!》
《いきなり大ピンチだよ~》
■■■■と赤の一番の違いは【勇者】スキルの有無。
獄炎伯のように二つ名持ちの高位魔族は魔王の力の影響で【勇者】スキルがないとその魂までは消滅させられない。
【勇者】スキルの無い今の赤──フィオ・フローライトでは獄炎伯フェルド・イブールを真の意味では倒せなかった。
《ちなみにあれ倒せないとどうなるの?》
《魔族は肉体が滅びても魂が無事ならいずれ肉体も復活しますわ》
《けど、そうして復活した魔族は今より遥かに力を増すって話やから今のうちに倒しておきたいところなんやけど……》
「あたしたちは誰も【勇者】スキルを持ってない!」
おそらくフェルドの肉体が復活してもフィオたちとの実力差はまだ十分に開いているためまた倒せはするだろう。
だが、それは肉体での話であり、魂を砕く術を持たないフィオたちにとっては根本的な解決にはならなかった。
《せめて一撃……一撃でも【勇者】の攻撃を与えられれば、今の奴の魂なら倒せるはずですが……》
《今から誰か【勇者】の知り合いを呼ぶとか? あー、でも今からじゃあとても間に合わないじゃん!》
「くっ……! 何であたしは勇者じゃない!!」
「……どうやらあなたに私の魂は砕けないようですね。ならば!」
フェルドはフィオが自分を完全には倒せないと知るや否や、霊体となった身体をフィオへと向かわせる。
「しまっ──」
「とりあえず、あなただけはここで確実に殺しておかないと!」
「フィオ姉さんっ!!」
フェルド・イブールの最後の抵抗。ゴースト系の魔物のように霊体を操ってフィオの身体の自由を奪い、そのまま取り殺すつもりであった。
「ア、ア……アクア・アロー!」
「何をするかと思えば」
フィオを助けようとクゥは残っていた最後の魔法カードを発動させる。それは水属性初級魔法のアクア・アロー。
いくら弱体化しているとはいえ、もちろんそんな攻撃などフェルドには通用するはずがなかった。
避けるまでもない。フェルドにとってもそう思わせるほどに弱い魔法である。
「……がっ!?」
普通ならそのような弱い魔法でどうにかなる状況ではない。
《こ、これは……!》
《まさか!》
どうにかなるとするならば【勇者】のスキルを持つ者による攻撃のみ。
勇者の繰り出したアクア・アローはフェルド・イブールの魂に突き刺さり、そしてそのまま魂を砕く。
「【勇者】スキル……!」
「へ? なんのこと?」
まだ自分では何が起こったのかわかっていないようであるが、【勇者】のスキルを持つクゥの手により獄炎伯フェルド・イブールは完全に消滅した。
「あはははは! まさか、あなたが勇者だったなんてね」
「な、なんのことかわかんないけと、フィオ姉さんが無事で良かったよ」
赤は呆然としているクゥを抱き寄せ、その頭をわしゃわしゃとかき撫でる。それには赤に懐いているクゥもどこか嬉しそうであった。




